ぴかぶ
2025-12-31 23:16:41
9734文字
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思いがけずも、ハッピー・エバー・アフター!

『3の倍数でバカになりながら100まで数えないと出られない部屋』に閉じ込められる事件から日々は過ぎ……騎士と海賊は新たな年を迎えようとしていた。
これは、あるパーバソの愛の証明の物語である。

にぎやかな新年の初笑い
やるか!?伝説の聖槍ギャグ
お蔵出しの秘策で笑いの頂点へ!
たっぷり魅せます二人の愛
むてきのコンビ、 パーバソ見参!

​【番組詳細】
​初笑い!円卓かくし芸NO.1決定戦 ▽今夜、カルデアに伝説が生まれる▽異色の初タッグ!騎士パーシヴァル×海賊バーソロミューのパーバソが参戦▽「彼らならできる」魔術師マーリンが太鼓判を押す、驚愕の演目とは?▽準備期間はわずか一週間。体当たりで挑む二人の秘策が炸裂する!▽沈黙を守る王の瞳に映るのは、笑いか、それとも困惑か…?驚きの結末を見逃すな!(正月特番風)
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※かっこいいパーバソはいません
※第5回プロット交換会(夜の部)で書いた『不本意ながら、ノット・ソー・バッド』の続編のようなもの
※このお話は全年齢向です


★★★
年が明けた。
例年であれば、ドレイクの招集を受け、宝具で呼び出したゴールデンハインド号の甲板での酒宴に参加している時間である。しかし私は新春初笑いのため、カルデアのステージエリアを訪れていた。差し出した手土産の茶菓子を受け取り、王は私達を扉の奥に招き入れる。
客席には既に円卓の騎士達の姿があった。ベディヴィエールから話が伝わっているのだろう、パーシヴァルに伴われて客席に立ち入る私に、何故海賊がここにいるのだと問う者はいない。

カルデアがいくつか所有するステージの一つ。
ネロやエリザベートがライブを行う会場とはちがい、ここはこじんまりとして舞台と客席との距離が近い。アビゲイルの人形劇や、日本サーヴァントの落語なんかが披露されるときによく使われるステージだ。
今回は大掛かりな照明設備や特設の花道が組まれ、いつもと少し様相は異なるが。
挨拶もそこそこに客席に座らされ、厳かに舞台の幕が上がる。

マーリンのこなれた司会によって、演目は進む。
一つ目の演目は、ガレスの影絵を交えた朗読劇。
美しい指先がたくみに動かされ、キツネ、カエル、ウサギ、羽ばたく鳥、影はさまざまな動物に変化する。最後は白鳥が湖を泳ぐシーンで、物語は結末を迎えた。万雷の拍手がわきおこる。

新春かくし芸大会とは言うものの、出し物は笑いに特化する必要はなく、一人一つというわけでもない。

続くモードレッドは、カンフーアクション。途中、次々と早着替えが加わって、派手なアクションはいっそう華やかさを増した。軍服、水着、スーツ。あっと驚くような美麗な衣装は、ハベトロットや槍のヴラド公によるもの。アクション指導は燕青と李書文だ。

トリスタンは一年のハイライト映像を流しながらの弾き語り、ガウェインのマッシュに特化した三分間クッキング、ランスロットはロムルスやカエサルのモノマネと、披露する内容は幅広い。
円卓はもっとお固い連中かと思ったが、なかなかどうして機知に富み、それぞれに面白みがある。そしてどの演目も非常にレベルが高い。私はひりひりと掌が痛むのも気にせず、感動のまま盛大な拍手を送った。

しかし、ひとつ気にかかることがあった。
客席の王がクスリとも笑わないのである。
誰もが感嘆の息を漏らし、惜しみなく拍手を送るときでさえ、彼女の横顔は冴えた月のよう。唇は知的に結ばれ、長い睫毛は優美に瞬かれるばかり。
“王は人の心がわからない”、プレゼンのときにベディヴィエールがさらりと口にした言葉が思い出される。嘘だろう……こんなに面白いのに、こんなにも完成度が高いのに、まったく心が動いていないというのか? 渾身のネタも、彼女の怜悧な瞳で見つめられれば、弱体化は必至。芸人殺しの美貌、その恐ろしさに、背中をじとりと嫌な汗が伝う。しかも、私達の出番は、この後……最後のトリなのだ。

