ここ
2025-12-30 15:20:20
18061文字
Public 小説
 

【リバリン】告白🔞

<2025.8.19初出>
リンクの告白から始まるリバ(←)リン。



 リーバルはしばらく絶頂による興奮をやり過ごすように動きを止めていたが、荒かった息が落ち着いてくると、身体の下から啜り泣くような声が聞こえることに気づいた。ひく、ぐすんとしゃくりあげるのに合わせて、組み敷いたままの身体が震えているのがわかる。
「う、……っひ、ぐ……ぐず……
……何だよ、お望み通りに抱いてあげたっていうのに」
 射精したことによって、頭の中が少し冷静になっていた。萎えた自身がズルリとリンクの中から引き抜けて、スリットの中に戻っていく。打ちひしがれた様子で啜り泣くリンクの様子に、今になって気まずい思いが湧き上がってきていた。怒りに任せて抱いてしまったのは流石にやりすぎたか。いやでもそもそもリンクは見知らぬ行きずりのリトの男に抱かれようとしていたわけで。それを考えれば多少強引に抱かれたからといって、こんなに泣くほどショックは受けないのではないか。
……なら、僕に抱かれたのが嫌だったってこと?)
 少しは思考する余地が生まれた脳内であれこれ考えて、つまらない答えにたどり着いたリーバルは鼻を鳴らした。
「何が気に食わなかったの? もしかして今までの相手がよっぽど床上手で、そいつが忘れらないとでも言うのかい? それで僕はお役御免ってこと?」
……違う!」
「何だよ急に大きな声を出して……うわっ」
 小さく震えていたリンクはリーバルの言葉を鋭く否定すると、まだ自身の身体にのしかかったままだったリーバルの胸をドンと強く突き飛ばした。唐突な行動に虚をつかれたリーバルはリンクの上から転がるように降りて尻もちをつくと、リンクをポカンと見た。
「は? 何なの急に……
「違う、違う、違う……っ!」
「だから何が」
「抱かれてない、誰にも! 誰ともこんなことしてない!」
「は、はぁ? 今更何を言ってるんだ? こっちは言質をとっているんだよ、君が何人ものリトの男と寝てるって──」
「だからっ、それ……本当に寝てるだけだよ単純に! ベッドで横になって……眠ってるだけ……!」
……は?」
 ちょっと待ってくれ、なにを言っているんだコイツは?
 予想外の言葉に混乱したリーバルは、オロオロとベッドから降りて後ずさった。ベッドの上に身を起こしたリンクは肩を怒らせ、赤く腫らした目元に再び涙を湛えてリーバルを睨みつけている。
……君が何を言っているのかさっぱりわからない。どういうことなのか最初から説明してくれる?」
「やっと話を聞いてくれる気になったんだ?」
 狼狽えたリーバルを見て吐かれた言葉は、掠れて弱々しいながらリンクには珍しい皮肉の漂う口ぶりだった。リンクは身体の下でしわくちゃになっていたシーツを手繰り寄せると、リーバルに好きなようにされた痕跡の残る身体を覆い隠すようにシーツを纏った。

***

 いつも不遜な態度を崩さないあのリーバルが、リンクの目の前で動揺を隠しきれずに狼狽えている。リンクは乱暴に拓かされた身体の奥に鈍い痛みを感じながら、どこか達観した気持ちでリーバルを眺めていた。どうしてこうなったんだ。きっとお互いにそう思っているこの事態の原因は全て、リンクがリーバルに好きだと告げたことだろう。

