mishiadd
2026-01-22 01:54:33
15955文字
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性癖決闘:洗脳され意思疎通できなくされた上で綺麗に着飾られる伊織殿

闇の決闘者あろさん( https://x.com/arrrr_ow )と2026年一発目の性癖決闘はなんと表会場で開催だァーーッッ本年もよろしくお願いしまァァーーーーッスッッ!!
果たし状:https://xfolio.jp/portfolio/arrow/works/5410786
その他レギュレーション:「めちゃくちゃ的確にセイバーの逆鱗に触れるモブ、静かにブチキレるセイバー」
pass:なんと全年齢のため不要(性癖決闘が全年齢のことも…あるんだよッ!!)


三、

伊織が目を覚ますと、まず真紅のベルベットの天蓋が視界に入った。がばりと上半身を起こす。体の沈み込む程に柔らかなマットレスが揺れ、自分が寝かされていたのが豪奢な装飾の施されたベッドであることがわかる。自分の身体を見下ろす。青緑色の着物も紺の袴も取り去られ、紺色の襦袢一枚の姿で寝かされていたようだった。
慌てて自分の周囲を見渡して二刀を探したが見当たらない。ベッドは広い寝室に置かれているようで、大きく取られた窓にはベッドの天蓋と同じ色をしたビロードのカーテンが掛かり、壁沿いに調度品やぬいぐるみ、人形などが並べられていた。

――人形。

思うところがありながらも、壁に二刀が立て掛けられていないかと悪足掻きで探してみる。やはり見つからぬ、と思ったところで、キィ、と扉の開く音がした。

「お目覚めかな? 私の愛しいお人形mon chouchou

こつん、と鳴った靴音に、伊織が目を遣る。「そんなに怖い顔をするものではないよ、せっかくの美しい顔が醜く歪んでしまうだろう?」と猫撫で声で言われた。
部屋の中へと入ってきた見知らぬ男を睨みつけながら、伊織が冷静な声で尋ねる。

――貴殿は」
「この城の主さ。この特異点の主でもある。――聖杯はここにあるよ、モン・シュシュ」

男が胸元から一瞬だけ聖杯を取り出し、そしてすぐに仕舞い込む。は、と息を呑んだ伊織はしかし、平静を装って尋ねた。

「目的は何だ」
「そんな大層なことではないんだよ。私はこれでも座に刻まれたしがない人形師でねえ」

暗に自らがサーヴァントであることを明かしながら、男は続けた。

「画家、作家、彫刻家、あるいは刀鍛冶、そして人形師。芸術家として生き、そして死んだのならば誰だって必ず未練があるだろう。――この手で、この生涯の最高傑作と全身全霊をもって言い切れる作品をこの世に残すことができなかった、自らが歩んだ人生そのものを否定しかねない危険極まりない未練が」
「そういうものか」
「そうとも。……さて、今この私の手の中には聖杯がある。生前の、人の業の域を超えられなかった私には決して扱えることのなかった秘儀の行使が、今の私であれば可能だ」

男の目が剣呑に光る。じり、とわずかに身を引いた伊織に気付いてか、ひどく嗜虐的な目をして男が伊織を見た。

「きみは既に私の習作を目にしただろう? あの村はねえ、私の愛しくも出来損ないの試作品たちを置いておくアトリエなのだよ。いくつかはそれなりの出来にしてやれたとは思うのだが、如何せん素体がそれ程よくない
「『素体』?」

伊織が興味を示したことに気を良くしたらしい男が、ベッドで身を起こしている伊織に一歩近づいてくる。途端に警戒態勢を取った伊織に、「そう怯えることはないだろう? まったく、可愛らしいことだ」と男がやに下がる。しかしそれ以上伊織に接近することはせず、その場で立ったまま言った。

