mishiadd
2026-01-22 01:54:33
15955文字
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性癖決闘:洗脳され意思疎通できなくされた上で綺麗に着飾られる伊織殿

闇の決闘者あろさん( https://x.com/arrrr_ow )と2026年一発目の性癖決闘はなんと表会場で開催だァーーッッ本年もよろしくお願いしまァァーーーーッスッッ!!
果たし状:https://xfolio.jp/portfolio/arrow/works/5410786
その他レギュレーション:「めちゃくちゃ的確にセイバーの逆鱗に触れるモブ、静かにブチキレるセイバー」
pass:なんと全年齢のため不要(性癖決闘が全年齢のことも…あるんだよッ!!)


五、

古城の警備は手薄で、からくり人形らしい敵との戦闘はあったものの、エルキドゥやタケルに苦戦を強いる程では到底なかった。
石造りの城内を駆けながら、逸るように先頭を走るタケルが後方のエルキドゥと藤丸に声を掛ける。

「最上階――この城の玉座の間を目指す! 敵はきっと、そこにいる筈で――イオリもきっと、そこを目指してくる筈なのだ!」
「うん。……もしかしたら、伊織はもう先に辿り着いているかもしれない。既に戦闘を開始していたら大変だ、早く行ってあげないと」
「うむ!」

スピードを上げたタケルが視界から消えそうになり、「わわわ」と慌てた藤丸をエルキドゥが抱え上げて駆ける。途中で幾度かの接敵の後に、玉座の間の扉の前に辿り着いた。
扉に耳をつけて内部の音を確かめたタケルが、ふるふると首を左右に振る。藤丸を降ろしたエルキドゥが、タケルに尋ねた。

「霊体化して中に入ってみるかい」
「いや。今更小細工などしても無意味であろう。――正々堂々、正面突破だ」

がこん、と重厚な音を立てて、タケルが扉を開く。

――玉座の間は暗く、ひとつの灯りもともっていないようだった。

視界の悪い暗闇に足を踏み入れながら、タケルが目を凝らして周囲を見回す。――がこん、と背後で扉の閉まる音がして、藤丸たちが反応する前に、キィーーーン……とマイクのハウリング音が聞こえた。

ごきげんようBonjour、カルデア諸君。取るに足らない人形師たる私の、その生涯の最高傑作を披露する発表会へようこそお越しくださいました」

マイク越しの割れた音声が響いて、パッ、とスポットライトが当たる。――見知らぬ中世ヨーロッパ風の服装をしたサーヴァントが、深々とボウ・アンド・スクレープおじぎをしている。
虚を突かれたタケルが言葉もなく見ていると、顔を上げた男がにやりと笑って言った。

「私は何事も勿体ぶる性質なのだが、今は気持ちが逸っていてね。たった今完成させた私の最高のドールを一刻も早く見せびらかしたくて仕方がない。……というわけで、早速だがご覧に入れよう。――これが我が最高傑作、作品名は『No. 708 宵闇に侍る月光の君』だ」

パッ、ともう一筋のスポットライトが当たる。――そこに照らし出された姿に、「アッ――」と藤丸の声だけがこだました。

古ぼけた真紅の椅子に座り、ロココ調の豪奢なジャケットを羽織り、幾重にも上質なレースを重ねたフリルのジャボで首元を飾っている。深遠な月夜のような深い翡翠色をしたブローチを留め、細い胴体やすらりと細長い脚にぴったりと沿ったコルセットやズボン。――ジャケットの裾から伸びた大きな手の、その指先は艶やかな黒いマニキュアで飾られていた。
うっすらと白い粉をはたいた端正な顔は、整った陰影が際立ってますます造り物めいて見える。――その口許に、うっすらと紫がかったミュートカラーの紅がのせられている。生気のないぼんやりとした朔夜の瞳が、まるで嵌め込まれたガラス玉のようだった。
艶やかに櫛を入れられ整えられた栗色の癖毛が、目許や肩にかかっている。

――ぐったりと、まるで自らの意思を失ったようにただ宙を見ている伊織が、まるで着せ替え人形のように着飾られて、そこに座っている。

言葉もなく唖然としている藤丸たちに対して、男が自慢げに手を伸ばし、芝居がかった仕草で言った。

「実に美しいだろう? コレはようやく完成した最高傑作の傀儡とっておきさ。――鍛え抜かれた肉体に宿る月光の美しさ! 粗末な布は早々に取り除き丹念に磨いたとも。――美しい肢体には相応の装飾で着飾ってやらねばなあ」

