七海ななみ
2026-02-21 22:07:58
2598文字
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出会う前に結婚した①

ルカキリ。二人とも出会う前に政略結婚して、荷物ぶちまけの時が初対面になる夫婦のお話。フリンズはカントです。実装前は好き勝手に書いていいって聞きました。結婚しろ。してたわ。ちなみに政略結婚の背景は清田さんにご協力していただきました。せんきゅう!

物音がほとんどしない夜明かしの墓で、ガシャンと大きな音が鳴り響く。何があったのか、そう思いながら近づくと、大柄の男が荷物をぶちまけていた。

「大丈夫ですか?」
「え、ああ。すまない」

慌てている男の荷物を拾うのに手伝う。にしてもかなり大柄だ。僕よりも大きい人など、早々いない。鋼鉄のような筋肉も纏っている。ただ者ではないだろう。
荷物を拾うと、男に大層に感謝された。

「手伝ってくれてありがとな! 助かった!」
「礼には及びません。何故この辺りに来られたのですか?」
「なに、通りすがりの観光客さ」

ウインクしながら告げられた言葉に胡散臭さが纏っている。シンプルに怪しい。

「俺はファルカ。お礼をしたいので、名前を教えて貰えないか?」
……………は?」
「おいおい、なんだよその反応。ただ名前を教えてほしいだけなんだが」
……………僕は、キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズ、です」
……………は?」

互いに顔を見合う。驚きが隠せていない。
だって、文通していた伴侶と、初めて会ったのだから。


──────────


ファルカ大団長は厄災を防ぐために遠征に出向く準備をしていた。それはそれとして頭を抱えている問題があった。モンドに滞在しているファデュイの問題、即ちスネージナヤとの外交問題である。
表向きにはモンドを守るため、という風になっているが、あくまでファルカ自身がモンドにいる間は大人しくしているだろう。だが、遠征に赴いたら何をするかわからない。そのため、スネージナヤの女皇と交渉を進めていく内に、スネージナヤの貴族と婚姻を求められた。
女皇曰く、スネージナヤとモンドの関係が、今よりももっと強固で親密な関係であると対外的にも他国にアピールを行いたい。その証として、大団長であるファルカが、スネージナヤの貴族と婚姻をするように求められた。そしたら、モンドに滞在しているファデュイを撤退させてもよい、と。
貴族名簿を手渡され、相手を探すことになったファルカだが、見合いをしている時間はない。相手の人となりが不明のまま、進めるしかない。なら、取れる手段は女皇寄りでない貴族であれば、こちらとしても要求が通るであろう。
そこで、貴族名簿を調べた結果、スネージナヤから去ったとされるキリル・チュードミロヴィッチ・フリンズ、という貴族と婚姻を結ぶことにした。名前からして男性でありそうだが、女皇に確認したところ、フェイは性別を変えられるので問題はない、ということだった。
経緯を書き、相手の貴族に手紙を送る。了承が得られるかは賭けだった。
だが、意外にも了承を得ることができた。こうして、政略結婚が成立し、ファルカは名前しか知らない伴侶を得ることになったのだ。


─────────


いきなり女皇から手紙が届いた時は破り捨てたくなった。録な事でない予感しかしない。手紙を読み進め、予感は確信になった。なんだ婚姻とは。ふざけているのか。併せて婚姻相手の手紙も届いていた。どれだけ汚い言葉を使って断ろうかと考えていたが、手紙を読み進めていく内に考えが変わった。
武骨な字だったが、婚姻する経緯についてこと細やかに説明されており、手紙の最後には、

『急にこんなことを頼んで申し訳ない。嫌だったら断ってくれてもかまわない』

と、大団長という地位に似つかわしくない謙虚な言葉が添えられていたのだ。こういう人間は嫌いではない。
人間だから精々50年くらいの付き合いであろう。少し付き合うのも悪くないかもしれない。
返信を送ると、了承してくれたことの感謝と、互いを知るために文通を続けたい申し出があった。
まあ、暇潰しには丁度いいか。
ニキータに事情を説明するといたく驚かれたが、祝福してもらえた。念のため、名前を変えるか聞かれたが、丁寧にお断りした。
ファルカは遠征でモンドから離れているため、月一回のペースで手紙が届いた。
思ったより几帳面な男だ。各国の様子や、故郷のモンドの事、酒豪な事、いろいろとやり取りをした。気がつけば、ファルカとの文通を心待ちにしている自分がいた。
ある時、手紙と一緒に小箱が送られてきた。中を開けると骨董品の指輪があった。

『骨董品収集が趣味と聞いた。これは古典商から買い取ったものだ。フォンテーヌの貴族が身に付けていたとされる指輪だそうだ。よければ受け取ってほしい』

サファイアの宝石が輝く、素晴らしい品であった。
骨董品を眺め、どの歴史を刻んでいたか想像する。
そういえば、この指輪は、ファルカを知っているのか。
ちょっと、羨ましいかも、しれない。
いや、何を考えているんだ僕は!
あの騎士らしい男を知る指輪に嫉妬していたなど、らしくもない。疲れているのだろう。
手紙と指輪を丁寧に仕舞う。もう少し落ち着いたらゆっくり眺めよう。
そういえば、手紙にはナタにたどり着いたとあった。もう間もなくナドクライに来るだろう。
なら、顔を合わせる時も近い。そう考えると胸が踊る自分がいた。


───────


確かに、顔を合わせたことのない伴侶だ。でも、誠実さや騎士道を大切にしていることはわかっていた。
まさか、こんなうっかりで、軽薄な男とは思ってなかったが。

「これは失礼しました。僕の伴侶と同じ名前でしたので、驚いてしまいました。僕の伴侶は“観光客”ではないので、人違いでしたね」

にっこり笑いながら返すと、ファルカは慌てたようにしていた。

「お、おいおい待て待て!!」
「“観光客のファルカ”さん、ナシャタウンはあちらになります。お気をつけてお帰りください」

暗に、さっさと帰れ、そう告げて背を向ける。そうすると背後から“観光客”が声を上げていたが、早足に自室に向かう。

…………馬鹿馬鹿しい」

そう呟き、ランプの中に閉じ籠る。
勝手に理想を押し付けていたのは、こちらだというのに。
ちらり、と手紙と指輪を仕舞っている場所を見やる。
仕舞い損ねた指輪が机に出されており、サファイアの宝石があの観光客の瞳と同じ色だった事に気付く。
明日、仕舞えばいいか。そのまま意識を落とした。



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