mishiadd
2026-01-22 01:54:33
15955文字
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性癖決闘:洗脳され意思疎通できなくされた上で綺麗に着飾られる伊織殿

闇の決闘者あろさん( https://x.com/arrrr_ow )と2026年一発目の性癖決闘はなんと表会場で開催だァーーッッ本年もよろしくお願いしまァァーーーーッスッッ!!
果たし状:https://xfolio.jp/portfolio/arrow/works/5410786
その他レギュレーション:「めちゃくちゃ的確にセイバーの逆鱗に触れるモブ、静かにブチキレるセイバー」
pass:なんと全年齢のため不要(性癖決闘が全年齢のことも…あるんだよッ!!)

一、

「『傀儡特異点』?」

管制室に呼び出された藤丸がそう鸚鵡返しにすると、ダ・ヴィンチがカタカタとキーボードを叩きながら「うん」と頷いた。

「1950年代の――トランシルヴァニア地方だ。……というと、レイシフトの適性のありそうなサーヴァントが一人、二人――ざっと十一人程頭に浮かぶけど」

ハロウィンのたびに増え続けてきた十一人の同一人物――を皆が一様に脳裏に思い浮かべたが、ダ・ヴィンチがふるふると頭を左右に振って否定する。

「残念ながら、今回は彼女達は該当しなかった。地の利があったろうにね」
「なら誰ならいけそうなの?」

藤丸が問うと、スクリーンをスライドさせながらダ・ヴィンチが言った。

「どうやら、『人形』としての特性を持つサーヴァント達が該当する。……今のところ、最も適性が高いのがエルキドゥ、次点で果心居士。――メカエリチャンもいけそうなものだけど、メカ判定だとダメなのかな」
「随分拘りの強い特異点のようだ。――『人形』の定義に、なにか特殊な要因が含まれているのかもしれん」

ふむ、と伊織がかたちのよい顎に手を掛ける。その声に、「ああ、それと」とダ・ヴィンチがわざわざ伊織に向き直って言った。

キミもだ――キミが、今回のレイシフト適性の三番手だ」

ざわ、と周囲がどよめく。伊織本人が何かを言う前に、「……どういう意味だ?」と剣呑な声音で訊き返した者があった。ヤマトタケルだった。

「なぜ、イオリに『傀儡特異点』の適性がある? ――ふざけているのか?」
「まさか」

タケルが凄むのをものともせず――あるいは、こうした役割を長年やっているとサーヴァントの理不尽な感情の暴発にも慣れたものなのか――まるで何事もなかったかのように平穏な口調でタケルに向き直り、言った。

「残念ながらキミには適性がない。……が、多少のリソースを割いて小細工をすれば、果心居士の代わりとしてなんとかキミ一騎くらいは捩じ込めそうだ。……行くかい?」
「む……

鼻白んだタケルが、ひどくバツの悪そうにぽりぽりと頬を掻いて言った。

「その、悪かった。……完全に八つ当たりだった」
「いいよ」

朗らかに笑ったダ・ヴィンチが、「じゃあ決まりだね」と藤丸に向き直る。

「マスターは藤丸立香、同行サーヴァントはエルキドゥ、宮本伊織、ヤマトタケル。――事態については『トランシルヴァニアの古城を中心として傀儡をなんらかの軸とした特異点が形成されている』ということしか現時点ではわからない。同行サーヴァントについても、適性があるということは現地で起こっている異常に対して脆弱性がある可能性があるということを忘れないで」

準備を終えた一同が、コフィンに搭乗しレイシフトを実行する。着いた先は、観測されていた通りの深い森の奥にひっそりと佇む古城――から遠く離れた、中世ヨーロッパの村だった。



二、

村の中を歩きながら、「どういうことだ」とタケルが呟くように言った。

「今回の特異点は『1950年代のトランシルヴァニア地方』という話であったろう。――この村が、そうではないことくらいは私にもわかる」
「失敗したのかな、レイシフト」

