なえつき
2026-02-04 17:59:49
3761文字
Public 『ムシカゴ』
 

Dear Light

水樹蒼さん ( https://www.pixiv.net/users/68015841 ) が主催された、カラメルカラム同人アンソロロジー『クリプティック・シンドローム!』に寄稿させていただいた小説の再録になります。少部数ながらまだ在庫があるとのことなので、ご興味がある方は是非。とても良い本です。 ( https://royalrooibos.booth.pm/items/6492995 )

この度は、素敵な合同誌に参加させていただき、ありがとうございました!

 
 塔が真ん中から半壊したその姿は、まるで巨大な籠のようだと、クリスはそんな印象を抱いた。
 トリカゴ。
 本拠地である地下研究所――ムシカゴから地上に出て半年以上が過ぎ、ようやく辿り着いた目的地の名称である。
 同行者は、今回の調査の発起人であるナーシャと、その助手。この二人に加えた戦闘員として、リン、クリス、J。以上五名が、今回の調査に赴いたメンバーであった。

……周辺に異常なし。近くに街獣はいません」

 壁に耳を当て、匂いをかぎ、つぶさに周囲を観察する。常人より強化された五感を駆使して、トリカゴ内の索敵を行うのはクリスだ。

「ありがとう、クリス。あなたが断言するなら間違いないわね」

 安心したように胸をなでおろすナーシャに、褒めてもなにも出ませんよ、とクリスが首を振る。

「ああ、流石、五感の鋭さに限って言えば、アタシらの中でも抜きん出てやがるからな」

 どことなく馬鹿にしたような口調で続けるリンに、しかし、クリスは無反応だった。いつものクリスならば、どんなに軽い挑発でも食ってかかるので、リンは意外そうに首を傾げた。

……何か気になることがあるのか、クリス?」
「Jさん。いえ、そういうわけでは……

 慎重な気質のJが確認するが、クリス自身も判断に迷っており、なんとも歯切れの悪い反応だ。

「なんだ、いいからはっきり言えよ、クリス」
……気のせいかもしれないんですが……かすかに、甘い匂いがします。……わかりませんか?」
…………そんな匂い、しねえけどな」

 押しの強いリンの物言いに根負けしたクリスが、しどろもどろに白状する。しかし、クリス以外にはそんな匂いは感じ取ることができなかった。
 五感の鋭いクリスだけが感じ取ることが可能な匂い。単なる気のせいだと決めつける楽観主義者はこの場にはいない。ナーシャは隣の助手に目配せし、

……一応、毒の可能性もあるわね。充分に注意して先へ進みましょう」

 了解、と各自頷きつつ、一行はトリカゴ最深部へと歩みを進めた。