かつかつと靴の踵を鳴らしながら男が伊織に歩み寄る。ぼんやりとただそこに座っているだけの伊織の顔を掴み、まるで所有権を見せつけるようにぺろりとその頬を舐め上げた。
かくん、と伊織の首が力なく揺れる。クク、と喉を鳴らした男が立ち上がり、両手を広げて言った。

――さあ、『私の愛しいお人形mon chouchou』、あの煩い羽虫共を蹴散らしておくれ! 勝利の暁には私の魔力褒美注いで与えてやろう! ――私ときみの初夜だよ、モン・シュシュ。私はしがないサーヴァントに過ぎないが、きっとこの聖杯で共に呑む蜜の味は、物言わずただ美しく私の隣で微笑むだけのきみも気に入るだろう。……私の最高傑作、私だけのドール、――私の運命

男の掛け声に応えるように、伊織がゆらりと椅子から立ち上がる。ぎしぎしと――どこか機械めいた動きで、それでもコツコツと靴音を立てながら――意思の欠落したままで、それでもそれだけはそこにある、確固たる剣気のみを宿し――その操り糸仕掛けの身体が、自らを照らすスポットライトを月光のように背負いながら――伊織が、二刀を手にしてこちらへと向かってくるのを、藤丸が呆然として見る。

「伊織……!」
「相済まぬ、マスター」

言い差した藤丸を遮るように、タケルが言った。

「これより後――力の加減が出来そうにない」

その表情を藤丸が伺い知ることはできなかった。

タンッ、と軽い音を立てて伊織が床を蹴る。それと同時にタケルも床を蹴り、互いに一気に間合いを詰める。キィンと鋭い音と共に斬り結び、鍔迫り合いの状態でぎりぎりと均衡を保っている。
剣越しに、タケルが伊織の顔を見る。ぼんやりとした無表情のまま、意識らしい光もなく、ただガラス玉のように伽藍洞な瞳が、目の前のタケルではなくどこか遠くを見ていることに気付く。――その身体は、ただその身体が記憶している動きを機械的に再生しているだけだ。発されている剣気も身体が覚えているもので、そこに伊織の意思はない。
ぐい、とタケルが刀をいなして弾く。ぱん、と五歩は後方に弾き飛ばされた伊織が、体勢を崩しかけて倒れそうになるすんでのところで持ち堪え、素早く体勢を立て直して再び二刀を構えた。

――フ、とタケルが嗤った。

そんなになってもきみはそうなのか」

「闘い――にくいよね、タケル」と気遣わしげに藤丸が言った。

「伊織を取り押さえるのは、エルキドゥに代わってもらっても」
「まさか。僕はやらないよ、そんな野暮なこと。――朋友ともとの決闘なんだろう? 兵器である僕ですら、それは誰にも邪魔されたくないと思うよ」
「エルキドゥ、でもこれは」

わけが違うんだよ、と言い募ろうとした藤丸に、「よい」とタケルが蛇行剣を構えながら言った。

「『天の鎖』の言う通りだ。……我らの邪魔をするな」
「でも、たとえ操られていたとしても伊織は強いし」
強い?」

「ハッ」と――藤丸の前では著しく珍しいことに――ひどく露悪的に鼻で嗤い、タケルが吐き捨てるように言った。

「強いものかよ。――弱いな。とても弱い。……あの夜のきみには遠く及ばぬ、イオリ」

脊髄反射のような動きで再び向かってきた伊織の、振り下ろされた二刀をタケルが躱す。振り向きざまに背後を取り、――その四肢に絡みついている、蜘蛛の糸のように細い糸を横一閃に撫で斬りにして切断する。

プツプツプツ、と繊維の切れる音がして、伊織の身体が大きく傾ぐ。そのまま、崩れ落ちるように床に倒れ込んだ。

「伊織ッ!」

慌てて藤丸が駆け寄り、上半身を抱え上げる。目を閉じたままの伊織はぴくりとも動く様子がない。「伊織、伊織」と藤丸が慌てる横で、エルキドゥが伊織の胸部に耳を近づける。「うん、生きてはいるようだね」とあっさりと言った。

