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いまち
2026-01-04 14:36:49
19274文字
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本編番外編
おはなし一覧
/
ティナとねじれた魔法の世界
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ティナと諍いとお洋服
明日はマジフト大会当日ということで、今日の授業は午前中だけ。午後は明日の準備や練習のための時間を使うらしい。
みんながそれぞれに忙しそうにしている中、私はといえば、またも学園長さんに呼び出されて学園長室に来ていた。
「あぁ、わざわざすみませんねぇ」
「えと、私はいいんです、けど
……
」
忙しそうな時になんの用だろうと思って向かえば、学園長室にいたのはじっと俯いている学園長さんとお手伝いのユーレイさん。それと、トレイン先生とクルーウェル先生までいた。
先生二人はどことなくおっかない顔で向かい合っていた。あまりにもな剣幕にお部屋の空気がピリピリしている気がする。来るタイミングを間違えたんじゃないかって気がしたものの、呼ばれてすぐ来たんだから間違えてはいないはず。
ということは、また知らずになんかしちゃって、二人がかりでのお説教なんじゃないかと気付いてしまった。
(怒られる覚えはないんだけどな)
でも、先生二人の顔を見れば、とんでもないことをしちゃんったんだろうなってイヤでも気付かされてしまう。先生たちの言うことは守っているはずなのに、どうしてこうなっちゃうんだろ。
しょんぼりした気持ちになっていると、学園長さんがちらっと私に目を向けて、ついで、先生たちに声をかけた。
「ほら、お二人とも。キースリンクさんがいらしてますよ」
「む」
「あぁ」
そんな声掛けで先生たちが私を見ると、学園長さんはまた俯いてもぞもぞしはじめた。この感じだと私を呼んだのは先生たちで学園長さんはここのお部屋を貸してるだけなのかな? なんにせよ、先生たちの顔を見ればお説教なのは間違いなさそう。
なら、覚えはないけど諦めよう。しっかり反省して、同じ事を繰り返したりしなければ先生たちだって許してくれる
……
はず、と、思いたい。
「あの、すみません。私なにをしちゃったんでしょう?」
怖いなぁと思いつつ聞いてみるも、先生二人は分からないような顔を見せてきた。
「なんだ、また問題でも起きたのか?」
不思議に思っていると、トレイン先生がちょっぴり怖い顔で私に聞いてきた。けど、ここに呼び出されるようなことに覚えはないからかぶりを振った。
「ないです。えと、なんで呼ばれたのか分からなくて
……
また悪いこととかしちゃったのかなって思ったんです
……
ハイ」
恥ずかしいなと思いつつ、呼ばれたことについて言ってみると、先生は呆れたような顔でため息をついた。
……
肯定されないってことはお説教じゃないのかも?
「
……
えと、違うんですか?」
「違う。明日お前が着る服について話し合っていたんだ」
言いながら、クルーウェル先生は学園長さんの机を杖で指した。机の上には前にトレイン先生からもらったフロシキ包みと、やたらと大きくてつるつるした紙袋とが置かれている。
そういえば、トレイン先生から貰ったお洋服は時代遅れとかで没収されて、代わりのお洋服を用意してくれるって話をしたんだっけ。ということは、あの紙袋がお洋服なのかな?