すれ違いざまにこちらを覗き見る、白いヴェールを被った女性とすれ違う。ぴったりと足の先まで覆い隠すような長いドレスを着ていた。――きっと、ヨーロッパのどの地域であったとしても、1950年の標準的な服装ではない
煉瓦造りの街の中に、似たような服装の女性たちが散見される。男性の服装も似たようなものだった。フリルのクラバットに、細やかな刺繍の施された厚手のジャケット。宝石を嵌め込んだ大きなブローチ。――まるで、シェイクスピアの舞台劇の衣裳のような。

「カルデアと連絡は取れないのかな」

エルキドゥに尋ねられた藤丸が、「残念ながら」と肩を竦める。「失敗ということはないだろう」と周囲を注意深く見渡しながら伊織が言った。

「レイシフトした先の『1950年代のトランシルヴァニア地方』が『中世ヨーロッパの街並み』であったのなら、それこそがこの特異点における異常ということだろう」
「15世紀から時が止まっている、とか?」

首を傾げながら尋ねた藤丸に、伊織がふるふると首を横に振る。

「であれば、それはもはや異聞帯だろう。そんな大それた話ではない筈だ」

とはいえ、伊織としても現時点でそれ以上何かが言えるわけでもないようだった。
あてもなく街を歩く。――やがて、ぐう、と腹の鳴る音が聞こえた。エルキドゥが藤丸を見て、藤丸が肩を竦める。伊織は最初からタケルを見ていた。半ば呆れかえった顔で言った。

「マスターより先に腹を空かせてどうする」
「し、仕方なかろう! 生理現象というやつだ。……べ、別にきみに食べ物をねだったわけではないのだからそんな顔をせずともよいではないか」
「タケルのおなかが空いたのなら何か食べよっか。このあたりにレストランはあるかな」

藤丸が言い、きょろきょろと周囲を見渡す。すぐ先の角にそれらしいタバーンを見つけた。「とりあえず中に入ってみようか」と気を遣った藤丸が率先して先に駆けていく。

「マスター、危険だから先に行くな」と伊織が慌てて後を追い、その後をタケルとエルキドゥが追う。カランカラン、とベルの音を鳴らしながら藤丸が中へと入ってしまう。

カウンターには店主がひとりいて、昼間だというのに客もちらほらといるようだった。小さなテーブルを囲んで立ったままビールを流し込んでいる男もいれば、椅子に座って川魚の揚げ物を黙々と食べている男女もいる。
四人掛けの席を確保した藤丸が、「こっちこっち」と遅れて入ってきた三人を呼ぶ。カウンターで注文をし、その場で物品を受け取る仕組みであるようだったので、飲食を断ったエルキドゥ以外のふたりに、伊織が希望を尋ねる。
藤丸とタケルが周囲を見渡して目に付いたものを適当に頼む。ライ麦のパンやザリガニの揚げ物、それからビール――どうやら飲み物らしい飲み物がそれしかないようだった――を承った伊織が店主のいるカウンターへと向かう。

きょろきょろと周囲を見渡しながら、「……なあ、」とタケルが声を低く潜めて言った。声音に警戒の色が滲んでいた。

――静か過ぎないか」
「そうだね」

エルキドゥが藤丸を庇うように席から立ち上がる。
伊織が店主に注文をしているぼそぼそという声の他に、まったく声がしない。『川魚の揚げ物』を食している男女の、フォークが皿を突つくかちゃかちゃという音だけが、無言の周囲に響いている。――生きているという気配がまったく感じられない

――ッ!」

がしゃん、と音がして、伊織の息を呑む声がする。皆が一様にカウンターに目を遣る。「……セイバー、」と伊織が低い声で言った。

「マスターを連れて店を出ろ。……俺達は恐らく既に、敵の手中に堕ちている」

店主が差し出してきたらしい『ライ麦のパン』を伊織が手に取り、床に落とす。――カツン、と硬い音がして、パンが床を跳ねる。カン、カン、カン、と硬質な音を立てながらころころと転がり――エルキドゥの足元まで転がってくる。エルキドゥが拾い上げる。くん、と匂いを嗅いで、言った。

