集う光に虹の記憶を

MHRウ教×ハ♀。相思相愛。
ウ視点。

愛弟子の手を引いてどこかへ連れて行くウ教。
2025年クリスマスネタ。



俺の確信は大正解だ。

周囲の木々の間から、淡い蒼緑色そうりょくいろの、大きさの異なる丸い光がふわふわと揺蕩たゆたいながら次々と現れては、モミの木の方へ集まっていく。
その光の中には数は少ないものの、小さな満月のような金色こんじきの丸い光と、真朱色しんしゅいろの灯火のような丸い光も混じって、同じモミの木につどっている。

先ほどまで仄暗かった冬の秘境の全体には、モミの木に集う光の大多数を占める蒼緑の光が暗闇を照らし、夜の中に満ちつつある。

幻想的な光のとばりの中で蒼緑、金、真朱の三色、大きさの異なる無数の光のたまが、巨大なモミの木を彩っていく景色は──俺が偶然ここを見つけたあの時に見た景色、キミにも見てほしいと思った時の景色よりも、遥かに、この世のものとは思えないほど美しかった。

キミの瞳は不思議そうに周囲を、集まってくる光を観察するように見回し、やがて「あっ」と気付きの声を上げる。

「ウツシ教官! あの光って、もしかして、翔蟲ですか!?」
「さすがは愛弟子、素晴らしい観察眼だ! その通りだよ! 夜のこの時間になると、翔蟲たちは秘境のこの木のところに集まっているようなんだ。冬の間はかなり気温が下がるから、葉の後ろに身を寄せ合って寒さを凌ごうとしているのかもしれないね」
「すごく、すごくきれいです……! こんな景色、初めて見ました……!今が夜なのを忘れちゃいそうなくらい、光が……溢れて……!」

うっとりと瞳を蕩けさせ、光で飾られたモミの木を見つめるキミの横顔は、今すぐにでも抱きしめたくなるほど愛おしくて、とにかく可愛い。辛うじてその衝動を抑えながら、俺は改めてキミの肩を抱き寄せた。

「っ、あ……!?」

先ほどよりも可愛い驚声きょうせいこぼしながら、キミが俺の胸元で俺の方に顔を向ける。小さく見開かれたキミの双眸そうぼうには、目を奪うほどの美しい幻想の光が満ちている中でも、俺しか映っていなくて──それがとても、とても嬉しくて。

「ふふふっ……愛弟子、可愛い。この秘境の景色、気に入ってもらえたかな?」
……はい……! この場所の景色も、さっき下さった指輪も本当に、すごく、すごくすごくキレイで……!」

幸せそうに微笑みながら、キミは左手の指を揃え、手背しゅはいを俺に見せてくれた。薬指に填められた指輪が、静かな虹のように変わらず煌めいていて。

「この指輪の光……あの時、一緒に戦って、嵐を祓った後に見た虹みたいで……!」
「! 愛、弟子……気付いてくれてたの?」
「ふふふっ……もちろんです」

驚きと同時にぽかんとしていると、キミは光の中で幸せが満ちるように、優しく微笑んでくれた。
 
「ウツシ教官。わたし、本当に……すごく、幸せです。本当に……色々と、ありがとうございます」

愛しいキミの言葉に、俺の脳裏に在りし日の虹の記憶が、改めて呼び覚まされる。
共に死闘を戦い抜き、嵐龍らんりゅうによる大災厄から里を守り抜いた日──互いの生存を喜び、嵐の中から生還したあの時、確かに、虹が見えた。
この世の何より愛しいキミが、俺の視界の中で無事に生きて、虹のふもとで俺に笑いかけてくれた時の至福は、今でも昨日のことのように思い出せる。


──キミも、覚えてくれていたんだね……

──戦い抜いた先に開けた場所で共に見た、虹の美しさを……


……寒くないかい? 愛弟子よ」

座ったままでもキミを離したくなくて、キミの肩を抱き寄せる片手に、ほんのり力を込めてしまいそうになる。
おもむろに、俺は口元の鎖帷子を下ろした。冬の外気に晒されたこれ・・が、抱き寄せたキミに触れて、冷たい思いをさせてしまっては大変だから。
俺の腕に囲われ、俺の胸の中で上目に俺を見ながら、キミは「大丈夫です」と、どこか嬉しそうに笑ってくれた。

「ウツシ教官、やっとお顔が全部見えた。明るいところで見えて、嬉しいです」
「ふふふっ、可愛いこと言ってくれるね。俺の顔なんて見飽きちゃってるだろう?」
「ちっとも。大好きな人のお顔は、ずーっと見ていたいですよ?」
「ん、ふふふっ……それは、俺もだよ……愛弟子」