 リンクはリーバルが好きだった。それは友情としてではなくて、恋慕として。
 好きになったきっかけは多分色々とあって、正直なところリンクにもはっきりとはわからない。けれど、自分の気持ちを自覚したきっかけはちゃんと覚えていた。ある時、珍しく二人きりで魔物討伐に出向いた際に、討伐後の帰路の雪山で急な吹雪をやり過ごさなければならなくなったことがあったのだ。リーバルとリンクは二人がやっと入れるくらいの、岩陰といった方が正しいくらいの洞窟に身を寄せ合って吹雪の夜を過ごした。リーバル一人だったら、吹雪をものともせずに帰還することもできただろう。けれどリーバルは、彼にとっては気まぐれだったのかもしれないが、リンクを見捨てずに大きな翼の中に包み入れてくれた。初めて包まれた翼の温かさ、リンクが冷えていないか時折確かめるさりげない視線。ウトウトと夢現の間でそれを感じながら、リンクは唐突にリーバルのことが好きだという気持ちに気がついた。それは雪山から帰還して、リーバルがそんなことはなかったかのようにいつも通りの素っ気ない態度に戻っても、小さな灯火のようにしっかりとリンクの心を温めていた。
 気持ちを伝えないという選択肢はもちろんあった。厄災に対する準備は全てが順調というわけではなかったし、魔物との戦いは日に日に熾烈さを増していて互いに明日の知れない身の上だ。しかし、だからこそリンクは気持ちを伝えることにした。伝えない後悔よりも伝えて後悔する方が良いと思ったのだ。
 もしかしてリーバルが気持ちを受け入れてくれるんじゃないかという期待が僅かもなかったといえば嘘になる。しかし、たぶん振られるだろうなということはリーバルの普段の態度から十分に予想できていた。そもそも同性で、その上種族も違うのだ。だから、振られたこと自体は悲しいは悲しいが、同時に納得もしていたのだ。こうしてリンクの小さな恋は呆気なく終わりを告げた。

 しかし困ったことに、リンクは一度だけ触れたリーバルの翼の温もりがどうしても忘れられなかった。気持ちを伝えてしまった以上、リーバルはきっと、今後リンクに接する際には一線を引くだろう。あの温もりはリンクを純粋な戦友だと認識した上で与えられたものだったのだから、もし万が一再びあの雪山のような状況になったとしても、リーバルに想いを寄せるリンクにあの優しさが与えられることはない。
……俺はもう、二度とあの翼に包まれることは無いんだ)
 そう思い至ると、暖かい部屋の中にいても身体の奥が冷える想いだった。あの温もりを知らなければ、耐えられたのに。けれど、一度その温もりを知ってしまってはもう心が凍えそうだった。羽毛布団なんかではとても紛らわせない凍えに、リンクは人知れず幾晩も枕を涙で濡らした。

 騎士としての矜持もありそんな苦しい内心を態度や行動に出すような真似はしなかったが、リンクは少しずつ憔悴していた。リーバルがまるで牽制するかのようにリンクの行動を逐一監視している様子であることも、気疲れに拍車をかけた。
(そんなに警戒しなくても、もうリーバルに気持ちを押し付けたりしないよ)
 そう思う一方で、もしかして自分でも無意識のうちに物欲しげな目でリーバルを見つめているのかもしれない。それをリーバルは見抜いていて、うっとおしく思っているのかもしれない。そんな風に疑い始めると、リンクはもうどうすれば良いのか分からなくなっていた。そして自分でも軽率だとは思ったが、ある一つの策を思いついたのだ。それは、リーバルではない、他のリト族に抱きしめて寝てもらうということだった。リーバルではなくても、リトの翼に包まれて眠ればあの幸せな記憶を追体験できるのではないか。少しでも、この胸の隙間を埋めることができるのではないか。それがまやかしだと分かっていても、リンクはそれに縋らざるを得ないほどに凍えていた。

 リーバルには気づかれたくないから、相手はリトの村には住んでいない者じゃないといけない。種族が異なるとはいえ男女の仲を疑われては相手にとって迷惑だろうから、女性よりも男性の方が都合が良い。そんな打算的な思考と衝動に押されるがままに、非番の日に城を抜け出したリンクはとある馬宿で見かけた旅のリト族に声をかけ、いくばくかの謝礼と引き換えに一晩を一緒に過ごしてもらった。リーバルの腕の中の記憶には勝らないが、それでもリト族の大きな翼に包まれて目を閉じると、胸の中の冷えが少しマシになったように思えた。それに味を占めたリンクは、良くないとは思いながらも時間を見つけてはひとり馬宿を訪れ、一晩を一緒に過ごしてくれるリトの男を買っていたのだ。じんわりと噂が広がりつつあることは、リンクも認識していた。もうやめなくては、これを最後にしなくてはと思いながらも、まやかしの温もりを手放す勇気が出ないまま、休みのたびにふらふらと引き寄せられるように馬宿を訪ねてはリト族の男を探してしまう日々を繰り返していた。
 それが、「リト族を買うハイリア人」の真相だった。

