めやぬら
2026-01-31 22:59:19
12797文字
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怪談

怪談会をするALKALOID。
導入と巽と一彩の話。アルカの箱イベがんばります。


 俺の実家は、皆さんご存知の通り教会なのですが、フリーマーケットや催し物なども開催しているんです。まあいわゆる、教会バザー……というやつですな。ご近所さんも参加できるもので、定期的に開いていたんですよ。
 レジャーシートを敷いて品物を並べて、商売というよりも交流を楽しむような雰囲気のものなので大規模なものではありませんでしたがね。毎年好評で、子供達も楽しみにしてくれているお祭りのようなものでした。
 
「もちろん、俺の実家からも出品していましたよ。食器ですとか、着られなくなってしまった服ですとか」
「結構掘り出し物が見つかったりして、楽しいですよね」
「ふふ、今度いらしてください。マヨイさんだけでなく、皆さんも」
 
 おっと、話が逸れてしまいました。
 まあ何年も開催しているものなので、毎回参加される御宅もいらっしゃるわけです。常連さんと言いますかね。
 その内の一軒に、いつもアンティークな雑貨を出品される御宅があったんですよ。老夫婦でご出品されるところでした。旦那さんは店の準備を手伝った後はふらっとどこかに行ってしまい、店番にはいつも奥様が立っていらっしゃいましたが、物腰柔らかな方で、皆さんから好まれていました。
 出店で並べられていたものは人形や本棚などもありましたが、多くは時計や鏡、小さなトレイなど、洒落た装飾が施されたものばかり。少し下世話な話になりますが、浅学な俺の目から見てもどれも元値はかなりの物だと思うような品々でした。もちろん、新品ではなさそうで、少し欠けがあったり日焼け跡があったりもしましたが、使う分には全く問題がない程度のもの。それを、ワンコイン程度で売っていたのです。
 
「えっ、それってアリなの?」
「利益を出すわけではないので、主催側から値段設定はしていないんですよ。ですから駄目ではないですが、純粋に何か裏があるのではと思いますよね。数千円ほどするものも置いていましたが、それも一品二品程度でしたし、値段設定は明らかに不自然でした」
 
 もちろん初めてのお客さんもそう思って、店番の奥様に尋ねるんです。これは安すぎませんか、と。
 すると、御婦人はこう言う。
 知りたいですか?と。
 
「そんな思わせぶりなことを言われたら、聞きたくなってしまうのが人の性」
 
 御婦人は、買ってくれるなら話すと言います。
 言っては失礼ですが安価ではあるので、お客さんは商品を買います。すると、彼女は一つ一つの背景として最もらしい物語を語るんです。それは悲劇であったり、あるいは感動の話であったり、ファンタジーから現代が舞台であったりと、バリエーションは多岐に渡っていて、まるで絵本を聞いているようでした。呪いがかかってるとか持ち主を不幸にするとかそんな話ではなくて、本当にただその売り物に纏わる短い話。
 
「それは本当にあった話だったのかい?」
「いえ。俺が思うに、あれは全て作り話でしょう。道楽の一つだったのかもしれませんね。何回か開催した後にはすっかり名物になってしまって、あの御宅は今年も参加するのか、と尋ねられることもありました」
 
 セールストーク、にしては随分と手の込んだ話でしたが、子供の小遣いくらいでも楽しめるものでしたし、悪事をしているわけでもないので、毎年参加の申し出を快諾していました。
 
 ある年、もうバザーも閉会というとき、俺は旦那さんに呼び止められたのです。
 そして、もう来年からは参加しない、と言われました。理由を尋ねると、高齢で準備が大変になったこと、そしてもう家から売れるものがない、ということでした。
 長年顔を見ていた方がいらっしゃらなくなるのは寂しいですが、参加は自由意思ですので、俺に引き留める権利はありません。今までの参加の御礼と共に寂しくなると伝えると、彼はこう言ったんです。
 妻が語った話の殆どは作り話だ。だが一つ、本当のことがある。そして妻は、それをこそ手放そうとしていた。そのために、ありもしない話をでっちあげ、一つだけ真実を混ぜた。
 
