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留守田
2026-01-13 11:32:22
4747文字
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迷い狼のはなし
書類仕事めんどくさいなってアスタリオン卿と、動物に変身出来るようになったアスタリオン卿の配偶者のはなし。
ちらのーと2の方へ掲載していた短文のまとめです。
※脳内設定マシマシ。5eとか2024だと蝙蝠にしか変身出来ませんが、なんか昔は狼にも変身出来たとかなんとかなのでそのへんの話を採用してます。
1
2
「
……
晴れてるな」
執務室でペンを走らせる手を止め、アスタリオンは窓を見上げる。
午前十時のゲート市街は曇りひとつない晴れ模様が広がり、
昇天した
アセンダント
ヴァンパイアであるアスタリオンもまた、生者と等しく暖かい陽気を楽しむことが出来ていた。
しかしながら、窓から視線を屋内に戻せば
――
そこには、サインや決済を待つ書類の山が聳え立っている。
表向き、ザール家の摂政として己の身を立ててしまった以上、貴族の家の最も面倒な部分のひとつでもある領地管理はアスタリオンの仕事となった。
もちろん、アブソリュートの侵攻で職やら家やらを失った所をまとめて雇い上げた使用人達を使えはするが
……
いずれ世界を支配するにあたって、己の領地が管理出来ないでは話にならないだろうと考え、アスタリオンはこの面倒な書類仕事と真正面から向き合っている。
全てを手中に収め、管理したがるのはヴァンパイアの
性
サガ
だと言うが、手間も積もれば当然、支配する愉悦よりも面倒の方が勝るのだなと関係のない方向へ思考が及ぶ。
もう一度、書面に戻る。領地に存在する数々の村や集落も、件の侵攻で傷付き、民家はもちろん門から何から、とにかく修理するための出資とその許可を求めている。
現状は直接出向いて把握するようにしている。だからこそ、この書面で訴えられている被害は事実であり、書かれている金額も概ね妥当なものだと分かっている。
あとは自分が署名して、最近雇い上げた侵攻の被害で務めていた屋敷を失ったという執事へ渡すだけだ。
それだけ、なのだが。
「
……
」
それはそれとして、これだけ気持ちよく晴れているのなら三十分程度、陽の光を浴びるのに費やしてもいいだろうとアスタリオンは考える。
己の配偶者が傍に居たら“苔生す前に外に出た方がいい”などと言うのが容易に想像出来たからだ。
幸いにも、この宮殿で一番口煩い執事はアスタリオンの
落とし子
スポーン
であり、この時間は眠っている。昼の執事としてダリオンというヒューマンの老人も雇ってはいるが、彼は気分転換に外の空気を吸う程度では主人を咎めたりしない。
椅子から立ち上がったアスタリオンはペンの後始末をしてインク瓶の蓋を閉め、意気揚々と執務室を後にした。
散歩がてら配偶者の顔を見に行って、あの可憐な笑顔を見たら、またあの書類の山と向き合う気力が湧き出るだろう、と。
「ご主人様、おはようございます」
「おはようございます、アスタリオン様」
様々な種族の使用人達が、廊下を歩くアスタリオンの姿を見るなり頭を下げて挨拶をする。
ヒューマンはもちろん、ハーフエルフ、ハーフフッド、ドワーフ、ドラゴンボーン、ノーム、ティーフリング
……
他の屋敷に勤めていたなどで経験のある者が半分を占めるが、その中でも熟練と言える技術を持った者は更にその半数しか居らず、残りは全て未経験者だ。
最初こそアスタリオンは有能な使用人を金で集めるつもりだったが、彼の配偶者はその方針を聞くなり首を横に振った。
『アスタリオン、それではダメだ。金で忠義は買えない。使用人に秘密を守らせるなら、金を与える前に恩を売らなければ』
どちらか片方だけでは人の心は容易に裏切ってしまうが、両方持たせれば強固な防御術に勝るとも劣らない守りになると言う。
だから、まず侵攻で家や職を失っている者達の中から雇うといい、と提案してきた。
最初に聞いた時、アスタリオンは情深いはずの伴侶から出た言葉の合理さに思わず息を呑んだ。
が、納得はした。彼が生き残ることに必死だった
旅仲間
パーティ
達をまとめていた時は気付かなかったが、彼の役者という仕事では相手の心を掴み反応を引き出すのが常であった。
それは、見方を変えれば心に働きかける支配のひとつでもある。
使用人を使う立場として、より強固な忠誠を引き出すには何をしたらいいか
……
支配者としてのある種の本能が、自分とは違う答えを出したのだろうとアスタリオンは思った。
軽く頷いて通り過ぎれば、背後から微かな囁き声。
「はぁ
……
ご主人様はいつ見ても美しいわね」
「私達のような難民にさえ、こうして働き口と住処を与えてくださるなんて
……
」
「今日も一日、頑張りましょう」
そうだ。精々俺達のために──励むといい。
アスタリオンは口角を上げ、中庭へと出た。
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