もち粉
2026-01-22 12:08:43
8613文字
Public
 

どんな策を弄そうか


ミスカブに見えそうなカブミス
当て馬モブがいます

外交の席は、ほどよく緊張し、ほどよく退屈だった。
メリニ側は外務大臣と民間代表の豪商。カブルーは補佐として末席に控え、西方代表のミスルンをこっそり眺めている。

​ただ本日は、珍しくパッタドルが不在だ。代理の新人補佐は、声を裏返しながら要望を読み上げてはつっかえ、資料を配ろうとしては取り落とし、見ているこちらが心配になる有様だった。
「すまない、新人でな」とミスルンが引き取ると、そこからはもう彼の独壇場だった。落ち着いた声で協定案の了承点と再考点を整理し、会議をスムーズに進める。その計算された抑揚が心地よい。

​もっとも、全部根回し済みの筋書きだ。
休憩の間に大臣と豪商が「相談してきます」とポーズをとり、譲歩を演出し、はいOK。あとは来月の調印セレモニーを待つだけだ。

​つまり、話し合ったという体裁を整えるためだけの、退屈な時間だった。


カブルーはぼんやりと、今日はよく動くミスルンの唇を眺めていた。
出会った頃は乾いて皮が剥けていたその唇も、今では薄桃色に潤い、つやつやと輝いている。
――リンに調合してもらったリップバーム、ちゃんと使ってくれているらしい。

​七日前。あの唇が、自分に向かって「好きだ」と告げた。
……いや、正確にはこうだった。

​「私は、お前のことが好きなのかもしれない」
「え、ええと……

​大使館での事前打ち合わせの合間、唐突に言われた言葉。

「好き」という響きに、脳が理解するより先に心臓が一つ跳ねた。頭が追いつくと同時に「かもしれない」で宙吊りにされる。
しかも雰囲気ゼロの場面で言われたため、カブルーの望む意味で捉えていいのかさえ怪しかった。

​勇気を出して問い返した。
「それで、俺と……どうなりたいんですか?」

するとミスルンは未知の単語を聞いたかのように、目を瞬かせた。

「どう……なりたい?」

​しばらく首を傾けて考え込んでいたが、やがてその首を今度は横に振る。

「いいや? 特に何も望んではいない。気がついたから言っただけだ」

​そう言って、話は終わったとばかりに再び貿易協定の議題へと戻ってしまったのだった。

​特別な感情は認めている。でも「恋人になりたい」とまではまだ欲していない。

――こっちはそんな言い逃げじゃ困るんだよ!!

​なにせ欲のない相手への、報われない想いを無理やり折りたたんで、長年胸の奥にしまい続けてきたのだ。折り合いをつけることばかりがうまくなったところに、急激に「お付き合い」の目が出てきたのだから、逃すわけにはいかない。

カブルーは頭の中で作戦を立てる。
――種はある。欲が育っていないのなら、芽吹かせるまで。自覚がないのなら、芽生えさせるまで。
そして一番手っ取り早いのは……そう、ヤキモチだ。
​誰かに自分を奪われそうになったら、さすがのミスルンだって「取られたくない」と思うはず。


パターン1
​『……誰だ、その男は』
不機嫌そうなミスルンにぐっと腕を引き寄せられ、真剣な眼差しで――
『お前を誰にも渡したくない。ずっと私の傍にいろ』

パターン2
……誰だ、その男は』
涙をいっぱい溜めた目で、うるうると見上げてきたミスルンが縋り付くように、胸に飛び込んでくる――
『いやだ……! 他の男なんか見るな。私を、私だけを見てくれ……っ』


​「……ふふふ」
​脳内で嫉妬に駆られたミスルンに迫られるのをとりあえず2パターン妄想する。いや、これは妄想ではなくシミュレーションである。

(しかし俺の想像するミスルンさん、実物の三割増しくらいでかっこいいし、四割増しくらいでかわいいな)

そうと決まれば善は急げだ。
幸い、適役の心当たりがあった。