あまりにも、キミが愛しい。俺が幸せになれる言葉を伝えてくれる可愛いキミの、そのお口を食べてしまいたくなる。

大きなモミの木に無数の光の珠が宿る中、自分の胸元に抱き寄せたキミのお顔に、俺は自分の顔をゆっくり近付けていく。

光と共に想いの熱を宿した視線と共に、互いの白息が交わり合って、唇が重なろうとした、その刹那──ひやっとした粒状の感覚が、俺とキミの頬を掠めた。

「ッ……?」

俺が驚声を呑み込んだ時も、次々と、それは俺の頬とキミの頬を掠めていく。雨とも異なる硬めの感触と、舞い降りてくるようなその感覚に俺が空を仰ぐと、俺に抱き寄せられたままのキミも、同時に顔を上げて──可愛らしく瞳を見開き、それをぱちぱちと瞬かせた。

「あ……! すごい! 雪ですよ、ウツシ教官!」
「本当だね……! 凄いなあ、ますますキレイな景色になっていく……!」

モミの木に宿った、翔蟲たちの鮮やかな丸い光が雪と調和して、儚く滲み揺れる。青みがかった光が少し目立って、角度によってはまるで虹色に見える色の重なった数多あまたの光輪が、深々しんしんと降り始めた雪景色の中に浮かび上がっていた。

ふとキミを見やれば、雪とモミの木の光にすっかり釘付けのキミの瞳にも、その光が満ちていて──とても、美しくて。

「愛、弟子……。こっち……向いて……

もっと、近くで見たくなって。心の底から、欲しくなって。もしかしたら、ごくりと喉が鳴ってしまったかもしれない。

俺の呼びかけを聞き、俺の方に顔を向け直してくれたキミは不思議そうに、でも呼ばれたことに嬉しそうに微笑んでくれた。それが素直に俺もとても嬉しくて、自然と口角こうかくが上がって、心も双眸も、雪の世界にいることを忘れそうになるほど熱く、熱く蕩けて。

「──愛してる……! 誰よりも……何よりも……大好き、だよ……!」

心からのことが、また自然と、口から溢れるように紡がれる。
頬も鼻も林檎のように赤くしたキミが「わたしも」と応えてくれた直後──俺はその可愛いお口を、自分の唇で優しく、けれどしっかりと重ね塞いだ。

キミは反射的に、幼子おさなごのようにぎゅっと強く瞳を閉じる。その表情は、目を細めただけの俺の心を高鳴らせながらくすぐってきた。重なり合う箇所は炎のように熱く、とてもふっくらとして、くせになりそうなほど柔らかい感触。

「っ、ん……

重ねたキミのお口から、果実のように甘い吐息が俺の中に吹き抜ける。

今見える景色よりも美しいキミを両手で抱きしめると、キミも俺の背に手を回してくれて。その瞬間に、キミの左手の薬指の指輪が、また虹色に煌めいたのが見えて──俺も、そっと目を閉じることにした。

冬の寒さなど太刀打ちできないほど、心の奥底からじんわりと広がる甘い熱に、体中がぽかぽかしてくる。
どくどくどく、と鼓膜の中に自分の心音が木霊こだまする。

やがて、どちらからともなく顔を離して──俺もキミも同時に、お互いを見つめながら、微笑んだ。
せいの実感と共に幸せが溢れ、笑顔も溢れ、胸の高鳴りは止まらない。

幸せそうに瞳を蕩けさせながら、キミは「はぁっ……」と呼吸を整え、俺を真っ直ぐ見つめる。

……ウツシ教官。後でちゃんと、わたしの家まで……水車小屋まで来て下さいね?」
「フフ……忘れてないよ、大丈夫。ありがとう……愛弟子」

可愛いキミを改めて両手で抱きしめながら、俺は正面に聳えるモミの木に視線を向けた。光と雪が重なり合う景色を、愛しいキミと共に見た景色を、自分自身の中に焼き付けたかったから。

(願わくば、どうか来年の今日も……キミと一緒に……!)

狩猟を、任務をこなし、時には日常そのものとも戦わなければならない日々。
そんな日々を、いつか嵐を祓った時のように共に戦い抜き、いずれ必ず開ける美しい場所で、虹をたずさえたキミと──また、こうして、同じ想いで、同じ時を過ごせますように。

幻想の光に見守られながら、何度も心の奥底で願い続けてから──俺は改めて、腕の中のキミを見やった。

「そろそろ、戻ろうか。雪も降ってきたし、風邪を引いたら大変だ」
「はいっ! また……また一緒に来ましょうね、ウツシ教官」
「そうだね! その時が今から楽しみだよ!」

少々名残惜しいが、戦う限り未来がある。また次がある。

俺はキミと一緒にゆっくりと立ち上がり、一緒に踵を返して、俺とキミはモミの木に、光と雪の絶景に背を向けた。

ここへ来た時とは正反対に、自然と身を寄せ合って、ゆっくりと歩を進める。行き先はもちろん、最愛のキミが住み暮らす場所──水車小屋。

(聖夜の贈り物……何を用意してくれたのかなあ。俺にとっては、もう……キミが傍にいてくれること、そのものが……!)

胸の中に温もりが溢れ、思わず、また口元に、至福の笑みが宿った。

雪は音もなく、まるで人を現世から隔離するかのように、深々と降り続けながら世界を白く染めていく。

先ほど重ね合った俺とキミの唇の上に舞い降りた雪は瞬く間に、甘く溶けていった。




@acadine