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ろころころ
2025-12-09 00:01:56
10400文字
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酔っ払いにはご用心
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ポケセンセンターは365日、24時間営業する、ポケモン専用の医療機関である。モンスターボールのマークと赤い屋根が目印だ。
このガラル地方では、ポケモンとの距離を縮めるためにと、人間達によって運営されているらしい。ポケモンの治療以外にも、トレーナーに捨てられたポケモンの保護や、人間の治療にも対応しているとまで言うのだから、ポケモン世界におけるフロウ達『救助隊』と似たような存在なのかもしれない。
もしもこの場にあのフシギダネの少女がいたら、この世界にも自分達の似たような役割を果たす組織があることに喜ぶだろう、そんなことを思う。
青いジャケットを身につけた男性のカウンターへ、フロウは急ぎ足で向かった。フレンドリーショップである。まんたんのくすり1つだけでも問題なかったが
…
どうせあの馬鹿は次もまた同じようなことをやらかす、そう確信したフロウは余分に5つほど多く購入したのだ。そもそも、救急箱といいながらキズぐすり1つしか入っていないというのも、用意周到とは言えないだろう。相変わらず重要な部分で抜けているトカゲだと、フロウは代金を支払いながら心の中で悪態をついた。
薬を受け取り乱雑に鞄へ投げ入れると、ポケモンセンターを駆け足で出る。温かなオレンジ色の光に包まれた店内とは違い、そとは相も変わらず突き刺すような寒さと辺り一面に広がる漆黒。夜のガラルの街は、あのエオスと呼ばれる島の夜よりも余程静かだった。
怪我人を長時間置いてくるのは救助隊として褒められる行為では無いし、人気もない上に治安は悪いし、何より寒い。早く帰ってしまおう。そう思い、カイロを仕込んだ黒いコートのポケットに手を突っ込みながら、早歩きで煉瓦の道を進む。洋式の電灯が霜の張った道を照らし、艶々と光らせる。
既に営業時間を過ぎ、シャッターが閉められた店の角をいくつか曲がると、見慣れた一本道が見えてくる。この辺りは電灯が少ないが、ゴーストタイプのフロウには何ら問題は無い。
オンボロなアパートはポケモンセンターと違い、決して温かさを感じさせる外見では無かった。先程は今より急いでいたのもあり、じっくりとその造形を目に入れていなかったが。改めて見ると酷いものだ。ガブリアスが一度でも地震を起こせば、ボロボロと崩れ落ちるのではないかと思うくらいに軋み、ひび割れと傾きでひん曲がった構造をしていた。
ここまでじっくりと見たあとだと、このギシギシと嫌な音を立てる階段を上るのですら億劫だ。崩れたらどうしてくれると思いながらも、フロウは彼の待つはずの部屋の鍵を開けた。
─────ガチャリ。
「
…………
おい、俺だ。
…………
インテリ?」
お喋りな爬虫類のことだ、帰ってそうそうに飯はまだかと騒ぎ立てると予想していたフロウは予想外の静けさに固まる。とりあえず玄関に鍵をかけ、室内に上がると、先程のベッドを見れば
………
毛布が不自然に盛り上がっていた。
寝ているのだろうか。返事は無いが、脱走したわけでは無かった現実にひっそりと安堵のため息を吐く。
ようやく大人しくなったところを起こすべきか
…
フロウも首を捻ったが、わざわざこのクソ寒い中に足を運んで買ってきてやったのだ。ここで使わねば意味が無い。そう考え、叩き起すことにした。
「おい起きやがれインテリ。
……………
おい」
起きる気配がないので、毛布を捲り取ってやる。彼は案の定、丸まった体勢で毛布の中に包まっていた。
「
……
あ
………
ふ、フロウさん
……
?
……
帰って
…
」
反応が鈍いな、とフロウは一目見て思う。身体はガタガタと震えており、呼吸が早い。貧血の影響か、それとも怪我による熱の影響か。どちらかは専門知識の持たないフロウには判断つかないが、どちらにせよ、彼が寒気を感じ始めていることは一目瞭然だった。フロウが外出する前は元気に見えたが、恐らくアドレナリンが切れたのだろう。会話相手がいる気をそらすことが出来るのかもしれない。
辺りを見渡すも、どうやらこのオンボロな部屋には暖房どころかヒーターすら無いらしい。ふと、フロウはコートのポケットに入れたカイロの存在を思い出す。無いよりはマシだろうと彼の首の下へ差し込んだ。
鞄から購入したキズぐすりを取り出し、手早く開けると傷口に押し付ける。じわじわと傷が塞がる様子を見て一安心
…
とは行かないのが現実だ。傷は塞がったとしても失った血液までは戻らない。
「
………
う、
………
ふろう、さん
………
」
「
……
なんだ」
「えっち、しましょう
…
?」
は?と思わず声が出た。何を言っているんだこのバカは。この状態で?貧血で凍えて、発熱でふらふらしているこの状態で?
「馬鹿言え。寝ろ」
「むりです、さむくて、寝れない」
フロウさんお願いです。いくらでも払うので。
そんな風に縋られたのは初めてだった。フロウが珍しく素直に伸ばされた手に目を見開いたのと、その手先が震えていたことに気がついたのはほぼ同時だった。
「さむいんです、さむいのは嫌なんです。くっつけば体温をあげることができて、体温をあげれば眠れるんです
……
フロウさん、」
「
………………
クソ」
救助隊として、HELPを弾くことは出来ない。助けを求めて伸ばされた手は、必ずや掴まねばならない。
だからこれも仕方が無いことなのだ。救助隊として、目の前で助けを必要としている奴がいるなら、助けねばならぬのだから。
フロウは、そう自身に言い聞かせるように他なかったのだ。
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