第1話【宣戦布告】4/7(月)

黒薔薇のトリカゴ第1章。




――県内トップクラスの公立校、天稟てんぴん高校。

風に吹かれた桜がひらひらと舞い散る中庭で、在校生たちは大きな掲示板の前に集まっていた。掲示板に載っているのはクラス替えの記載だ。
事前に分かっているのは教師だけで、生徒たちはこの瞬間に初めて知る。仲が良い友達と一緒のクラスになれるのか、はたまた別になるのか、固唾をのみながら皆自分の名前を目でなぞって探す。



 「あぁ、そんな、嘘だ......」

その中で懸命に名前を探しつつ、絶望的な表情の男子生徒が一人。
今日から三年生になる空木うつぎ朔叶さくとだ。
不揃いに切り揃えられた黒い前髪は右目を覆い隠しており、かろうじてメガネ越しに見える青緑色の左目は暗い影を落としていた。

「今年もふみちゃんと同じクラスになれなかった......」

何度見直しても朔叶の名前は3-3に、文花ふみかの名前は3-1にある。
力無く呟いて膝から崩れ落ちた。周囲にいた生徒はギョッと肩を震わせたが、同時に別のところからバサッと派手な音がし、意識がそちらへ引っ張られる。
ステッキとシルクハットを持った生徒が「新たな同胞よ! この一年が華やかになることを願おう!」と満面の笑みで真っ白なハトを上空へ放っていた。

……うるさいな、何が華やかな一年だ……

朔叶は地面を冷たく睨みながら、恨み言を吐く。
文花と同じクラスになれなかった。それはどうしようもない事実で、たとえ先生に「今すぐ変えろ!」と叫んでも取り合ってもらえない。呆れたような目で一瞥されて無視されるだけだろう。
だが……

……これじゃ、ふみちゃんを守れない。何かあったらすぐに助けられない……

その声は悲痛でどこか幼い響きだった。無意識のうちに握りしめた拳はわずかに震えている。



「さく……

文花が心配そうに眉を下げて、朔叶の背中を撫でようと屈みかけたそのとき。



「あ、文花ちゃん! 今年も同じクラスだね、よろしく!」

突如二人の背後からやってきた賑やかな声。ハッと振り返ると柔らかい金色の髪と瞳、弾けるような笑顔が特徴的な文花より一回り小さい女子生徒が立っていた。
彼女は同学年の三藤みふじ依桜いお。文花の唯一の友達。通称、パンケーキ狂いのコミュ強だ。
依桜はタタタッと文花の元へ駆け寄り、肩にポンと軽く触れる。

「三藤さん、よろしくね」
「うん! ……あれ、そういえば空木は……って、ぎゃあ!」



いつの間にか立ち上がっていた朔叶が依桜を見下ろす。
容赦なくギロリと鋭い眼光に射抜かれた依桜は、短い悲鳴を上げながら肩を震わせる。


「ったくもう、相変わらず気配無く隣に立つよね、あんたは」
「なんで君は三年間連続でふみちゃんと同じクラスになれるのに僕はダメなの?」

依桜の軽口を無視して、朔叶は呪詛のように早口でボソボソ言った。



「なんでって……

確か天稟高校のクラス替えのシステムは、学力上位者が同じクラスに固まらないよう、あえて意図的にバラけさせていると親しい先生から聞いたことがある。
それで考えれば、学年一位の文花と二位の朔叶は同じクラスには絶対ならないのだが……

「なんでって、運が悪いんじゃない?」

説明したところでさらに睨み返されるだけだろうしと、依桜はさらっと流すことにした。朔叶は捻くれているから、まともに対応しても無駄にこちらが疲弊するだけだ。軽い対応大事。
同じクラスになったことが無くても、朔叶の異常性は同学年なら誰もが知っていた。だから必要以上に関わらない姿勢が必要不可欠なのだ。



ふと朔叶の視界の端で揺らめく長い黒髪。ハッと目を向ければ文花はすでに新しいクラスへ向かおうと校舎へ歩いていた。考えるより先に慌てて後を追う。

「ふみちゃん……!」
「ちょっと待って、一緒に行こうよ~!」
「ふみちゃんと一緒に行くのは僕だよ! 君は一人で行け」
「え~つれないこと言わないでさ~みんなで行こ~」

焦りと少しの苛立ちを含んだ声と、賑やかでのんびりした声をぶつけ合いながら、空いた距離を埋めるように歩幅を大きくして歩く。
前を行く文花は振り向きもせず淡々と歩を進めていった。