木彫りのおもちゃだ」
――周囲の客も、皆――ッ!」

藤丸とタケルが周囲を見渡す。――ビールを飲んでいると思っていた男のグラスの中身は減っておらず、二重になったガラスの隙間に色付きの水を満たしたおもちゃをただ機械的な動きで傾けているだけだった。『川魚の揚げ物』を突ついているフォークはただカツカツと皿を叩いているだけで、一度も揚げ物には刺さっていない。こちらも、木彫りのおもちゃであるようだった。

カタカタと、不自然な動きでタバーンの客らが藤丸たちを振り向く。――首を180度回転させてこちらを見る顔、顔、顔が、こちらに背を向けた胴体の上に載っている。そのぽっかりと見開かれた目が、ランプの光を反射している。カタカタと、くるみ割り人形のように切り込みを入れられた顎が開閉し、無機質な音を鳴らした。

からくり仕掛けの動きで不自然な方向に両腕を上げ、背中をこちらに向けたまま、顔と両腕だけが縋りついてくる。関節とは逆に曲がる脚が、よろよろと覚束ない足取りで追い掛けてくる。
タケルが藤丸を席から立たせ、その手を引いて店の出口へと走る。その殿を守りながら、エルキドゥも続いて店の外へと出た。「伊織――」と叫んだ藤丸の声を遮るように、「俺もすぐに追う。――セイバー、マスターを頼んだ!」と力強い声で言い、振り向きざまに店の扉を閉めるエルキドゥの動きを助けるように、伊織が店の内側から扉を閉めた。

エルキドゥに前後左右を護衛され、タケルに引き摺られるようにして街道を駆け抜けながら、「伊織」と藤丸が何度も後方を振り返る。伊織の影はない。「タケル、伊織が!」と藤丸が必死に呼びかけると、足を止めることなくタケルが言った。

「イオリは我らを追ってくると言った、だから心配するな。今はまず、この村から脱出することだけを考えよ」
「でも、伊織が」
イオリは大丈夫だと言ったのだ! ……私は、イオリにきみを任された。だから頼む、私の為だと思って今は自分の無事だけを考えてくれ」

激情に乱れた声で懇願され、藤丸が黙る。三人でそのまま村の中心を貫く大通りを駆け抜け、村の入り口を示す門を出る。

はあはあと藤丸が中腰になった膝に両手をついて背中を丸め、必死に呼吸を整えている。森の中へと続いている道を警戒し続けているエルキドゥとは反対側に立ち、タケルが村を見遣っている。――警戒か、あるいは追ってくる人影を探しているのか、藤丸にはわからなかった。

……タケル……

呼吸の乱れたまま藤丸が声を掛けると、「…………」とタケルが曖昧に返事をする。やがて、ふるふると頭を左右に振った。振り返り、言った。

「イオリは、きっと大丈夫だ。……私のマスターは、きっと大丈夫」

カルデアに来て随分と経つのにいまだに自分のマスターが誰であるのかを取り違えるタケルに、訂正してやる気は今の藤丸には起きなかった。「……そうだね」とだけ答えた。

森の方を眺めていたエルキドゥが言った。

「生き物たちの気配がする。……少なくとも、森の中は村の中とは状況が違うようだ」
「古城へ向かうぞ」

タケルが言った。

「元はと言えば、この特異点は古城を中心にして発生しているという話だった。――であれば、聖杯も元凶もきっとそこにある。……イオリも、きっとそこに向かう筈だ」
……そうだね。きっと、伊織と合流できる」

藤丸が頷く。うん、とタケルが頷いたところで、一瞬のうちに傍に生えていた巨木のてっぺんまで登って下りてきたらしいエルキドゥが、「多分、古城を見つけた」と告げた。

「東の方角に何かある。森の中を真っすぐに進めば、きっと辿り着ける筈だ」
「行くぞ」

タケルが逸るように駆け出す。それから戻ってきて藤丸を抱きかかえようとしたので、「ここは僕が」とエルキドゥが穏やかに制す。一瞬エルキドゥを見たタケルはしかし、深く頷いて再び先を急ぐように森の中を駆けていく。
藤丸を抱き上げながら、エルキドゥもタケルの後を追う。「……優しいんだね」と藤丸が言うと、「僕も、知らない感情ではないからね」と穏やかに言った。