ムームー
2025-12-12 17:30:22
7936文字
Public MHA
 

約束

中学時代の瀬呂くんのお話。相互さんネタ提供。

今回は小説です。漫画よりこちらの方が、なんとなく想像しやすい気がしまして

※モブが結構出てきます。
※CP表現はありません。

大丈夫そうでしたら、支部でも公開するかもしれません(笑)

∴∵∴∵∴∵
ーーアメリカの、蜘蛛のヒーローに憧れていた。


 放課後。雄英の筆記対策にオススメと聞いた英単語の問題集を片手に、瀬呂範太は昼間に購買で買っておいたホットドッグを摘んでいた。塾までは余裕があるけれど、何か一つトレーニングなどをやるには中途半端な時間。静かな教室内でパラパラとページを捲っている音が耳をついて、なんとなく彼の気持ちは焦る。思わず本を閉じて、校庭に目を向けた。すると部活に励む下級生たちが、体力作りの為に走っている姿が目に映る。

ーーきっともっと容量のいいやつは、こういう時間にもササッと出来る筋トレとかしてんだろうと思うとね

 瀬呂にとって勉強は「すればいいもの」だった。努力するだけで何とかなるのなら、彼の考えでは「まだいい方」なのだ。ただ雄英の入試の一番の課題は、誰がどう考えたって実技と言える。
 雄英を受けるに当たって、瀬呂だってもちろんその実技入試については調べ済みだ。するとまぁ毎年毎年派手な試験をやっているということが分かり、更になんと怪我人が続出しているような記載までうっすらと書かれていた。

ーー怪我人続出するような試験って何?
ーー受験者同士バトらせたりすんの??
ーーそれってアグレッシブが過ぎない???

 ヒーロー科を目指し始めてからは、瀬呂だってもちろん身体を鍛えてはいる。戦う前から諦めるつもりも、当然負ける気ももちろんない。それでももし1対1で戦った相手が、現No.2ヒーローのエンデヴァーみたいな個性のやつだったらと考えてしまう。

ーー流石に俺のテープ燃やされてソッコー終わんない??

 瀬呂は先程閉じたばかりの問題集に目をやった。たくさんの付箋が貼られた、努力の証が目に見える問題集。頭がいい自負があるわけでは無いけれど、それでもこの進学校で一桁の成績をずっと保ってきた。
 けれども瀬呂はあくまで一般家庭の出なのだ。個性社会といえど、大々的に個性を使えるわけがない。個性教育も最低限しか受けていないし、ヒーロー科受験に特化した「個性塾」には通っているけれど、個性なんて千差万別。そのため特訓に付き合ってくれる「サポーター」がいたり、障害物の用意はされているが、逆に塾側もそれ以上の対応は出来ない。雄英のような設備なんて、用意できるわけがないのだ。
 ただ強いて言うなら瀬呂が通う塾は、模擬試験などやってくれる分、かなりいい方ではあった。人気も高いので、瀬呂も入るために頑張ったのは言うまでもない。
 しかしそんないい塾に通っていたって、訓練の仕方は自分の頭である程度考えるしかない。だからただ幼い頃から憧れた、蜘蛛のヒーローの見様見真似で塾の施設内に設置された障害物をノルマのようにこなしたりもしていても、何をどうすればいいのか、アドバイスなど来るはずもなかった。

ーーまぁ、受かるか分からんやつに、変に高度な戦い方や個性の使い方を教えるわけにもいかんしね

 そんなのは入塾した小学生の時から理解できていた。元々瀬呂は個性の使い方を自分で深く考えるのは好きだったが、そんな彼でも家の庭で休日にやっている、父親の投げたフリスビーをテープで取るというよく分からない特訓の方が有意義に思う日もあった。
 だからこそ、不安にもなる。

ーーこんなに頑張ってるけど俺、本当にヒーローになれんの?

 少しだけ、瀬呂が弱気になってしまったその時。

「瀬呂ー!」

 教室の扉がスパーンと開いて、クラスメイトが飛び込んできた。それは瀬呂にとって友達と言うほど距離は近くないものの、クラスではまだ話す方のクラスメイトだった。瀬呂はいつもの何食わぬ顔に表情を戻すと、クラスメイトに尋ねる。

「ん?どした??」
「頼む!いつものやつ!!」
「まーたやられたんか」
「頼むよ、瀬呂~っ」

 瀬呂には定期的に彼から頼まれる作業があった。頭を動かすより身体を動かす方が今の気分に合っていたのもあり、瀬呂は時間潰しの方法を変えることにする。

「いいけどマジで誰にも言わないでちょうだいよ?」
「そんなん誰も気にしねぇって!」
「おま無責任だねぇ。万一でも内申に響いたらどうしてくれんのよ」
「あー瀬呂は雄英志望だもんなぁぁ」
「そういうこと」

 瀬呂は問題集をカバンにしまうと、そのまま塾に行けるようにそれを持って、クラスメイトより先に教室を後にした。