河童の皿箱
2025-12-18 08:51:54
5371文字
Public 遊戯王:短め(2025年度)
 

真空管より

真空管から救出されたブルノがP.U.N.K.に預けられるだけ



 髪を解く。ロング、とまではいかないが、肩にかかる程度の紫色に櫛を通し、愛用のヘアワックスを使って整えてやる。ツンと跳ね上げた前髪と、後ろへ纏めて流すのと。かの長老から聞いていた、目覚めた時のその姿を思い浮かべながら、戦装束へと変貌していく。
 豪奢な黄金の肩当てに、かつての所属を示すチェストプレート。しなだれかかるカーテンのような袖と、使い込まれた艶のある黒い手袋。タイトなインナーは鍛え上げられた肉体にぴたりと張り付き、良く似合っている。
 「ほい、いっちょあがり」。絵師が最後にマスクをつけて、後ろで結べば、そこにあるのは真空管から目覚めた戦士の姿。「けっこー上手くいったぜ」と、絵師が鏡を差し出せば、戦士は覗き込み、頷いた。身支度をしてやった絵師もまた自分の支度にとりかかると、ふと、戦士は窓の外を見た。
 むせかえるような暑さも和らぎ、虫の声のする外。から、誰かが、居たような。

 「おーい、ブルノ」。絵師がまた、戦士に声をかけた。ハッと視線を戻せば、そこにはサングラスをかけて準備万端の絵師が居た。「待たせたな。稽古場はワゴンとスパイダーとフゥリが使うから、俺たちは今日は外な。セアミン達もお前と手合わせできるのを待ってる。存分に相手してやってくれ」、と。
 戦士は頷いた。未だ曖昧な自我の中、腰を上げる。両の脚で立つ。いつまでも、ここに居るわけにはいかない。そんな胸の内からくる声に、また頷き、けれどまだ今はその時ではないと。

 彼らは、娑楽斎たちは、仲間として深い絆で結ばれている。記憶が無くとも、それぐらいはわかる。それが羨ましいのか、なんなのか。胸をジリジリと焼く、何かがある。彼らが自分を歓迎しているということも、理解している。けれど、自分を知る者がいるとするならば、話を聞きたいとは思う。その先のことは、その時に考えればいい。今はただ。
 目前で透通る刀を構える能楽師の姿に、こちらも模擬戦用のナイフを構える。指先で空をなぞれば、意志の通りにナイフは連なり、浮かび上がる。ズイと迫る足取りに、自然と口角が上がる。

 あぁ、そうだ。俺は戦い続けていたんだ。