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ぷの
2026-02-12 07:08:31
11121文字
Public
レイチュリ🍰
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同じ船に二人と三匹
同棲し始めたばかりのレイチュリの小話まとめ。
※結婚しています。
P1 - 足音(🛁)
P2 - 終の極地で駄々をこね(🛁)
P3 - 羽を一枚(🦚)
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【羽を一枚】
羽を授ける話。
ぽつぽつと降り始めの雨音のようなメロディが聴こえて、アベンチュリンは浅い眠りから目を覚ました。
サイドボードに手を伸ばして端末を操作し、すぐ折り返す旨の定型文を相手に送る。それから、腰に回されているレイシオの腕をポンポンと軽く叩いた。
一緒に暮らす前、同じベッドで眠ると、レイシオはアベンチュリンを抱え込んで離さなかった。朝まで一緒にいると約束しても信じてなかったんだろう。実際に夜明け前にベッドから抜け出してレイシオを置き去りにしたことが何度もあったから、気持ちはわからないでもない。
約束を破ったアベンチュリンをレイシオは責めなかった。その代わり、繰り返すほどにシーツの上で手加減をしなくなっていった。意識が落ちるくらいくたくたにさせたあと、ただでさえ重たい腕が拘束具かと思うほどアベンチュリンの腰をがっちりと固め、勝手にどこかへ行くなと言い聞かせた。
セックスをした夜に後ろから抱き込まれて眠るのは、一緒に暮らし始めた今も変わらない。でも、レイシオの様子は変わった。
「ごめん、仕事が入った。向こうで話してくるよ」
小声で説明すると、頭の後ろから聞こえる健やかな寝息がふっと乱れる。大丈夫、今は深い眠りの時間だ。ややあって、すっとレイシオの腕が持ち上がり、体が自由になった。
これが一緒に眠るのが日常になる前と後の大きな違いだ。睡眠を削って仕事をするなと頑なに弛まなかった腕が、アベンチュリンの意思を尊重してくれるようになった。
レイシオはこの寝室でアベンチュリンの睡眠時間を計測している。少々の寝不足は休日に帳尻を合わせればいいと鷹揚に構えるようになったんだろう。なお、外で仮眠をとった等の自己申告は全く信用されない。身から出た錆だ。
そろそろと腕の中から抜け出し、音を立てないようにベッドを降りて端末を掴む。
ささやかな物音で目を覚ますアベンチュリンには考えられないことだけど、レイシオはこの程度で起きやしない。呼びかけに応じているのは夢うつつらしく、起きると不思議と覚えていないのだ。時間に関係なく仕事の呼び出しがあるアベンチュリンからすると、その泰然とした眠りがとてもありがたい。
健やかな寝息に耳をそばだてる。うん、よく寝てる。無防備で可愛い寝顔だろうな、キスしたい。でも我慢だ。なぜかキスをすると起こしてしまう。もしかして、お姫様なのかな?
そうだ、抜け出したアベンチュリンの代わりに枕でも差し込んでおこうか。レイシオの安眠のためにはきっとそうした方がいい。だけど、自分のために確保された場所をそんなもので埋めるのは嫌だと思い直した。戻ってから、ほかほかになった枕を乱暴に引っこ抜いて床に捨てたくなりそうだ。
眠り姫に後ろ髪を引かれながら、アベンチュリンは振り返らずに寝室を出た。廊下でふるりと身を震わせる。家中快適な温度に設定されているとはいえ、レイシオの体温をもらっていた体には少し肌寒い。
自室で仕事を片付けて、アベンチュリンはこそこそと寝室に戻った。
実は今でも、レイシオの眠りを妨げないように朝まで外で時間を潰そうかと考えるくせは抜けない。そのたびにこの家に来てすぐの会話を思い出して振り払っている。
『なぜ君は、夜中にベッドから出ていくと戻ってこないんだ?』
『急な呼び出しはだいたいがトラブル処理で、終わる頃には夜明けなんてことも多いからさ。それに、一度起きるとしばらく寝つけないんだ。そばでもぞもぞして君を起こしちゃったら悪いし』