「これは私の持論なのだがね。美しい人形とは、より美しい素体同士を組み合わせることによって生まれる。美しい花同士を組み合わせて美しい花束を作るように、美しい宝石同士を組み合わせて美しいジュエリーを作るように、美しいパーツ同士を組み合わせてひとつの完全なる美の概念を完成させるのだ。そしてそれは、単純に四肢や頭部といった肉体だけの話ではない。施す化粧によって同じ人形の素体でも大きく表情が変わるように――その美しい造形をもっとも美しく際立たせる『精神』、というものが存在する。つまり、人形の肉体に宿る意識だ。
――あの子たちはね、連邦から逃れてこの深い森の奥の村に隠れ住んでいた住民たちの一番美しいパーツ同士を組み合わせて作った私の人形たちなのだよ。最も美しい頭部、最も美しい胴体、最も美しい腕、最も美しい脚を組み合わせ、もっとも美しい表情をする精神を中に縫い留めたんだ。……悪くはないとは思うのだがね、続けていくうちにこうも思った。
――人形は、組み合わせる元となる素体が少なければ少ない程良い。ひとつの人形を造るのに五体、六体とたくさんの素体からそれぞれのパーツを持ってきたのでは、統一感がなくなってしまう。バランス、というのは美の大切な要素のひとつだからね。黄金比とも言うだろう。であれば、やはり素体は切り貼りせずとも元から美しいものが良い。美しい素体に、美しい精神」

伊織が辛抱強く聞いている。そこへ、口角を上げて狂気のような笑みを浮かべた男が再び近づいてくる。伊織が大きく身を引いたが、今度は男が止まる様子はなかった。

きみは美しい、モン・シュシュ。その整った美しい造形、その美貌。そしてそこに宿る『精神』。――私はね、人形師としての自らの審美眼には自信を持っていてね」

男がベッドの縁に片膝を掛ける。ベッドのマットレスが軋み、伊織が身を引いて逃れようとしたが間に合わず、ぐっと身を乗り出してきた男に正面から顔を覗き込まれる。
その目を見返しながら、伊織が戸惑ったように、それでも男の言葉から得られるなんらかの有益な情報があるだろうかとその場から逃げずにいると、クク、と男が喉を鳴らした。――伊織のかたちのよい顎を、乱暴に掴んだ。

人形はねえ中身が空っぽな方がいいんだ――記憶もなく、目的もなく、自分が何を望んでいたのかも、自分が何をするために生まれてきたのかもわからず、他者から望まれるままに、ただ美しい顔で美しいままに美しく微笑んでいる。――人形に意志など不要だよ、せっかくの美しい顔の表情が醜く歪むだろう?」

「モン・シュシュ、私の愛しいお人形」と囁いて、男が伊織の頬に顔を寄せる。ぺろり、と白い頬に舌を這わせた。

「その美しい月夜の瞳にわずかに残る月光の輝きを、この私が最後に消し去ってあげよう。それで完成だ」

伊織の切れ長の瞳が、大きく見開かれている。――その双眸の上に、男の手が掛かる。伊織の視界が、闇に覆われる。






四、

猫脚のバスタブにたっぷりと湯が張られている。

四肢に繋ぎ目のある侍女が、紺色の襦袢を着たままふらふらと覚束ない足取りで歩む伊織の後ろを、しずしずとついて回っている。
バスタブの横で無言のまま、伊織が襦袢を床に落とす。するりと肩を撫でて落ちていく紺の襦袢に映えるような、普段は着物に覆われていて日焼けしていない白い肌が露出する。

伊織が湯に長い脚を入れ、そのまま肩まで浸かる。それによって湯の温かさに安堵した様子もなかった。ただ、侍女に肌や髪を洗われて、磨かれるままにされている。

ひたひたとただ水音だけが響いている。侍女が伊織の癖毛の髪を湯に浸し、濡れてすっかり巻き毛のようにうねる髪を軽く絞り、ジャスミンとダマスクローズの香りのするシャンプーで念入りに泡立てて洗う。まるで物を念入りに洗うような、丁寧ではあるが事務的な手つきだった。
シャンプーを湯で流すと栗色の髪が艶めいた。そのまま、首から肩にかけてを入念に磨くように洗う。絹の布で腕を磨き、脚を磨く。まるで高級車を洗車でもするようだった。
背中や胴体もてきぱきと磨き、湯船に伊織を入れたまま、すっかり泡だらけになってしまった湯を一度排水する。――ぼんやりと宙を眺めている伊織の、背丈の割に細い身体にきれいな湯を掛けて流し、再び湯船に湯を溜めながら侍女が伊織の顎を掴む。――人形の『命』であるところの顔を磨くために、なんの感情も湧いていない無表情のまま、伊織のぼんやりと無表情のままの顔を覗き込む。

