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呪里
2025-12-05 18:37:16
10791文字
Public
Code_Abyss 小話
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〈思い出を紡いで〉
魔島姉妹と零の過去の日のお話(+現代ちょっと)
1
2
3
4
館内を一通り見終えた三人は、水族館に併設されているギフトショップに足を運んでいた。
「二人とも、今日の思い出に何か買ってあげようか」
零がそう姉妹に呟くと、憐は目をキラキラ輝かせた。
「えっ!いいの?せんせぇ」
「あぁいいとも。お菓子でもぬいぐるみでも、好きな物を持っておいで」
「わーい!やったぁ!」
憐は零と繋いでいた手を離し、かけ足で店内を物色しに行った。
呪里は周囲をキョロキョロと見回しているが、零の手は繋いだままだった。
「
……
呪里も見ておいで?」
零は呪里の手をそっと離し、背中にトンと触れる。
呪里の顔をのぞき込むと、いつもより眉が少し下がり、困っているように見えた。
「大丈夫、私は近くにいるよ。呪里が気に入った物を手に取って私の所に持ってくればいいんだよ」
零が優しく語りかけると、呪里は一瞬零を見た後にゆっくりと店内を散策し始めた。
周りの人とぶつからないようにしながら不安定に歩く呪里を零は遠目で眺めている。
(
……
これもまた、自身の欲を知るための一つの修行だよ。さて、何を持ってくるかな?)
後々訪れるであろう娘達のおねだりを想像しながら、零はフッと小さく笑った。
――――――――――――――――――――
「せんせぇ!れん、これほしい!」
二人とも離れてから数分後、買い物カゴにぬいぐるみやお菓子を入れた憐がこちらに向かって走ってきた。
「こらこら、お店の中で走ったらダメだよ。誰かにぶつかったらどうするんだい?」
勢いよく抱きついてきた憐に、零は諭すように話しかける。
「憐が怪我をしたら、呪里も悲しんでしまうよ?」
「あぅ
……
。ごめんなさい、せんせぇ」
眉を下げしょんぼりとする憐の頭を、零は優しく撫でた。
「うん、ちゃんと謝れて偉いね。次から気をつけなさい」
「はぁい」
零は憐からカゴを受け取り、中身を見てみる。
「ペンギンのぬいぐるみに
……
随分
ずいぶん
沢山のお菓子が入っているね。こんなに食べられるのかい?」
零からの質問に、憐は首をブンブンと横に振った。
「んーん?れんとーおねえちゃんとーせんせぇとー、あと、どくたぁたちのぶん!」
〈どくたぁ〉とは、呪里達よりも一つ前の世代の
三傑
さんけつ
の一人、〈ドクター〉の事。
零が呪里達姉妹を保護した際に、瀕死状態だった二人を治療してくれた医者でもある。
「
…
あいつらの分も買ってあげるの?」
「うん!」
「分かった。後で渡してあげようね」
「やったぁ!ありがとうせんせぇ!」
憐は再び零に抱きついた。
憐の頭をよしよしと撫でながら、零は店内を見回した。
「ところで、呪里はどうしたんだい?」
憐はパッと頭を上げる。
「おねぇちゃんねー、ぬいぐるみみながらかたまってたぁ」
「固まってた?」
「うん。じーっとみてたの。でも、あのぬいぐるみのおさかなさん、みたことないの」
「ふむ
…
。よし、二人で呪里の所に行ってみようか。案内してくれるかい?」
「!はぁい!」
憐は零の手を強く握り、呪里のいた場所へと二人で歩き出した。
――――――――――――――――――――
「いた!」
憐が指を指す方向には、棚の上に陳列されたぬいぐるみをじっと見つめる呪里がいた。
「おねぇちゃん、つっかまーえた!」
憐は零から手を離し、呪里を両腕でぎゅっと抱きしめた。
「
………
?」
「えへへ、びっくりした?せんせぇとむかえにきたよぉ!」
呪里はぬいぐるみから視線を外し、抱きついてきた憐と零を見つめた。