「えっ、どういうこと?」
……彼は、終ぞ俺にその商品がどれか教えてくれませんでした。呪いの品なのか、全くなにか別の理由で手放したかったのか、それさえ分かりません」
「その年を境にということは、その年に出品されたものの中にそれがあったのでは?」
「俺もそう思いましたが、周到な計画のもとでそんな売り方をしていたのなら、もしかしたら数年前に遡るのかもしれません」
「でも、呪いとは限らないんだよね?普通の、何の変哲もない物の可能性もある」
「ええ。なかなか買い手がつかない物があって、何らかの事情でどうしても手放したかっただけなのかもしれない。呪いなども、にわかには信じられませんでした」
 
 なんにせよ、俺は両親にそのことを話しました。危険物ではないにしろ、なにか曰く付きのものが売り買いされたかもしれないと。
 来てくださっている方々は面識がある人ばかりです。バザーのあと、俺も両親も注意深く見ていましたが、どうもそんな不幸を運ぶ代物を手に入れたような人はいませんでしたし、様子が変わったという話も聞きませんでした。
 
「俺は段々、あの話は出任せだったのでは、と思いはじめました」

 そしてその年の瀬、あの旦那さんが教会までいらしたのです。その時に応対した父が言うには、用事があってきたわけではないが通りかかったから顔を出したのだと。
 しばらく世間話をして、そういえば、と父が話を振ったそうです。万が一があれば事ですからね。
 すると旦那さんは、あぁ、と手を打った。

『あれを手放したおかげで、自由になった』

「聞けば、奥様は亡くなったのだそうです」

 御病気、とのことでした。

……“あれ”とは何か、分かりません」

 けれど、それからしばらくして、旦那さんも居なくなってしまったんです。引っ越したのだと聞きましたが、誰も引越しのトラックを見ておらず、挨拶さえもなかった。

「真相を聞ける人間はいなくなってしまいました。結局、話が本当だったのかすら、今やもう闇の中。気になるのは……奥様が亡くなったのが、ちょうどバザーの数日後だったこと。そして旦那さんが、全く悲しんでいなかったこと」

 少なくとも、そうは見えなかったと父は不思議そうに言っていました。

「彼の人は、何を売ったんでしょう。何をもたらすものだったのでしょう。手放して初めて不幸が訪れるものでないならいいのですが」

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……なんか、怖いと言うよりは不思議な話だねぇ」
 
 ふっ、と吹き消す振りと同時に消したランタンをまた付け直したあと、一番に発せられたのは藍良の一言だった。

「怖くはなかったね。でも、少し恐ろしい話だ」
「え?なんで?」

 思案するような一彩に屈託なく返す藍良と、同じく少し首を傾げるマヨイ。

「だって、旦那さんは少なくとも売ったものの正体が分かっていたんだろう?どうして奥さんを止めなかったんだろう。もしかしたら、奥さんも、旦那さんと同じようなことを考えていたんじゃないかな」

 ねぇ、と巽を見やる一彩の視線に促され、藍良とマヨイも語り手を見た。

「え、どういうことですか?」
……穿った見方かもしれませんが、そうですね。もし手放すことで不幸が手に入るものだったら……例えば、誰かに譲り渡したら所有者の願いが叶うとかそんなものだったとしたら、と思うと、あの夫婦が何を願ったのか、どちらの願いが叶ったのか……怖いところです」
「えっ……な、なにそれ、じゃあ、奥さんが亡くなったのって」
「いえ、俺は無関係だと思っていますよ。長く患っておられたこともお聞きしていましたし、たまたまだったと思います。旦那さんだって、平気そうに振る舞っていただけだったかもしれません」
「そ、そうだよね」
「とはいえ、家財道具のほとんどを売りに出していたようですし、不可解な点が多くて……色々と勘繰ってしまいました」
 
 苦笑いする巽は平然としているが、余計な邪推を知ってしまって、藍良とマヨイは二人して身を寄せあい縮こまってしまった。とはいえ、巽も一彩と同じ考えに至った時はゾッとしたものだ。偶然だろうと割り切るには少し時間が必要だったことを思い出し、知り得ない真相に思い馳せる。
 
……さて。あまり深刻な話になってもしょうがないですから、次にいきましょうか」
「じゃあ次は僕が話すよ!二人とも、まだ話せなさそうだからね」
「うぇぇ……ヒロくんの話、全然怖くないかめちゃくちゃ怖いかの二択っぽいからやだよォ
「だ、大丈夫ですよ、私も聞いてますから
「僕の話も実体験だよ!安心して欲しい!」
「安心できるかぁ!」