「まったく、トレイン先生は固くていけない。もう少し価値観をアップデートするべきだと思うんだがな。なぁ、キースリンク?」
「へ?」
「そうは言うがね。彼女は未成年者であり学生の身分だ。粧すにしても節度というものがあるだろう。君も、そう思わないか?」
「えっと
……
」
二人して何を言ってるのか全然分からない。分からないけど、言い合いをするなら関係のない私を挟まないでほしいかも。セベクくんと妖精さんの時といい、なんでこんな扱いをされちゃうんだろ。
学園長さんは俯いてもぞもぞするだけでこっちに見向きもしてくれない。これなら学園長さんに助けてもらうのは諦めて、さっさとお話をしちゃった方がいいかも。
「あのぅ、話が見えないんですけど
……
お洋服のことなんですよね?」
「あぁ」
「その通り」
先生たちは頷いたけど、それがどうしてこんな言い争いになるんだろ? 重ねて聞いても、二人とも遠回りしたような物言いで、何を言わんとしているのかまるで分からない。けど、お互いがお互いの用意した服が気に食わないんだろうな。というのはなんとなく伝わった
……
気がする。
トレイン先生が用意したお洋服をクルーウェル先生がイヤがったのは知ってる。けど、代わりのお洋服はトレイン先生が良しと思わなかったらしい。
……
となると、どんなお洋服なんだろ? 気になるけど、先生たちも学園長さんも私に構う暇はなさそう。だから、部屋の隅で呆れ顔をしているユーレイさんに声をかけた。
「あのぅ、クルーウェル先生の用意したお洋服ってどんなものなんですか?」
「ん? あぁ、ちょっと待ってねぇ」
ユーレイさんはつるつるの紙袋から中身を取り出すと、魔法で広げて見せてくれた。
「ほら、こういうのだよ」
「
……
わぁ」
出てきたのはお腹が出そうな短いシャツに、リリアさんの寮服に似た皮のようなテカテカした短いズボン、網みたいな長い靴下、それと、とってももこもこした上着。と、暖かいんだか寒いんだか分からないお洋服だった。
「ありがとうございます」
「はいよぉ」
見せてくれたユーレイさんにお礼を言うと、ユーレイさんはお洋服を元の通りに畳んで紙袋に戻した。
クルーウェル先生が用意してくれたお洋服は動きやすそうではあるけど、風が冷たくなってきた今の時期にはちょっと寒いかも? あのシャツの丈だとお腹が出そうだもん。
だったら、トレイン先生の用意してくれたお洋服の方がいいかも? うっかり冷やしてお腹を壊したら大変だもんね。でも、あのもこもこの上着はあったかそうだし、ズボンも動きやすそうでいいかも。
どっちを着たものかと考えながら先生たちを見る、さっき広げてもらったお洋服をトレイン先生も見たようで、いっそう厳しそうになった目をクルーウェル先生に向けていた。けど、当のクルーウェル先生はまるで気にしていないような実に涼しい顔をしてくれている。
「キースリンクくらいの体型であれば着こなせるだろう」
「着られる着られないではない。節度の問題だ」
「何を仰る。これくらい、俺が学生の頃でも着てる奴ぁいましたがね」
トレイン先生は猛反対のようだ。それはなんとなく分かるかも。おじいちゃんも身体を冷やすような格好は良くないって言ってたもんね。トレイン先生も同じような心配をしてくれてるのかも。
そう考えたら、クルーウェル先生が用意してくれたお洋服はやめた方がいいのかもって気がしてきた。
でも、わざわざ用意してもらったのに着ませんって言っちゃうのも悪い気がする。どうしたものかなぁ。考えていると、後ろからドアを開ける音がした。
「え? 何の騒ぎです?」
ノックもなしに入ってくるなんて誰だろうと思って見ると、保険医の先生が言い争う二人を見ながらぎょっとした顔をしていた。
「あ、こんにちは」
「はい、こんにちは。
……
あの二人はどうしたんです?」
「えっと
……
」
学園長さんは相変わらずゴソゴソしていてこっちに見向きもしていない。なんなら、先生が入ってきたことにも気づいてなさそう。しょうがないから、私の着る服のことで先生たちが言い争いをしていることを説明した。
「
……
えぇー」
すると、先生は心底呆れたような顔になってしまった。
そう思うのもちょっと分かる。自分のならともかく、人に着せる服でこんなに言い争うのはなんだかなぁだもんね。
「そんなことで?」
「そんなこと、とは聞き捨てならんな」
「ちょうどいい、君のだらしない恰好も気に掛かっていたんだ」
ぽろっと溢した先生の言葉に言い争っていた二人が、じろ、とこちらを睨みつけてきた。たしかに、先生は他の先生と比べると服装は軽い感じかも。
髪はちょっとぴょんぴょんしててセベクくんみたいに整えてるわけでもないし、シャツの襟口は伸びている。ついでに、靴下は左右が揃っていない。それでも、汚れひとつなくキレイにしているようではある。
「はい、じゃあ取り込み中のようなので出直してきますね」
「あ」
睨まれるが早いか、先生はものすごい早さで回れ右をして、白衣を靡かせながら学園長室を出ていってしまった。先生の足よりドアが閉まる方が早かったようで、白衣の裾がドアに挟まったけど、それもすぐに引っこ抜かれた。
「えぅ
……
」
どうせなら私も連れてってほしかったかも。またはじまった先生たちのちくちく言い争いを横に聞きながら、ちょっとだけそう思っちゃった。
私がどっちを着るか決めちゃえば、争いだって収まるんだろうとは思う。けど、私が決めることで先生たちの勝ち負けみたいなのが決まると思うと、どっちがいいか、とはとっても決め難い。
ならいっそ、明日は寮に篭って一人でのんびりする方がマシなのかもって気がしてきた。そうしよっかな? 決めちゃえば、いつ終わるとも分からない話に付き合わなくていいもんね。
「わ、まだやってた」
「おかえりです?」
「はい、ただいまです」
考えていると、先生が戻ってきた。手には「ウニQ」と書かれた大きな紙袋を提げている。先生は二人をちらっと見ると、その紙袋を私によこしてきた。
「はい、じゃあ明日はこれ着てください」
「う?」
紙袋を上から覗くと、なるほど、たしかにお洋服らしい布地が三種類見えた。
「あの、え?」
お洋服合戦にまさかの先生参戦かと思ってヒヤっとしてしまった。というか、クルーウェル先生もそうだけど、理由もなくいきなり新品のお洋服を渡されても気が引けるというもの。
「えと、なんで、ですか?」
「なんでとは?」
「そのぅ、いただく理由がないと思うんですけど」
「あぁ。まぁ
……
キースリンクさんも着るなら普通の服がいいでしょう?」
「そうですけど。普通、ですか?」
わざわざこう言うってことは、二人の用意してくれたお洋服は普通じゃないのかな?
