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kumazaregoto
2026-01-28 00:42:59
9006文字
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鴻雁北
彩貴と禰津おじさんの出会いの巻
ちょっとGあり
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何者かという問答は無い。
何故と疑問を問うことも無い。
既に肉塊となった同胞にも目もくれず、自ら与えられた任務を阻止するものを、忍たちは沈黙のまま捉えた。
襤褸を纏った刺客が、ゆらりと動く。次の瞬きの内に刺客は宙を舞っていた。
樹上から鎖十手が飛ぶ。忍の一人が投げたものだ。絡めば宙吊りに、しかしひらりと身を躱して刺客は地上へと降り立つ。
爪先が土と触れ合った途端、刺客はタンッ、と蹴る。その勢いは、由玄を追っていた忍にも匹敵し風の如く。地上に降りていた忍と剣戟を交わす。
刀と刀がぶつかり合い、火花が幾度も散る。真っ向の勝負となれば力の強い方が勝つ。剣戟に勝ったのは、忍の方であった。
蹌踉めいた刺客を、もう一人地上にいた忍が鎖十手で捕える。刀を握り締められたまま捕えられた刺客に、由玄は息を止める。
(まずい、あれでは、)
死んでしまう、と駆け寄ろうと足を踏み出す。行ったところで自分が何の役に立つのか。そもこの忍たちは自分を狙ってきたのだ。
この隙に逃げればいい。生きてさえいれば、まだあの愚兄に勝てる道筋だって作れる。
そこまで考えが巡っても、踏み出した足を戻そうという気にどうしてもなれない。
やはり戦うべきだろうか、と迅る気持ちが由玄に刀を構えさせた。
「なりませぬ」
例えるなら森の静寂。大木が風を受けて葉を揺らすのに似て、其処に有るが我の強さを決して出さず、存在感を放つ様。穏やかで通りの良い、しかし無視の出来ない声が由玄の行く手を阻んだ。
使い古された籠手に覆われた腕が由玄の前を遮る。振り返れば一人の壮年の男のものだと由玄は知った。
「君は
……
」
纏う着物や鎧、籠手も全て傷や土汚れだらけではあるが、黒毛混じりの白髪は乱れることなく一つに結ばれ、静寂を保った雰囲気からは歴戦の武者であると感じさせる。歳の頃は由玄よりも十は上に感じられたが、そうであるならばこの歳まで戦場に出ていたのだろうか。
男が首を横に振る。
「彼の方の戦いに手を出してはなりませぬ。巻き込まれます」
「巻き込まれる?何を言って、」
刹那。ごう、と激しい音が鳴る。
迸る熱。肉を焼く厭な臭い。薄ら寒かったはずの森が、焼ける様に暑い。
追手は三人とも燃え上がり、悲鳴も無くただ苦悶に満ちた手を伸ばしている。
(人が、燃えている)
由玄が目にしたのは、追手の忍らではない。襤褸布を纏った刺客が燃え上がっているのだ。しかしどれほど探そうと炎の発生源は見つからない。山火事にしてはあまりに局所的な燃焼に、由玄は一つの解に至った。
「
……
異能の者」
この乱世において、其れを持つ者と持たざる者とでは天と地ほどの差もある超常の力。
一人で大軍を相手取ることも造作無いとさえ言われる、自然現象にも等しい災厄や或いは恵みの能力。それらを持つ者を、異能の者と世は呼んでいた。
燃え上がる炎がやがて収束し、まるで刀が鞘に収まる様に刺客の元へと姿を消す。燃えた本人は何事も無く、溶け落ちた十手を振り払った。
由玄は目を見開く。先程までは目で追うのがやっとであったが、静止する姿で刺客の正体を理解したからだ。
「子供
……
?」
由玄の背後から、男が刺客に駆け寄る。男は立膝を付いて長い前髪の下の顔を見つめている。子を心配する父の様な姿に、由玄は目を細めた。
「
……
お怪我は?」
「
……
」
「
……
無いなら安心いたしました。隠れていた忍は、某が仕留めております」
「
……
」
男がどれほど言葉を尽くしても、森の中の静寂ばかりが返るばかり。髪に覆われた面持ちは、視線が合っているかすらも伺うことは出来ない。ただ、右手に持ったままの刀は少しも鋒は降りる様子は無い。
男が息を呑む。
「
……
どうか、刀をお納め下さい。もう、貴方の敵はおりません」
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