伊織に背を向けたまま、タケルが人形師を名乗る男に向き直る。両手を宙に挙げて降参の意を示しながらも、ひどく未練がましい目で男が伊織を見ている。

「モン・シュシュ。私の最高傑作、私だけのドール。――なあ三つ編みのきみ、人形ではないきみが一体どうやってこの私の『傀儡特異点』に入り込んだのかは知らないが、あのモン・シュシュだけは私に返してくれないか。
村のタバーンでのたったひとりの大立ち回りを見る限りさぞや強いのだろうと思っていたが、どうやら戦闘能力に関しては私の見込み違いだったようだ。……とはいえ、我が愛しきドールの本分は私に愛でられることにある。私の望むままにただ美しく微笑み、私の傍らに侍る。自らの意思を持たず、ただひたすらに『他者の望みのままに在る』。人形とはそういうものだよ。
聖杯もきみたちにあげよう、この特異点ももう終わりで構わない。――ただ、あのモン・シュシュを私に返しておくれ。私の運命、私の作品」
「その口を今すぐ閉じよ、さもなくば顎を砕いて二度と閉じられぬようにしてくれるぞ」

ぎょっとして藤丸がタケルを見る。ふつふつと小さな背中から噴き出している怒気は、あるいは神気というものにより近かった。

――イオリは、人形などではない。自らの意思を持った、ひとりの人間で」
「そうかな? とてもそのようには見えなかったが」

けろりとして男が言った。あるいはタケルの剣幕に少しは気圧されているのかもしれなかったが、それに関しては単なる事実を述べているという思いが彼を大胆にさせているのかもしれなかった。

「モン・シュシュはほぼ完成品としてこの特異点にやってきたのだよ。意思も記憶も持たぬ空っぽの美しい人形として。私がしたことは、その器にほんの少しだけこびりつくように残っていた意思のようなものの残滓を、聖杯を使って封印してやったことだけだ。――実のところ、最高傑作とはいいつつ、私はただ彼を『発見』しただけなのだよ。最後のひと仕上げのみを施してあげたんだ。……森で見つけた世にも美しい人形を、この手で大切に手入れしてあげたんだ」
「黙れ」
「『私の愛しいお人形』――

ガシャン、と硬質な音が鳴る。床に、タケルの剣の先端が刺さっている。――水の鞘が外れかけており、翡翠色の刀身が露出していた。
目の前の男を睨みつけるタケルの視界に、チカチカと閃光のように、伊織の顔がちらついている。



――ただ、他者タケルに望まれるままに、穏やかに微笑んで傍に侍っている



――ただ、そのためだけに在る――記憶も意思も失った他の誰かタケルのためだけに在る、優しくて綺麗なお人形



――もし、そうだったのだとしても――

ぎり、とタケルが奥歯を噛み締めながら言った。夕陽色の瞳が、禍々しい火球のように底光りして燃えていた。

もし人形だったのだとしてもそれは私の人形だ。私だけの人形だ。貴様が触れるな」
……おやおや」

途端に興味を失ったような顔をして、男が言った。

中古品だったか。まあ、構わないがねえ。アンティークドールは皆そうなのだから」
「その口を閉じろ。イオリのことを口にするな。あれは私のものだ。誰にも触れさせない。――誰にも語らせない」
「子供の癇癪じゃないか」

煽るように男が言うと、「そうだ」と平静な声でタケルが答えた。

「子供の癇癪だとも。子供からお気に入りの人形を奪えばどうなるか、人形師のくせに試したことはないのか?」
……言われてみればないね」
子供の世界は狭い――子供から世界のすべてを奪おうというのだから、貴様のすべてを奪われる覚悟はできているのであろう?」

