Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
河童の皿箱
2025-12-18 08:51:54
5371文字
Public
遊戯王:短め(2025年度)
Clear cache
Export ePub
真空管より
真空管から救出されたブルノがP.U.N.K.に預けられるだけ
1
2
3
4
その男がここに越してきてから、それなりに時間が経過した。かの男は時折粗暴な振る舞いを見せるが、それまで自分が何をしていたのか、何者であったのかの記憶はすべて失い、戸惑いを見せることも多かった。経験の積み重ねと、毎日の日常の繰り返しに、なれてきたようではある。サイキックの力の制御も上手く、特段サイコキネシスが得意であるようだった。絵師はある長老から託された情報に、改めて目を通す。
彼の名はブルノ。彼がかの真空管から解放された際に身に着けていた服飾品や、戦い慣れをしている様子を見るに、おそらく遠い昔に存在していた傭兵団、X-セイバーの物であるだろうと推測されている。だが、それが確かに存在していたと断言できるのは、長老曰く幼少期よりもさらに少し前。侵略者を退けるために同盟を結んだうちのひとつ、という認識でしかなく、それ以降、彼らX-セイバーは何をしていたのか、どこに行ったのかは誰も知らないのだという。彼らの面影を見たのも、死を衣として纏う者たちが魂を呼び寄せ、力のみを具現化させたその時だけ。その力すら、最後に戦い続けた剣聖たち
――
再編後にリーダーを務めたガトムズをはじめとする、XX-セイバーのもののみ。保護された男に関する手掛かりとなるものはなかった。
しかし、長老は彼のうちにある超能力を見抜いていた。だからこそ、彼は似たような力を持つ長老らに保護され、教育され、そしてこちらに越してきた。長老の見立て通り、彼の力はこちらとの相性がすこぶるよく、能楽師たちとの連携も実にうまくこなしてくれる。レクリエーションを通したコミュニケーションは上手く行き、記憶喪失による不安はおおよそ払拭できた、ようには見えるが。
「それでも、心配は心配だよな
…
」。絵師が頭をかけば、襖がトントンと叩かれる。それからすうっと開いては、そこに居たのはとある里の長らから任された、御巫の少女。「おやつの時間ですよ」と、茶とまんじゅうを持ってきてくれた。「おぉ、フゥリ。ありがとな」と一口貰えば、ジンと熱く、けれどやけどするほどではない、ちょうどいい温度と、やわくほのかな甘味がふんわり広がって、肩の力が抜ける。
「あの人のことですか?」。御巫は尋ねた。絵師は答える。「あぁ。ちょいと
…
複雑な事情があってな。いや、複雑っつっても、あいつ自身がというか、あいつの世界がというか」。
おそらく彼は、彼の居た世界で、彼を保護した長老が誕生する以前に死亡している。けれど、黄泉返りとも言える肉体の再構築が果たされたのは、やはり彼の居た世界の理が成すものだろう。死者の魂が木へと返り、輪廻転生を果たす
…
神話的で、論理的で。嘘のようだけど確かにあった、神々の生命への権能。彼を保護した長老のかつての相棒も、苛烈な争いの中で命を落とし、その後に生命の木より持ち出された真空管の中から、同じように帰還を果たした。
長老の相棒は、長老のことを覚えていたのだという。それはもしかしたら、長老たちの部族が揃っていたから、相棒の記憶を呼び覚ましたのかもしれないし、死からの期間が短かったから、というのもあり得るかもしれない。だがそれは、今ここで励んでいる彼が記憶をなくした原因の推測に過ぎず、少なくとも彼の仲間と思われる者たちは、そしてその記録は、散逸してしまっている。
孤独なのだ、彼は。自分が何者なのかもわからないのに。
「
…
なるほど。でも、です。いっこ、思うことがあるんですよ」。御巫は笑い、絵師は首を傾げた。「複雑な事情があるのって、割とみんなそうじゃないですか? わたしだって、ねぇ」、なんて。御巫は意地悪く笑って見せた。「それもそうだな」と、絵師は肩をすくめて
…
「でも」と付け加えようとして、やめる。「
……
いや、これも推測に過ぎないな」、と。「そこまで行って止めますか? 気になるんですけど
…
」と困り顔で問われれば、絵師は頬をかいては目を泳がせた。「俺はな、あー
…
再構築され
…
あー
……
その、哲学的なことを気にしてるんだ。哲学的で
…
重大で
…
或いは無意味かもしれない
…
曖昧なことをな」。そんな奇妙な言葉に、御巫は眉をしかめた。「
…
全然わからないんですけど」、と。「あいつが悩まなけりゃいいって、そんだけだよ」と頭を撫でれば、「まあ、そういうことにしておいてあげます」と微笑んだ。
「それはそれとして。今日のお稽古、もう少しで始まりますからね。遅れたら容赦しませんから」と、食べ終わった器を回収し、御巫はぴゅうと歩いて行った。そうか、もうそんな時間かと時計を見れば、その通りだった。絵師は数々の情報をしまい込み、立ち上がる。
ただひとつ。あの男の素性を知る手掛かりが、こっちにはある。力の相性もあるが、長老がこっちに寄越したのは、それが一番だろう。それが口を割るかどうかは、わからないが。
1
2
3
4
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内