「なかなか戻ってこないから心配したよ。それで、何か欲しいものは見つかったかい?」
呪里と視線の高さを合わせるように零がしゃがみこみ問いかけると、呪里は再び陳列されたぬいぐるみを見た。
「
…………
」
零が立ち上がり同じ商品棚を見ると、淡いピンク色のぬいぐるみが並んでいた。
「これがいいのかい?」
ぬいぐるみを手に取り、呪里に差し出す。
「せんせぇ、そのこなぁに?」
憐は首を
傾
かし
げて不思議そうに聞いていた。
「んー?これはね、〈メンダコ〉ていうんだ」
「めんだこ?」
「そう。深い深い海の底で暮らしているタコの仲間だよ」
「たこさんなの?そうはみえなーい」
「そうだね。私達が普段見るタコとはちょっと違うね」
憐は買い物カゴを持ちながら小さくゆらゆらと左右に揺れる。
「深海の生き物は飼育が難しくてね、本物のメンダコを生で見るのは今のこの国の技術じゃ厳しいよ 」
「ふーーん?じゃあ、ほんもののめんだこさんみれないかわりに、このぬいぐるみをうってるってこと?」
「多分ね。見た目は可愛いから、
大体
だいたい
の水族館に置いてあるんじゃないかな」
零は呪里が抱えているぬいぐるみにそっと触れる。
「それで、呪里はこれが欲しいのかい?」
呪里は顔を上げて、じっと零を見つめている。
「隣の棚のサメさんじゃなくて、こっちがいい?」
零はメンダコのぬいぐるみがあった棚の隣の棚を指さす。
そこには、先程呪里が
釘付
くぎづ
けになって見ていたサメのぬいぐるみが陳列されていた。
呪里が抱えているものと同じサイズのぬいぐるみを手に取り、零は呪里の目の前に向けた。
「呪里、このサメさんとそのメンダコ、どっちが欲しい?」
まだ明確に自身の欲しいものが分からないだろうからと、二択をだして問いかける。
呪里はぬいぐるみを交互に見ている。
(さぁ、どっちを選ぶ?)
零は小さく笑う。
すると
ぎゅっ
呪里は抱えているぬいぐるみを抱きしめた。
零は一瞬目を丸くするが、すぐに元の表情に戻った。
「
…
メンダコでいいんだね?」
問いかけると、呪里は小さくゆっくりと頷いた。
「
……………
そうかい」
零は優しく微笑み、呪里を抱き寄せた。
「
………
?」
呪里は訳が分からず首をこてんと
傾
かし
げた。
「せんせぇ?どうしたのぉ?」
憐も不思議そうに二人を見ている。
「いや
…
なんでもないよ」
姉妹には見えていないが、この時、零は涙ぐんでいた。
サメの水槽の所にいた時、そして今この時、呪里は二回も好きな物を教えてくれた。
呪里自身はなんとも思っていないかもしれないが、零にとっては、これ以上ない喜びがあった。
(まぁ
…
両方欲しいってなったらどっちも買っていたんだけどね)
零は二人に気付かれないように涙を
拭
ぬぐ
い、呪里の顔を見た。
「よし、それじゃあその子と、憐の持ってるカゴの商品を買いにいこうか」
二人にそう声をかけ、零は立ち上がる。
「呪里、その子をここにいれて?」
呪里に手を差し出すが、呪里はぎゅっとぬいぐるみを抱き締めて離さない。
「取り上げようって訳じゃないよ。私があそこを通って戻ってきたら、これは呪里の物になる。わかるかい?」
零がレジを指さす。
呪里は数秒レジをじっと見つめると、零の方へ顔を向け、ぬいぐるみを差し出した。
「うん、いい子」
ぬいぐるみを受け取り、呪里の頭をそっと撫でる。
「二人とも、ここで待ってるんだよ」
「はーい!」
「
……………
」
レジに向かう零をじっと見つめながら、憐は呪里の手を握った。
「
………
?」
不思議そうに首を傾げる呪里に、憐は優しく笑いかける。
「んーん?なんでもないよ」
そう話す憐の真意を知る事のないまま、新しい発見に満ちた一日は幕を閉じようとしていたのだった。
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