翡翠色に輝いている刀身をゆっくりと掲げ、タケルが振り下ろそうとする。「――タケルの宝具」と藤丸が呟いたところで、「セイバー!」と腕の中で必死な声が上がった。



「セイバー! セイバー! よせ! ……この城には恐らく生きた『素体』がまだいる! 城を壊すな、水の鞘からソレを抜くな、セイバー!」



藤丸の腕の中で伊織が身を起こし、必死にタケルに向かって手を伸ばしている。――ぴくり、と振り上げたタケルの翡翠色の剣を持つ両腕が、痙攣する。

渦を巻くようにタケルに集中していた魔力が霧散しようとする。その隙を突いて、男がなんらかの攻撃を仕掛けようとして腕を持ち上げ――



ずどん、と男の背後から心臓を貫くものがあった。――煌めく一本の鎖だった。



ずるずるとその場に崩れ落ちる男の背後に、いつも通りの涼しい顔をしたエルキドゥが立っている。「あれ、よかったよね」とタケルに向かって言った。

「これは、『朋友ともとの決闘』ではないから……僕が手を出したところで、君は構わなかっただろう?」
「うむ。……構わぬ、どうでもよい。――イオリ」

手の内から剣自体を消失させながら、藤丸に抱き留められたままの伊織へと近づく。膝を折ってしゃがみ込み、「きみなあ」と呆れたように笑った。

「全然ダメではないか。……まんまと敵に捕まって」
「ん……

藤丸に支えられながらゆっくりと身を起こし、「痛……」と頭を押さえながら、伊織が言った。

「すまん。迷惑をかけた。――うっすら記憶はあるのだ。……おまえにも斬りかかった」
「きみ程度、私にかかればどうということもないぞ、イオリ。――本気のきみならまだしも、あんな状態のきみではな」
……ん。そうだな」

どこか嬉しそうに伊織が言い――結局、タケルは強いという事実を、彼はどこか幼い男の子のように喜んでいる節がある――立ち上がってぱんぱんと身体の埃を払う。それから、ようやく自分の服装に気付いたような顔をして、少しだけげんなりした表情をした。

「俺の着物はどこだ。――無論、衣の如何で剣が鈍るようなことがあってはならんのは重々承知だが、さすがにこれは少し動きにくい」
「別にそのままでよいのではないか? きみは普段着た切り雀で変わり映えがないのだから、たまにはな」

揶揄うように言いながら、タケルが伊織を促して歩き出そうとする。「あ、そうだ」と藤丸が言った。

生きた素体がまだ城にいるって、さっき伊織言ってたよね。……じゃあ、彼らを解放しに行こう」
「うん。――聖杯もその男から回収すれば、やがてはこの特異点も消滅する。……やれやれ、『傀儡特異点』か」

がりがりと、下ろしたままの長い髪を掻き混ぜて伊織が言った。

「俺はほとんど洗脳されていて役に立たなかったし――結局、なぜ俺にこの特異点の適性があったのかも、俺にはわからずじまいだったな。……セイバー、あの男から何か聞いたか?
あの男とおまえがなにかを話していたのはぼんやりとは覚えているのだが、内容が理解できていなくてな」
……いや」

タケルが軽く肩を竦める。いやに大人びた顔をして、伊織を見た。

「どうだっていいよ。――きみが何だったとしても」

タケルが伊織に手を伸ばす。すり、と白い頬を手の甲で撫でて言った。

「きみが砕けて、零れ落ちて、その破片しか残らなくて――きみのかたちを模した何者かに成り果てていたのだとしても。……私は、きみを拾い上げる。私がきみを抱き上げて、椅子に座らせて、その髪を梳いて、私の目に映るあるがままのきみを、ただきみとして愛でるよ。……そうすれば、人形だって私にとっては本物となにひとつ変わらないのだから。私がそうと望めば――私の愛しい人mon chouchou』」
……そのー、いい雰囲気のところ大変申し訳ないんだけど」

ぼそぼそと遠慮がちに藤丸が告げ、「ほあっ!?」とタケルが我に返る。ぽりぽりと頭を掻いた藤丸が、困ったような笑顔で言った。

「そろそろ城に捕まってる人たちを解放してあげないと、捕まったまま特異点が消滅してしまうから」
「そ、そそそそそうであったな!? よし、行くぞイオリ」
「うん。――うん? セイバー、結局おまえが何を言っていたのか俺にはさっぱり意味が」
「もうよい! よいから全部忘れよ!」

どすどすと大股で先を行くタケルに、「……地下牢はこちらだ」と伊織が声を掛ける。ぎこちない動きで回れ右をしたタケルが、真っ赤にした顔を歪ませたまま、どすどすと戻ってくる。
穏やかに笑い合いながら、四人で地下へと向かった。






結局、伊織の普段の着物は古城のどこにも見つからず、そのままの姿でカルデアに戻ることとなり――『宮本伊織のドール衣裳バージョン』として、一部の職員と一部のサーヴァントの間で密かな人気を博すこととなった。