かつん、と靴音がする。浴室の入り口に寄り掛かった男が、伊織と侍女を眺めて言った。

「人形同士の戯れはいいねえ。綺麗なものと綺麗なものが触れ合っている景色を見るのは、まるで美しい絵画を見るように心が洗われるものだよ。お人形遊びは楽しいものだ。なあ、モン・シュシュ?」

男が浴室の中へと入ってくると、伊織の顎を掴んでいた侍女が立ち上がり、一礼して下がる。
湯を張ったバスタブに浸かり、頭からつま先までがびっしょりと濡れそぼった伊織が、単純に『音』に反応したように顔を上げて男を見上げた。焦点の合わない、ぼんやりと光を失った虚ろな瞳が、伽藍洞の視線を男に向けている。その顎を指先で軽く持ち上げて、伊織の整った顔を鑑賞するようにじろじろと男が眺め回した。

「少し日に焼けているなあ、せっかくの肌理細かな肌なのに。……絹の布で入念に肌を磨いた後、ほんのちょっとだけ粉をはたいてやりなさい。衣裳ドレスは私がとっておきのものを用意しておいたから、豪奢に美しく着飾ってやるのだよ。――ああ、お人形遊びは本当に楽しいなあ、このように美しいビスクドールであれば猶更だ。
……私としては、きみか、きみと一緒に来ていたあのもう一体の美しい土くれ人形――どちらかのドールでも手に入ればそれでよかったのだが、結果としてはきみでよかったのかもしれないなあ。……土と埃と汗まみれだったのをこうして磨いてやればどうだ、これこそ私の最高傑作の名に相応しい美貌じゃないか」

べろり、と伊織の湯に濡れた頬を男が舐める。身じろぎもせず、伊織はただぼんやりと宙を見つめている。その様子を改めて満足げに見てから、男が伊織の耳元に囁くように言った。

「私は、きみという至高のドールを生み出すためにこの特異点を造ったのかもしれない。……きみこそが私の運命だよ、モン・シュシュ」

伊織のしっとりと湯に濡れたままの、血色の薄い唇に唇を重ねようとして、男は逡巡する。――それは、もっと後のお楽しみに取っておくべきだろう。
男は勿体ぶった性格だった。毎食を必ず甘いデザートとコーヒーで締めるし、ケーキに載っている苺やマジパンは最後まで取っておく主義だった。この美しく美味しそうなドールの味見をするのは、すべてが終わった後がいい。

「旦那様」と無機質な声が浴室の入り口から聞こえたので、男が振り返る。その拍子に男の手が伊織の顎から離れ、かくん、と伊織が支えを失って湯の中で俯く。
入り口では、顔面に大きな縫い目のある執事が頭を下げていた。「なんだい? 騒々しいな」と男が尋ねる。

「この城に侵入者がございます。三人です」
「ああ、カルデアだね。――いいよ、私の最高傑作の性能を試す時だ。……この子はね、美しいだけではなくとっても強いんだ

バスタブに身を屈め、背後から伊織の素肌の両肩に手を掛ける。ぼんやりと感情の欠落した顔をした伊織が、まるで促されるように顔を上げ、執事を見る。
その耳元に唇を寄せ、ひそひそと男が囁いた。

「モン・シュシュ、私たちの敵がやってきたよ。私のために、すべて蹴散らしておくれ。――そうしたら、きみと私の記念すべき初夜を迎えよう。私の最高傑作、私だけの美しきドール。きみの美のすべてを、余すところなくこの私に見せて、捧げておくれ」

聞こえているのかいないのか、伊織の反応はない。そのこめかみに唇を落とし、男が手を離す。ぱしゃん、と湯の中に滑り込みそうになる伊織の身体を侍女が支える。――そのまま、再び伊織の顎に機械的に手を掛ける。手にした絹の布で、まるで宝石を磨くように肌を撫で始めた。

満足げにその姿を眺めた後、男が浴室から出ていく。かつかつと踵を鳴らしながら、回廊をくだっていった。