***

……は? え? じゃあ君は、誰にも抱かれてないってわけ……?」
 リンクの話を聞き終えたリーバルは、呆然としていた。リーバルの問いかけにリンクがコクリと頷いて肯定するのを見て、頭が真っ白になる。
「いや、だって君、自分で準備したって……
 男をすぐに受け入れられるように、自分で身体を慣らしていたのではなかったのか。呆然としたまま呟いた言葉に、リンクが頬にサッと朱を走らせる。
「あれは、準備したんじゃなくて、その……自分で欲を処理する時に、触ってて……
「なんで……?」
 リンクの言葉に理解が追いつかなくて、間抜けに問い返してしまう。
「なんでって、それは……リーバルのことが、好きだから……
……僕に抱かれる想像をして、自慰をしてたって?」
……気持ち悪くてごめん」
「いや、それは、まぁ別に良いんだけど」
 混乱のままによくわからない受け答えをしてしまう。リンクが死にそうな顔をしながら告げた赤裸々な自慰の内容よりも、その前に明らかになった衝撃の事実でリーバルの頭の中はぐわんぐわんと揺れていた。
(──じゃあリンクはこれが初めてだったってこと!?)
 誰彼構わずにリトの男を食い漁っているのだと、男慣れしている身体なのだと思って、それがどうしようもなく腹立たしくて、八つ当たりのように必要以上に強引に行為を進めたことに青ざめる。
「な、なんで誤解だって言わなかったの!?」
……リト族と寝てる、って言うのは本当だし、最初はリーバルが勘違いしていることに気づかなくて。途中で何回か伝えようと思ったんだけど、リーバルはずっと怒ってるし、話そうとするとすぐに黙れって言うし……
 リンクのもっともな言い分に、グッと言葉に詰まる。確かに頭に血が昇ってリンクの話を聞こうとしなかった。言い訳なんて聞きたくないと、勝手な思い込みで最初からずっとリンクのことを拒否していた。
「わ、悪かった。そうだって知ってたら……
 リーバルは言いかけて言葉を切った。リンクが単にリトの男に添い寝を頼んでいるだけだと、最初から知っていたら。リンクが自棄になって男漁りをしているのではないと知っていたら、自分はどうしたのだろう。リトの羽毛は世界一だからね、君が虜になるのも致し方ないよと笑っただろうか? それともやはり、怒ったのだろうか? でも、だとしたらそれは何に対しての怒りなのだろう。しかし少なくともこんな怒りで目の前が見えなくなるほどに荒れ狂ったりはしなかったはずだ。リーバルの翼が恋しいと泣くリンクを見たら、こんな無理やりじゃなくて、きっと優しく──
「──俺のことなんか抱いたりしなかったのに?」
 言葉を途切れさせたリーバルをどう解釈したのか、リンクが自嘲するように口を歪めた。
「リトの人たちを巻き込んだのは悪かったよ。リーバルが怒るのも当然だよね。でもリーバルだって人の話を聞かなかったんだからさ、今日のことは犬に噛まれたとでも思って忘れてよ」
 もうこんなことはしないから、と目を伏せて言うリンクは、あくまでリーバルがリトの男たちのために怒り、リンクの無法な行動を嗜めるために嫌々抱いたのだと信じて疑わない様子だった。感情を剥き出しにしていたリンクの表情が、揺れていた瞳が、冷静を装うように感情を隠し始める。
「ここは片付けておくから、リーバルはもう帰って」
 リーバルの顔を見ずに、ベッドの上で自分をかき抱くように身体を縮こまらせたリンクがそう告げるのを聞きながら、リーバルは自分の心臓がドクンドクンと脈打つのを感じていた。薄い膜で隔たれたようにいつも通りの無感情を装っているリンクの、瞳の奥がまだ揺れている。ここで逃げてしまえばきっと、この先リンクが本当の意味でこの瞳にリーバルを映すことは無いのだろう。そう考えると居ても立ってもいられず、リーバルはベッドの上で小さくなるリンクの顔を下から覗き込むように床に膝をついた。とにかく、誤解を解かなくては。何が誤解で何が本当なのか自分でもわからない状態で、焦る気持ちのままに嘴を開く。
「違うんだ、怒ってたんじゃなくて……、いや怒ってたのはそうなんだけど、それは君がリトの男たちに抱かれてたからだと思って……
「だから、俺がリトの人たちに迷惑をかけてたから怒ってたんだろ?」
