パキリ、と。何かが割れる音。それが、思い出せる限りの、初めの記憶。朧げな意識の中、この手を引いたのは、太陽のような髪飾りをつけた少女だった。ようやく自分が、自分の足で立っていると認識した時、変わらず靄のかかる頭をどれだけ絞ろうが、何も思い出せもしなかった。
それから、色の褪せた、けれど若草のような衣服を好む老人に、少しばかり世話になった。多少の生きる術を教わった。その中で、自分には念動力が備わっているのだと知った。老人は言った。「ここでも生きてはいける。けれど、ここで教えられるのはきっと、君には合うものではない。君のような力の持ち主には、もっと良い先生が居る」、と。
数多の獣達と別れを告げ、里の幼い少女たちに手を引かれては、駅にたどり着いた。ここから出る列車に乗れば、門の先へと向かい、別の世界に映ることができる、と。そして、向かう世界には、自分のような性質の人間の世話を、積極的に見る変わり者が居るのだとか。
目的地を誤らぬよう、複数人で見返しては、列車に乗って旅に出る。世話になった里の者たちの姿が、どんどん小さくなっていって、列車は久遠の闇に突入する。今になって、忘れ物が不安になった。旅立ちにと貰ったトランクを開いては、確認をする。
いくつものナイフと、顔を覆うマスクと、斜めにずらした十字が刻印された、使い込まれたチェストプレート。…大丈夫だ、何も忘れていない。
確認を済ませ、またトランクを閉じる。…別に、寄る辺などなくとも問題はない。けれど、あの者たちの好意を無駄にしたくはなかった。変わり者とは聞いているが、果たして。
長い長い距離の果て、ようやく目にした目的の駅の名。告知に沿って下車の準備をする。己が己である証を、今度こそ忘れないように。
「おっ、いたいた。アンタだな?」。列車を降りてさっそく、声をかけられる。時は夜中、駅にはあふれんばかりの人。けれど、真っすぐにこちらを見るその男は、にやりと笑っては、さらに言葉をつづけた。「俺は娑楽斎。この町に住む浮世絵師で…あー、お前みたいなサイキックだ。事情はカムイから聞いてるぜ、アンタが探してんのは俺だ」、と。その言葉にようやく合点がいけば、トランクにつけた彼らの証を改めて見せた。するとその男は、丁寧に証を取り外しては額に当て、またこちらへと返却した。
「…よし、長旅お疲れさん。もうひと踏ん張りだ。アンタの部屋も用意してるし、着いたらゆっくり休んでくれな。こっちでの生活に慣れてきたら、アンタの力の使い方を教えてやるよ。……なにか、思い出せるといいな」
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