ムームー
2025-12-12 17:30:22
7936文字
Public MHA
 

約束

中学時代の瀬呂くんのお話。相互さんネタ提供。



 塾に向かう途中、瀬呂は電車の中で問題集を片手に考える。

 テープという個性を瀬呂自身は「当たり」だと思っている。しかし強個性かと言われれば、その判断は難しいところだと彼自身も自覚があった。
 それでも子供の頃から余った食べ物の蓋を閉める時に親や祖父母から、

「はぁくーん!テープちょうだい」

と言われたら飛んでいくのが当たり前だった。瀬呂少年が得意げにテープを出せば、

「わー!すごいね、ありがとう!!」
「はぁくんの個性は便利だね」

 と、大層みんなから褒められていた。中学3年にもなれば「あれは大袈裟だったんじゃないか」と苦笑いも出るが、それでも当時の瀬呂少年は嬉しくて、誰かが何かを開けるたびに呼ばれるんじゃないかとソワソワした目を向けていた。街で知らない人相手とかにも狙っていたものだから、「恥ずかしいからやめなさい!」と親に回収された記憶も少なくない。最終的には自分で新しいお菓子を開けては半分食べて、残りにテープで蓋をして、

「ちゃんとフタした!」

とか褒めてもらうために親に見せに行くような子供になっていたのだから、親の育て方の意図が理解出来る今となっては「子育てって大変よな」と親に対して申し訳ない気持ちも湧いた。

 そんな問題行動と個性使用の教育の時期が重なって、個性を使うことが少なくなってきた頃に瀬呂が出会ったのが、あの蜘蛛のヒーローだった。

 実物になんて会えたことはない。ただ彼はアメリカで、ベスト10にいつもギリギリ入れない程度の人気のヒーローだった。自分と同じような個性を存分に使って活躍する彼は、動きこそかっこいいのにその性格はコミカルで、親しみやすさが魅力的だった。

 もし「彼の好きなシーンは?」と聞かれれば、瀬呂は迷わず4人の ヴィランが同時に暴れた事件における、有名なあのシーンをあげる。
 その事件で彼はベスト10入りをしているヒーロー達と6人で現場入りした。複数の凶悪な ヴィランの相手に、分かれて応戦する他ヒーローたち。その時、暴れている ヴィランの中で一番弱い ヴィランの相手を、応援が来るまで彼はたった一人で任される。その時の彼の最初のセリフが、瀬呂は何より好きだった。

『え、ちょ、俺サポート特化なんだけど?!』

 初めて見た時は、瀬呂だって「ヒーローなんだから『任せろ』とか言えねぇの?」とか思った。しかし仲間が去った後、彼は首を鳴らして ヴィランに向かってこういうのだ。

『ま、俺もヒーローだし?たまにはかっこいいとこ見せちゃおっか!』

 そういうと口から出るヒヤヒヤしているような言動とは裏腹に、一人でも ヴィランを余裕で翻弄し、結局応援なんて来る前に「いっちょ上がりィ!」と彼の個性でぐるぐる巻きに捕縛してしまったのである。

 決して余裕があるわけではないコミカルさと、言葉とは裏腹に強いというギャップに、瀬呂少年の心は鷲掴みにされた。

ーー俺の個性でもこんな風に戦えるかな?

 その日を境に瀬呂の中で、彼の「個性」は袋の口を留めるだけの個性ではなくなった。


 電車の液晶に、オールマイトの今日の事件の映像が流れる。瀬呂が目指す雄英高校の近くで、オールマイトが地元の中学生を助けたという姿だった。ヘドロに包まれた少年を必死に助けようとしているのは彼の友人だろうか?プロも動けない状況で、その少年は友人のためにたった一人で頑張っている。そこに颯爽と現れたオールマイトは、たった一振で彼の友人をヘドロから救い出してしまった。そのまま天候まで変わっている姿がモニターに映っている。

ーーやっぱかっけぇなぁ、オールマイト

 瀬呂だってオールマイトは好きだ。かっこいいと思う。
 ふと、彼は問題集に目を戻す。厨二だなぁと思いつつ、憧れの人を彷彿とさせるからと買ってしまった蜘蛛の巣柄の付箋。勢いで買ったものだから彼自身、見る度に「らしくないねぇ」と笑ってしまう。それでも。
 
ーーやっぱ俺はこっちなんよなぁ

 ふと、瀬呂の頭にクラスメイトの顔が思い浮かぶ。あのクラスメイトは、瀬呂がヒーローになると信じてくれていた。「なれるように頑張れ」では無い。「なるでしょ」とさも当然のように言ったのだ。その違いが、瀬呂の中の何かを動かした。

「まぁ頑張るしかねぇわな。考えてもしゃあないし」

 余裕のある言葉とは裏腹に、何がなんでもヒーローになってやると、瀬呂は心の中に強く決意を固めた。あんなに信じてもらって、落ちるなんてかっこ悪いことはできない。なにより

 親しみやすく、お調子者で、それでもやる時にはやる。

 瀬呂の憧れのヒーローは、そんな男なのだから。