『何時になってもいい。起こしても構わないから、用が済んだら戻ってこい。僕を一人にするな』
『えっ? あー、それって
……
寂しくさせてごめんね?』
『わかればいい』
あのとき、アベンチュリンを一人にしたくないと言われていたら、きっと行動を改めなかった。恐いものなんて何もなさそうな大男が拗ねた様子で『僕を』一人にするなと言うから、面食らって、胸に刺さって抜けなくなってしまったのだ。
明るさに慣れた目では、ほぼ真っ暗な寝室の中は見通せない。うっすらと見えるレイシオのシルエットがやけにこんもりとしている気がする。
起こしてしまっただろうか。いいや、かすかに聞こえる呼吸はしっかり寝息だ。
目をこらしながら足音を殺して慎重にベッドに近づくと、おかしなシルエットの正体がわかった。アベンチュリンが抜け出した時のまま、レイシオが腕を上げていたのだ。翼を広げたように上掛けを支え、アベンチュリンが戻ってくるのを待っている。
石膏像にすり替わってるなんてことは
……
なかった。口元に手をかざすと温かい呼気が触れる。本物のレイシオだ。
なんとこの男、しっかりと眠っていながら、無意識でアベンチュリンはここにいるべきだと主張しているのだ。腕が疲れるのも、不愉快な寒さも厭わずに。そりゃあ空気椅子で読書やチェスをするくらいだから、腕一本を浮かせてキープするくらいなんてことないだろう。とはいえ。
アベンチュリンの膝から力が抜けて、ベッドの横にしゃがみこんだ。下から見上げる空洞は、サーモカメラを通さなくたって暖かいとわかる。低くて優しい声に「おいで」と呼ばれた気がした。
レイシオを一人にしたくない。できることなら必ずここに帰りたい。
アベンチュリンは奥歯をかみしめて、静かに深い呼吸を繰り返した。そうしてあふれだした感情をなだめてから、慎重にレイシオの腕の下に体を滑り込ませた。
あるべきぬくもりを検知したレイシオの寝息が再びふっと乱れる。大丈夫、抜け出していたのはわずか十数分、今はまだ深い眠りの中にいる。レイシオの質の良い眠りは周期を外れない。
レイシオは背を向けたアベンチュリンの体を抱き寄せて、ぴったりと体をくっつけた。うなじに鼻先を埋め、すうっと息を吸い、ふうっと吐く。レイシオが吹きかけるくすぐったい熱は、アベンチュリンのお腹の奥に残っていた燃えさしに酸素を送った。
以前のアベンチュリンなら、ちりちりとじれったく炙られることに堪えられず、レイシオを起こしていただろう。でも、アベンチュリンもまた変わった。
レイシオとの夜は日常になったのだ。口実を作らなくても、時間を捻出しなくても、毎日当たり前に訪れる。もう一晩のうちに焦って貪る必要はない。おあずけは明日の夜までだ。
睡魔よ来いと目を閉じる。ところが、瞼の裏にアベンチュリンのために広げられた翼が焼きついていて、眠気はやってきそうにない。
『無理に寝ようとしなくていい。目を閉じて、僕に合わせて呼吸してみろ』
喉につまっていた熱い息を細く吐き出して、意識して体の力を抜いた。すると、お腹に当てられたレイシオの手がトン、トン、とやわくアベンチュリンを叩きだした。
レイシオの深層意識がアベンチュリンに甘すぎやしないか。もしかして、一緒に暮らし始めたあたりからずっと夢なのかな? 自分にこんな甘い夢を見る才能があるとはとても思えないけど。目覚めたら一人で冷たい地面の上に転がっているとしても、この夢を見られたのなら悪くない。
いつか、レイシオとの別れを惜しむときに思い出すのは、こんな瞬間だろう。光円錐にも写真にも残せない密やかな、アベンチュリンだけの幸せ。
アベンチュリンもレイシオに夢のような思い出を残せるだろうか。幸運なんてまがいものじゃなく、自分の手でしてあげられることで、何か。
優しい記憶を羽にして、レイシオの胸元に飾りたい。この先、アベンチュリン自身がそばにいられなくなっても、吹きつける向かい風を一緒に受けて、レイシオの険しい旅路を慰められるように。
今日またレイシオがくれた特別柔らかな一枚が、これからのアベンチュリンをふんわりと励ましてくれるように。
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