「さあ、最後は期待の超新星! パーシヴァルとバーソロミューのコンビの登場だ。とある部屋から奇跡の脱出を果たしたその実力は折り紙付き! 3の倍数でバカになるというクラシカルな芸風を突き詰めて、絆を深めたという噂もあるとかないとか……?」
やめてくれ、あの出来事を思い出させるな。というか3の倍数でバカになる芸風をさせたのは貴殿だろう。そして煽るのはいいが、無闇にハードルを上げないでほしい。
壇上から、舞台袖のマーリンを睨みつける。ひらひらと手を振って、マーリンはウインクとともに明るい笑みを返した。
「ま、長々と語るよりも見るほうが早いかな。では、さっそく始めてもらおうか。お二人さん、よろしくたのむよ」
そしてハードルを上げたまま、おざなりなフリで開始を促してくる。な、なんだその開幕は。ガレス達のときには厳かな紹介をしていたじゃないか。いつぞやの水着剣豪七色勝負の時のように、いい感じに決めてほしいのだが!?
思わぬ形で出鼻をくじかれ、直前まで練り上げていた緻密なイメージが霧散していく。これはもう、やけくそで始めるしかない。

トン。そのとき、隣に立つパーシヴァルの大きな手がトンと私の背中を叩いた。大丈夫だよと鼓舞するように。客席には見えないが、服越しに彼の手のひらの温度が伝わってくる。
バート、行くよ。その囁きに応えて、頷く。
――ああ、君となら怖いものなど何もない。

「では、僭越ながら。“3の倍数でバカになる”とは、どういうことか。私達が愛の力で100まで駆け抜ける様を、ご一同、とくとご覧あれ!」
スゥ、白銀の騎士は大きく息を吸い込んで。

……聖槍、二重拘束、解除。ロンギヌス、カウント………………さぁぁぁァァァィァアンッッ!!!!」

ペカーーーッ!槍が真白い光を放つ。
全員の視線は、一斉に大声を放つパーシヴァルに注がれた。大きな声と光でぐだついた司会の余韻を薙ぎ払い、一瞬で場の空気を掌握したのである。ついでに、救済の光で折れかけた私の心をちょっぴりと回復して。

“3の倍数でバカになり、100になるまで出られない部屋”。互いの想いを確かなものにしたあの日をなぞる。やり残しを、精算するために。
あの日、私達はゴールの100に辿り着くことができなかった。“72”の実践中、レギュレーション違反で強制退室させられてしまったから。
あの日と違うのは、準備期間があること、そして私達の信頼が増したこと。
前回の反省を踏まえ、今度こそ二人で3の倍数で一気に100までを駆け抜ける……

音もなく、特大のカウンターが背後の壁面に出現した。はやくも、カウントが進み始める。
すかさず息の合った漫才で、ボケとツッコミの応酬を重ねていく。掴みは上々。
たくさん、イジッて、ツッコんで。
パーシヴァルのタゲ集中スキルのおかげで、こちらのノリツッコミもうまくキマった。

ネタの合間にバカになる顔芸を挟んで、6から21までカウントが進む。その間、ロンゴミニアド級の笑いもドカンドカンと発生。笑いは私達への追い風になる。風を読むのは職業柄、得意だ。感覚に任せて、舵をきっていけば良い。

フリップネタ。パーシヴァルが繰り出すゆるいタッチの絵に、皆、困惑を隠せない。
「パーシヴァル卿、それはいったい……
「今年の干支、うま🐴です」
「う、うま……?」
「あ、愛嬌がありますね」「パー公の下手ウマ絵、初めて見たわ……ち、ちっげーよ、トリ公! 馬と上手いをかけたんですね、じゃねえ!」「おや、違うのですか?」「このタッチ、マシュに似た才を感じる……
「あの、パーシヴァル卿。そちらの丸いものは?」
「おや、わからないかな。これは」
パーシヴァルが放つひときわ大きな「27ツナ!!!」の一声に、ガレスが呼吸困難に陥るほど笑い転げた。シュールなうまの絵は、よほど印象深かったのだろう、ガレスの初夢にも現れたという。

30、黒髭のモノマネで、海賊あるある。
「拙者の名前はエドワード・ティーチ。職業、海賊。つまり──無職!……年金とかないでござる?」
黒髭のモノマネはドレイクお墨付きのテッパンネタだ。
「ハードタックにもうウジがわいてるでござるゥ〜🥺マジツラたん🔫」
客席のモードレッドがフハッと吹き出すのが見えた。海賊ネタで円卓から笑いが取れたことに、私は密かに安堵する。

