めやぬら
2026-01-31 22:59:19
12797文字
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怪談

怪談会をするALKALOID。
導入と巽と一彩の話。アルカの箱イベがんばります。

 落ち着いた声が冷房の効いた部屋で厳かに聞こえる。大きなスクリーンのあるシアタールームは暗く電気が消されているが、部屋の真ん中には柔らかく点るランタンと、それを取り囲むように座る四人の人影。

……そして、その後。彼の姿を見た者はいない」

 そのうちの一人、普段はおののくか奇声を発するかが多い彼が落ち着き払ってゆったりと語り聞かせているのは、ここしばらく練習していた怪談。ふぅっ、とランタンに息を吹きかけるタイミングに合わせてスイッチを切ると、まるで蝋燭を消すように部屋が真っ暗になった。
 一瞬の静寂ののち、パチンと無機質な音と共に部屋の電気がつく。明るくなった室内、語り終えたあと逃げるように電気をつけたマヨイが壁にへばりついたまま、おそるおそる聴衆を見回した。
 
「ど、どうでしたか?やっぱりあまり怖くないですよねぇ……
「いやいやいや!怖かったよ!マヨさん話し方が怖いよ!」
 
 そう主張する藍良は、最初こそ乗り気だったが途中から隣の一彩にしがみついていた。話自体はそこまで怖いものではないが、語り口が恐怖を煽り、途中からプライドも捨てて隣の袖を引っ張ったのだ。一彩は話よりも藍良のその行動に驚いたが、すぐにマヨイの話に引き戻されたくらい、語ることにおいてマヨイは巧かった。
 
「面白かったよ、特に幽霊から電話がかかってくるところが」
「うわー!言うな思い出させるな!ヒロくんのばか!」
「ご、ごめんよ」
「練習の成果がよく出ていたのではないですか?臨場感にあふれていて、思わず聞き入ってしまいました」
「そう仰っていただけると自信が持てます……ふふ、可愛らしい藍良さんも見られましたし」
 
 ぽかぽかと一彩を詰る藍良はともかく、巽と一彩は楽しんでくれたようだ。マヨイは胸を撫で下ろし、先までの自分の席に戻る。ランタンの隣にはお菓子も置いてあって、さながらちょっとしたお菓子パーティーだ。
 
「さて、ではお次は誰がお話しされますか?」
 
 マヨイはランタンを手に掲げ問う。今宵は小さな怪談話の場。次、と順を振るマヨイの顔は、どことなく生き生きしていた。
 
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 なぜこのような運びになったのか。それはシェアスペースでマヨイが夜な夜な怪談の練習をしていると、皆に知れ渡ってしまったから。
 数日前某寮某所、マヨイは顔を覆ってソファに座っていた。

「なぜバレてしまったのでしょう……
「隅の方で壁に向かって呟いていたから……ですな」
「うう、短慮でした……

 落ち込むマヨイを慰める巽も隣に座している。顔を覆い丸まる背を苦く微笑みつつ見守る眼差しは優しい。

 つい数分前、巽は通りかかった共有ルームから、ぼそぼそと何者かの話し声が聞いた。
 誰かいるのかと顔をだしたが、そこは薄暗く照明が抑えられていただけで、誰もいないように見えた。それでもぽそりぽそりと聞こえる声に恐る恐る辺りを見回すと、暗い部屋の隅で髪を垂らし、そこだけ陰鬱な空気の澱みになっていたマヨイの姿を発見したのだった。

 正直かなり驚いた。何を話しているのかまでは分からなかったが、何者かに語り聞かせるような語調で、壁に向かって話している同ユニットメンバー。一体何と会話しているのかと固唾を飲んで肩を叩けば、飛び上がらんばかりに驚かれ怯えられ謝り倒されるという、どっちが驚いたのか分からないような状況に陥った。

 パニックになったマヨイと少なからず動揺している巽の二人は、とりあえず落ち着く時間がいるとソファに腰を下ろした、という経緯である。
 
「共有ルームのお化け、と一彩さんと藍良さんが言っていたのはこの事でしたか」
「えっ、お二人にも……?!あぁもう駄目です、皆さんのご気分を害してしまってどう償えばいいのやら……!」
「大丈夫ですよ、なにか練習しているんだろうなと察しておられるようでしたから。朗読のお仕事を受けられておいででしたよね。その関係でなにか悩んでいるのですか?」

 話を逸らすために尋ねると、顔を覆う指の隙間からちらりと伺うマヨイはしばらく考えた後、ため息をついて背筋を伸ばす。

「朗読、といいますか、今度のお仕事で怪談を話すんです」
「怪談?それはまた……夏らしいですな」
 
 マヨイにぴったりだ、と言うのは失礼に当たるだろうか。少し悩んで結局夏らしいと口にした言葉はさして気にされるまでもなく、軽い頷きで流された。
 
「夏の特番ですからね。有名な怪談師さんもいらっしゃるようです。深夜番組、なんですけど」
「怖い話ならば、深夜の方が雰囲気も出るでしょうな」
「それは、ええ、もちろん。でも私、人前で話すのは得意ではないので、今更不安になってしまって……話すものは用意できたので練習していたんです」
「なるほど。てっきり、あちら側と話しているのかと思いましたよ」
「あちら側ってなんですか……怖いこと言わないでください、もう」
「ふふふ、冗談です」
 
 微笑みでからかう巽は楽しそうにマヨイを見守る。聖人君子、真面目だと誰もが口を揃えて評する彼は、マヨイや藍良、一彩に対しては茶目っ気も発揮してみている。マヨイも非難するような眼差しを向けるが、他愛無い戯れにすぎない。
 
「ぜひ聞かせていただきたいですね。楽しみにしています」
……あの」
「なんでしょう」
「練習している話は二つあるんです。次の打ち合わせで相談させていただいて決めようと思っていて」
「おや、そうなんですね」
「それで、あの、使われない話の方をお聞きいただけませんか?藍良さんや一彩さんもお呼びして」
「使われない話の方を、ですか?……構いませんが……それだと、俺たちが楽しむだけで終わってしまいそうです」
「楽しんでいただけたのなら私も自信が出ますし……ほら、以前怖い話をしあったことがあるでしょう?結構楽しかったので、またやりたいなぁと……
「ふふ、楽しそうですね。でしたら、俺もなにか話を持っていきましょう。一彩さんたちもお誘いしておきます」
「あ、ありがとうございます!ふふ、場所はどこが良いですかねぇ。やっぱり夜の方が雰囲気出ますかね」
「せっかくならその日は夕食も一緒に取りましょうか。少し豪華にしてみましょう」
 
 不安そうな顔から一転してぱっと明るくなるマヨイと柔和な笑みを湛える巽。マヨイはともかくとして、巽もかなり乗り気で何を作ろうかと悩んだ。

 
 
 かくして、この怪談会は生まれた。
 
「次か〜、マヨさんの次だとハードル上がっちゃうよねェ」
「それなら俺が行きましょうか」
「巽先輩、自信があるの?」
「自信はありませんな。不思議な話ですが、奇妙な実体験です」
「待って待って、え、体験談?」
「体験談です。俺の」