【プロローグ】4/7(月)

黒薔薇のトリカゴの始まり。





「どのふみちゃんも可愛くて綺麗だね」

丁寧にまとめられた写真を一つひとつ、じっくり目に通していく。
たくさんのドーナツを前に目をキラキラ輝かせる姿、庭の花に水やりをする姿、腰まで伸びた黒髪をドライヤーで乾かす姿……どれもこれも大切な日常のワンシーン。いずれも異なる風景の写真だが、一つだけ共通点がある。
写真の中の文花ふみかはカメラの方を全く見ていないこと。見ていないというより、気づいていないといった方が正しい。なぜならこれらは全て朔叶さくとがこっそり隠し撮りしたものだからだ。

しかし一枚だけカメラ目線の写真がある。「ふみちゃん」と呼んで振り返った瞬間に撮ったもの。
普段無表情の彼女がほんの少し目を細め口角を上げている。他人には見分けがつかないほど些細な表情の変化を、朔叶はカメラ越しに即座に気がついた。
特別綺麗でお気に入りなその写真は、分厚いアルバムの一番最後のページに大きく貼りつけられている。



たっぷり懐かしい思い出に浸り満足した朔叶は、アルバムをゆっくり閉じて机の引き出しにしまう。
次いでスマホを手に取り、アプリを起動する。起動してすぐに文花の姿が映し出された。どうやら今は勉強中のようで、教科書とノートを広げて、真剣な表情でペンを走らせている。

「ふみちゃんは頑張り屋さんだね。感心するなぁ」

この姿をスマホ越しに見れるのは、文花の部屋にカメラを仕掛けているからだ。当然許可は得た上で。「ふみちゃんの様子を見守らせてほしい」と頼んだら快く了承してくれた。
文花の家は昔強盗が入ってきたことがある。そのため防犯の意味も兼ねて複数設置してある。いつもと違った様子があったらすぐ駆けつけられるように。