スプーンひと匙分のお話を

✦作品集
 ミニイベント「マリアージュにはひと匙のお名前を」




Ep.0 プロローグ


 プルーヴェリテに到着して数日が経った頃、使用人から一通の封筒を預かった。
 使用されている封蝋は実家の刻印ではなく、最近目に馴染むようになったヴェリテス城内でで使用されているものだった。何かあったのだろうかと、短剣を模した銀製のペーパーナイフでその封を切り中を確認する。
 そこには、城内にあるサロンで開催されるパーティへの誘いが書かれていた。しかもゲームパーティときている。
 ほう、と思いながら読み進めていたら、面白い文言が目に入る。
『互いに名前を知っていても知らなくても、すぐに名乗ってはいけません。
 ここでは「勝っても負けてもゲーム後、対戦相手にだけ名前を教える」のがルール』
 何とも興味深い。純粋にそう思った。
 知らないからこそ、知る為に。
 知っているからこそ、呼ぶ為に。
 どうあってもゲームと言う共通の媒体があるからこそ、言葉が苦手な者でもきっかけを作ることが容易くなるだろうそれは、非常に私の興味を引いた。
 ゲームは好きだ。遊びから学ぶことは非常に多い。明確なルールの中で思考を巡らせることの楽しさ。勝つ為の方法を自身の中で組み立てることの難しさ。カードゲームの場合は運が絡む事も多いから、それはそれで楽しいのだけれど。
 持ち込みも許可されているとあるから、きっと様々なゲームが集うのだろうと思うと、思わず口角も上がってしまうというものだ。そう思いながら窓を開け、神力を込めて作り出した尾長の鳥に向かい言葉を投げる。
「クリスです。誰が受け取るか分からないから、いつも通りに話すよ。数日後に少々面白い催しがされるみたいでね。私の部屋にある盤上のゲームを一つ、ここに送って欲しい。どこに保管してあるか分からなければ、べスペラントに聞いてくれ。以上だ。よろしく頼むよ」
 そう言って、鳥のくちばしに指を当て「頼んだよ、伝えておくれ」と重ねて口にして、東の方へと飛ばせば、風と一体になって消える。きっとすぐにでも届くだろうと確信をしつつ、その日を待つ。