トレイン先生のはお古だけあって時代遅れっていうのは聞いたけど、クルーウェル先生のも普通じゃないのかも? たしかに、前にもらった冊子のお洋服とはずい分と趣味が違うなー、とは思ったけど。
「なんというか、二人とも極端ですからねぇ」
「
……
それは分かるかもです」
この世界の普通のお洋服がどんなものかはまるで分からない。けど、ここの制服とか、前に貰った冊子に載ってたお洋服とかを思うと、二人が用意してくれたお洋服はなんとなく「違う」感じがするもんね。何がどう「違う」のかは思いつかないんだけど。
なんとなく納得すると、先生はにこにこ笑いながら続けた。
「まぁ、今日までに行っていただいた治療費として受け取ってください」
先生いわく、私の治したケガは本来であればもっとたくさんのお薬や消耗品を使うもの、だったらしい。それを私が治したものだから、その分のお金が浮いたそうだ。で、このお洋服になったのだそう。
……
でもなぁ、それを言ったら私が使ったおくすりだって、元を辿っちゃえばタダみたいなものなんだよね。それなのにいいのかなぁ、って迷っていると、先生はごくごく小さな声で「いつまでもあの二人に挟まれてちゃあ困るでしょう?」なんて付け足した。
「
……
それはそうですけど」
「なんにせよ、遠慮はいりません。趣味に合わなきゃ無理に着なくてもいいので」
「あ、いえ! 大事に着ます」
かぶりを振って、紙袋を受け取った。
どんなお洋服なのか分からないけど、見た感じではコットンと毛かな? カボックでも見慣れた生地のようだった。畳んであるから形は分からないけど、シャツとセーターと、職人さんが穿くような丈夫そうなズボンに見える。
先生が言うには普通のお洋服らしけど、カボックの感覚では新品でこんなキレイなお洋服となると、贅沢に感じちゃうかも。
気は引けるものの、乙女心は新しいお洋服なるものに惹かれてしまうもの。用意してもらったお洋服をありがたくいただいて、先生にお礼を言った。
「あの、ありがとうございます!」
「いえいえ、こちらこそ」
それから学園長さんに着る服が決まったことを伝えると、明日の私の動きについての説明と、コロシアムに入るためのチケット。
……
それと、先生たちが用意してくれたお洋服までも受け取ってしまった。
曰く、いつかは着ることがあるかもしれないから、らしい。そういうものなのかな?
「はぁ
……
えと、じゃあ、いただいてきますね」
「えぇ、えぇ、お持ちください。ではまた明日」
「あ、はい、失礼します」
学園長さんと保険医の先生、それと相変わらずちくちく争いを続ける先生たちにも声をかけて学園長室を出た。さすがにお洋服三組ぶんとなると重いけど、どうにか寮に持って帰らないとだ。
「そのボス、タンクは王子のがいいですよ」
「え、そうなんです?」
「えぇ、カウンターついでに回復撒くんで、ヒーラーなくても回るんです」
「うぅん、いないんですよねぇ」
「天井してください。それだけの価値はあります」
「むむむ」
出る間際。王子って言ったのが気になってちらっと見ると、俯きながら手元を見る学園長さんと先生がいやに真剣な顔をしていた。
なんのお話なのか分からないけど、王子様とか言ってるからマレウスさんの話かな? 気になるけど、盗み聞きみたいなマネはよくないもんね。気にしないようにして、寮へ向かった。
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