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kumazaregoto
2026-01-28 00:42:59
9006文字
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鴻雁北
彩貴と禰津おじさんの出会いの巻
ちょっとGあり
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再び森に静寂が広がる。鳥の囀りと、それから風の音、小さな獣の足音。先の戦闘が嘘の様に静まり返り、惨状などに目もくれず二人のやり取りを、ただ由玄は見ていた。
(見たところ、どこかの国の若とその従者
……
と思うべきなんだろうけど、それにしては随分と訳ありだねぇ)
顎に手を当て首を傾げる。落武者にしては急いた様子も無いが、帰る宛は有るのだろうか。
(ああ、そういえば)
右手に目を遣る。体の一部と化した抜身の刀を見て、由玄は苦笑いする。
(いつまでも抜いていちゃあねえ)
手入れをした時のままの太刀を、鞘に納める。キン、と鯉口が静寂の森に響く。
—
筈だった。
森には無い、鉄と火花の音。森の静寂を掻き消し、樹上の鳥が羽ばたき飛び去った。
凄まじい剣戟の音が、由玄の耳の奥まで響いた。刺す様な痛みに、咄嗟に耳を抑える。
「
おやめ下さい、彩貴様!
」
あの武士が何かを叫んでいる。悲痛な面持ちをしているが、何を言っているのか由玄の耳に何故か届かない。
キン、と耳障りな音だけが響いて、それから何も聞こえない。風も、鳥も、刀の音でさえ。世界に取り残されたかの様に。
幸いなことに目は何も問題は無い。その目に映ったのは火花がちかちかと明滅し、男と少年が刃を交わしている姿であった。
「おやめください!もう貴方が刃を抜く必要は無いのです!」
由玄のことなど構わず
—
意図的にではなく、その余裕すら無く
—
男は悲痛の叫びを、只々続ける他なかった。
男の名は、坂本広野。生国は既に無い落武者であるが、それでも尚彼が毅然と武者として由玄の目に映ったのは、対峙する相手の存在故だろう。
「
……
何故、邪魔をした」
無機質な言葉だった。
怒気も哀愁も困惑も、その言葉にはいずれも似合わない。
「私が斬るべきものを、何故斬った」
刹那、納めることを知らぬ鋒を広野へと振り下ろす。槍を構えるのがあと一瞬でも遅ければ、武者の手は、長年連れ添った籠手ごと落とされていただろう。
柄で弾き飛ばして、次の斬撃を受ける。
一、二、三。
その一撃一撃は、常人の目では追えぬほど速く正確無比であり、外せば首、胴、腹を裂いていたであろう。同じく的確に防御の姿勢を取る広野が、容赦の無い斬撃の雨に吠える。
「何故、何故
……
!貴方はそうまでしてっ
……
、頑なにご自身で全てを斬ろうとなさるのです!」
黒い目が悲痛に歪む。赤い双眸が冷たく見下ろす。
「私が、斬らなければ。世の悪を、無明を。私が」
一閃。柄を弾いて一文字に薙ぎ払う。
鮮血が飛び散る。広野は目を見開いた。
「あー怖かった
……
それに痛いしさ」
剣幕に似つかわしくない、呑気な声が再び戻った森の静けさによく響く。ぽたりぽたりと、滴る血は広野のものではない。
(いつの間に、この間合いに?)
瞬き一つすらする余裕も無かったというのに、自分の背後にいた男が、相手と自身の間に音の一つも立てずに立っていたのだ。
「貴方は
……
今、何を」
「何をしたかって?簡単なことだよ、彼と同類ってだけさ。ただ僕のは、あの子みたいに戦いじゃあなかなか使うのは難しくてね」
振り向きもせず、横目だけで語る男の顎を、輪郭をなぞる様に血が滴っている。
「何せ僕の視界に捉えられる範囲だからねぇ。それに、異能持ちには効きづらいことが多くてさあ、やっぱり効きが悪かったみたいだ」
ま、これで済んで良かったんだけど、と由玄は鼻筋の一文字の傷を袖で拭った。拭われた傷口からはまだ血が溢れるが、その勢いは徐々に治っている。
「さ、刀を納めちゃくれないかい?」
目を開いて、刺客を見据えた。
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