36、「君は上腕三頭筋の三郎! ハッ 君は上腕二頭筋のサム! セイッ 合わせて上腕六頭筋! さあ、みんなにご挨拶をしよう! ヤァーーッ💪」
「卿に負けてはいられないと、我が上腕二頭筋も奮い立っております! ヤァーーッ!」
パーシヴァルの筋肉会話に、客席からガウェインの合いの手が入った。周囲から笑いが湧き起こる。さすが円卓の同士だ、思わぬ追い風に感謝である。

39、円卓ラップ。
Yoヨー! yoヨー! Check itチェケ, 伝説の騎士、ここに集結! 日輪の加護 受けるガウェイン 正午の太陽 無敵のメイン ガラティーンの炎 焼き尽くす怒涛……
忠義の騎士 ベディヴィエール 数奇な運命辿る モノクロームな旅路 アガートラムが導く ……これからも続く 騎士道の探求タンキュー ……かけがえのない仲間に 心込めて 39サンキュー!」
日頃の感謝を込めたその歌は、パーシヴァルがメモを片手に時間をかけて歌詞を考え、練習を重ねた成果である。歌に聞き入る円卓の面々の笑顔を見て、私も胸の内が熱くなった。

51、『恋する触手のサンちゃん』。パーシヴァルの一人語りだ。兄弟のうち一人だけ3の形に折グセがついている触手のサンちゃんは、いつも穴ぐらで泣いていました。しかしある日、穴に落ちてきたノネズミに一目惚れ……私も楽しみにしていた新作だ。笑いあり、涙あり、優しい声に誰もが聞き惚れ、夢中になる。
ポロン……ポロポロリン……。トリスタンが切なくも心温まる音楽を即興で奏で、物語は佳境を迎えた。
打ち合わせもなしに、演奏はパーシヴァルの独白に寄り添い続ける。部屋全体を包み込むような一体感。
素晴らしいカタルシスだ。気づけば、透明で温かなものが、皆の頬を濡らしている。
「サンちゃんの告白に『きゅきゅっ、きゅう〜〜』とノネズミが応えました。2匹の愛は実ったのです……おしまい」

99、愛らしいノネズミの鳴き声が、カウントすべき最後の3の倍数となった。

パーシヴァルは私の手を取ると、そっと小さく微笑んだ。その手を握り返し、同時に口を開く。
「100」
重なる声。しめやかに数を刻み、今、カウントはついに100に達した。
王は笑わない。結局、彼女が笑うことは一度とてなかった。しかし私達の前に進み出て発された声は、静かな優しさに包まれていた。
「パーシヴァル卿、そしてバーソロミュー・ロバーツ殿。善いものを見せてもらいました。たくさんの練習を重ねたのでしょう。息の合った掛け合いに、二人の愛をしかと感じました。素晴らしいひとときの礼として、私からも贈り物を。……シールサーティン・ディシジョン・スタート」
王の隣に歩み出て、杖を振りかざすマーリン。
――承認」 
ふわ、王の聖剣に淡い光が生まれる。
マーリンが厳かに声を上げた。
「ベディヴィエール」「はい」
「ガレス」「はい!」
「ランスロット」「はっ」
「モードレッド」「おう」
「ガウェイン」「はい」
「トリスタン」「……はい」
「アルトリア」
――これは、私達からの祝福である。こたびの縁に感謝を捧げ、二人の末永い幸福を祈りましょう」
祝福の聖剣をかざして、王が微笑む。
これまで笑わなかった彼女が、このとき、淡い光を帯びながら、確かに笑ったのだ。
「バーソロミュー殿、パーシヴァル卿を頼みます」
認められた、と感じた。
彼女にとって、私が混沌・悪の海賊であることや矮小な霊基であることは、さしたる懸念ではなかったのかもしれない。
彼女が終始笑わなかったのは、つまらなかったからでも、人の心がなかったからでもない。はじめから私達二人の本質を、真っ直ぐに捉えようとしていたから。
そして、認めてくれた。彼女の柔らかな微笑を、私はこれからもずっと覚えているだろう。

「君たちの道行きを示そう、さあ、行きなさい!」
マーリンが杖をかざしたところから、ほわほわと色とりどりの花があらわれる。階段は花道となった。ポロン、ポロンと音楽が奏でられる。パーシヴァルに手を取られ、花が咲き乱れる道をゆく。たくさんの祝福を受けて、私は……