「それもそうなんだけど、そうじゃなくて! ……君が僕のことを好きだって言ったのに、簡単に他の男に抱かれたんだって思ったら許せなくなって……
 自分でも考えがまとまらない。めちゃくちゃなことを言うリーバルを、リンクは不思議そうに見つめている。このままじゃ埒が明かない。
「だ、だから要するに! 僕は君に好きだって言われて、悪い気はしなかったんだ!」
 リーバルは気恥ずかしい気持ちを押して吐き捨てるように言った。
「なのに君は、僕がちょっと言い返したくらいであっさり諦めるし、その上当てつけみたいに他の男に抱かれてるんだって思ったら、バカにするのもいい加減にしてよって頭に血が昇って……
……リトの人たちじゃなくても、リーバルは俺が他の人に抱かれるのが嫌なの?」
 ベッドにへたり込んだまま、リンクが感情の読めない瞳でポツリと呟く。
「そう、だよ。君が他の男に抱かれるのは嫌だ」
 湧き上がった感情を言葉にすればするほど、意地を張って言い逃れしてきたある一つの事実に行き当たる。さすがのリンクも、それに思い至ったのだろう。呆然とした表情でリーバルを見つめながら「それって、……」と溢したリンクに、リーバルはヤケになった気持ちで「ああそうさ!」と叫んだ。
「僕も君が好きなんだ。噂を聞いて早とちりして、こんな粗相をしでかすくらいにはね!」
 口に出してしまうと、改めて自分の感情がストンと腹落ちした気分だった。どうしてリーバルがずっとモヤモヤして、怒っていたのか。それも全部、リンクのことが好きだったからなんだ。
 素直に自分の気持ちを認めてスッキリした反面、リーバルの愚行が招いた状況が最悪なことには何も変わりなかった。自分が好きな相手を、好きだと自覚する前に無理やりに凌辱してしまったのだ。どんな勘違いが原因だったとしても許されることでは無いだろう。自分の馬鹿な行いのせいで、リンクの心と身体を傷つけてしまった。リーバルはもはやリンクの顔を見る勇気も出ずに、がくりと項を垂れて断罪を待った。
……ごめん。本当にごめん。つまらない意地なんか張らないで、素直になればよかった。君をたくさん傷つけて、嫌われてしまう前に……
 許されるとは思っていないけれど、と後悔に呻くリーバルの頭上から、吐息ほどの微かな空気の揺れを感じた。それに乗って、小さなリンクの声が聞こえる。
……だよ」
「え……?」
「まだ好き、だよ。リーバルのこと。あんな風にされても喜んでしまうくらい」
 驚き顔をあげたリーバルの目の前には、身体に巻きつけたシーツを両手で握り締め、静かに涙をこぼすリンクの姿があった。聞き間違いじゃ無いかと目を見開くリーバルに、リンクが「好きだよ」と繰り返す。
「リンク……!?」
「苦しいし、怖かったけど、リーバルに抱いてもらえて嬉しかった。気持ちは手に入らなくても、一回抱いてもらえた思い出だけでも大事にしようって思ってた」
 誤解したままのリーバルに手酷く罵られ身体を暴かれながら、それでもリーバルのことを受け入れていたのはそんなことを考えていたからなのか。涙と共に、つっかえつっかえに溢れるリンクの言葉にジクジクと胸が痛む。
「でも、リーバルは気持ちもくれるの?」
「あ、あげるよ! 君だけを愛するって誓う。もう絶対にあんな酷いことはしないし、これから何度だって君を優しく大事にする。だから、そんなに泣かないでくれ」
 リーバルは自分でも情けないと思うような狼狽えた声を吐きながらベッドに乗り上げ、リンクの身体を抱き寄せた。止まらない涙を溢れさせる目尻に嘴を寄せて、塩辛い頬を舐めとる。リーバルの舌を受け止めたリンクはおずおずとリーバルの胸元に顔を埋め、くぐもった声で言った。
「俺、これからもこの翼の中にいていいの」
「もちろんだ。この翼で包むのは君だけだ」
……そっか」
 ズビ、と鼻を鳴らしたリンクがリーバルの胸元から顔をあげ、やっぱり温かいなと言ってへにゃりと笑う。その下手くそな笑みに、なんだ自分はこれが欲しかったんだとやっと気づいたリーバルは堪らずリンクをぎゅっと抱きしめた。そしてこの先もずっとこの下手くそな笑みを守り続けたいと、もう二度と馬鹿な真似はするまいと誓うのだった。