スプーンひと匙分のお話を

✦作品集
 ミニイベント「マリアージュにはひと匙のお名前を」



Ep.1 ブラック・ジャック

「次は勝てるように頑張ります!」
 そう微笑むクローシェ・フォルカーを見て、相手の男も「ではもう一戦お願いします」と添えて、微笑んだ。
 ヴェリテス城内のサロンにて催されているささやかなゲームパーティは、予想よりも多い人数が楽しんでいるように見受けられる。そもそもが交流の場として設けられているからこそエルダー同士であろうと、姫君同士であろうと、皆が楽しめるように徹する使用人達の助力も大いにあるだろう。
 このゲームの場では「簡単に名乗ってはいけない」がルールとして存在する。名を知りたい場合、どの様なものでも構わないがゲームを行い相手に勝つ必要があるのだ。だからこそ、あちらこちらで楽しそうな声が上がる。勿論、そのルールも厳密ではなく楽しむ為のささやかなものであるから、知り合い同士であればショコラを摘みながら名を呼び合う事もある。
 けれど、今クローシェとその前にいるエルダーの男は現行一方通行の状態だ。男は対等を望むから、彼女に対してもう一戦を申し込んだ。
 遊んでいるのは簡単なカードゲームだ。共通の名称として形式的にブラック・ジャックとこの場では表記する。単純に手札の合計を二十一にする遊びだからこそ、運が左右するゲーム。確率論であったり、カウンティングの手法も無いとは言えないが、この場では公平性の為そういった事を行いにくくする仕掛けが施されているとかいないとか。だからこそ、一度だけでは分からない。必ず勝つとも、必ず負けるとも言えないのだから。
 スッと手元に流れて来るカードの数字を見て、男は考える。現在の手元は合計十二。絵札さえ来なければ問題はない数字だ。視線をでクローシェへ向ければ、彼女も何やら考えている様子が伺える。
「ヒット」
「私も、ヒットお願いします!」
 このゲームは本来ディーラーとゲストの対決形式なのだが、ここではディーラーはカードを配るだけの役割に徹している。主体が「交流」であるからだ。するりと滑るように流れて来たカードを捲り、男は眉をふっとハの字に下げる。
「残念です」
 その言葉を受けたクローシェは、負けたのかと思ったかもしれない。だが、その考えは次の言葉で覆される。
「来なければと思っていたものが来てしまった」
 男の手により開示された三枚のカードの合計は二十二。ここで、クローシェがバーストを起こしていなければ彼女の勝ちが確定する。
「私の合計、十八……です!」
 一枚ずつ丁寧に並べる彼女の手札の合計はその言葉通りである。
「では、あなたの勝利だ」
 男は満足そうに微笑んで、手を胸元に置き彼女を見据える。
「エリュアール国カールフェルト公爵が三男、クリスティアンです。改めて、よろしくお願いします。クローシェ嬢」
 小さな花が穏やかな陽気で綻ぶような笑顔を向ける彼女に向けて、クリスティアンは会釈をする。