呪里
2025-12-05 18:37:16
10791文字
Public Code_Abyss 小話
 

〈思い出を紡いで〉

魔島姉妹と零の過去の日のお話(+現代ちょっと)



 「………って事があったんだよね」

 時は戻り現代。

 ゼロは荊に用意してもらったりんごのジュースを飲みながら、昔の出来事を話していた。

 「なるほどそのような事があったのですね」

 ゼロの隣に座る朧は、話を聞きながらウンウンとうなずく。
 
 「そら十年近く大事にしとったらボロくはなるわなぁ」

 「ね。それにこんなに長く大事にされてこの子も良かったわね」

 『…………!』

 荊と柩がそう話し、類はぬいぐるみのほつれた部分を縫いながら首を縦に振った。

 『ボス、そろそろ終わるよ』

 「ほんと?はやいね」

 ゼロから一番離れた椅子に座って作業をしていた類が声をかけた。

 ゼロはひょいと身を乗り出すと、ぬいぐるみは先程までのボロボロさが嘘のように、新品の様な仕上がりになっていた。

 「すご……

 「さすが類、これぞ職人技ね」

 類は立ち上がりゼロの方へ歩みを進めると、縫い終えたぬいぐるみを差し出した。

 『綿のはいり具合確認してもらってもいいかな?』

 「ん。わかった」

 ぬいぐるみにそっと触れると、買ったばかりの時のようにふわふわとした感触が手から伝わってきた。

 「………すごく良い。ありがとう、類」

 ゼロの言葉を聞くと、類は自慢げになりながらにっこりと笑った。

 ゼロはぬいぐるみを撫でるように触れながら、ぬいぐるみの顔の向きを反対にすると、じっと見つめて何かを考えだした。

 「ボス?どないしたん?」

 「……んー」

 ぬいぐるみから視線を外さないまま、ゼロは机に右手を添え、なにかを創り出した。

 「これは……糸?」

 ゼロが創り出したのは水色・紺色・紫色・ラムネ色の四色の糸。

 「類、この子の後ろにこれで小さくクローバーの刺繍をいれて欲しい。できる?」

 『できなくはないけど……どうして?』

 類に問いかけられると、ゼロは顔の下半分をぬいぐるみで隠し、目尻を上げて答えた。

 「……先生に買ってもらった思い出に、今日みんなに話したっていう思い出をつけたいの」

 四人は驚いた表情でゼロを見た。

 「この子を連れて帰ってから、後ろの刺繍を見て、あぁみんなにはこの子の事話したんだよなぁって思い出すの」

 口元は見えないが、僅かに見える頬はほんのり赤く染まっているようだった。

 「……素敵なお考えですね」

 口を開いたのは朧。

 ゼロに向かって微笑むと、机に置かれた糸を右手で拾い、少し眉を下げた。

 「ですが……これでは足りませんよ?」

 「足りない?小さく縫ってもらう気で創ったけど、一束分あるしちゃんと四人分の色を創ったよ?」

 ゼロは答えるが、朧は首を横に振った。

 「いいえ?糸の量ではなく、色の種類が、ですよ」

 「ん゛ん゛……?」

 ゼロが言葉の真理を理解出来ずにうなると、朧はフッと笑いゼロに近づいた。

 右手に持っていた糸をゼロの前に差し出すと、左手で糸を指さしながら

 「ボスの色が無いじゃないですか」

 そう話した。

 「え……いらないでしょ?クローバーは四葉だし、みんなの色があれば充分だよ」

 ゼロは眉間にしわを寄せながら答えると、黙って話を聞いていた荊が口を開いた。

 「ボス、俺もボスの色あってもええと思う」

 「荊まで……なんで?」

 荊は閉じている両目を薄らと開けると、ゼロからの問にこう答えた。

 「クローバーっちゅうんは、葉っぱだけで成り立っとるもんやないやろ?」

 「?……うん」

 「仮に葉っぱ一枚一枚を俺らを見立てたとしても、俺らは四人だけで成り立っとるもんやない」

 荊は立ち上がると、ゼロの傍に近づき、そっと手をゼロの左の頬に添える。

 「俺らには、支えてくれるボスがおらんとあかんのや」

 「そうですよボス。植物には実や花を支える茎が必要なように、俺達にはボスという支柱があるべきなんです」

 「ななんか話が重くなってる気がする」

 「気のせいじゃないわよ」

 ゼロから少し離れた位置に楽な姿勢で座っていた柩が答えた。

 「確かにこいつらの言い方じゃあ重く聞こえちゃうわよねぇ?でも、間違ってはいないわよ?」

 「………

 「私達だけの色じゃ味気ないわ。私は赤も入れていいと思う」

 柩の語りかけに、隣で類はうんうんと頷いていた。

 ゼロは腕を組んで考え込むと、両手で何かを掴むように握った。

 「……よし、できた」

 手を開くと、そこには一束の赤い糸が創られていた。

 「まぁ、私だけいないのも変かなって」

 ゼロが薄ら笑うと、四人もつられるように笑った。























――――――――――――――――――――
 帰宅後、呪里は自室のベッドに勢いよく飛び込むと、類に縫ってもらったぬいぐるみを枕元にそっと置いた。

 「ふぅ……

 自分の方を向いているぬいぐるみの向きを反対にすると、ぬいぐるみの下部分に小さくクローバーの刺繍がほどこされていた。

  『俺らには、支えてくれるボスがおらんとあかんのや』

 『そうですよボス。俺達にはボスという支柱があるべきなんです』

 先程本部で言われた言葉が頭をよぎる。

 彼等には信頼されていると思ってはいたが、あのように言ってもらえるなんて夢にも思わなかった。

 「………ふふっ」

 自分以外に誰も居ない部屋の中で、呪里は小さく笑みを零した。