雨の花

【邪神の弁当屋さん】お弁当の日で謹慎処分中実りと死の神のところに噛みつきリンゴちゃんが遊びに行く話。


簡素で丈夫な丸椅子に腰かけじゃがいもの芽を取ること早――はて、どのくらい経ったか。ふと、窓の外を仰ぐもお天道様の燦々とした顔の角度は然程変わっていない。何ならてんこ盛りのじゃがいも山の標高も低くなっていない。いや、なっているなっているが如何せん山脈の数が多い。
「まだまだあるな」
来週のおかずをどうしようか。あれやこれや考えながらの流れ作業の合間を縫い、ぐつぐつ煮込まれている鍋のご機嫌伺いも忘れず熟す。火を使用しているお陰で温かい空気といい匂いが漂う調理場の窓が不意にコツコツと鳴る。
はじめに視線一拍置き首だけを捻れば顔馴染みの子供が背伸びをして窓を叩いていた。

「どうした」
「広場にいなかったから」

窓を開け訊ねると端的で要領の得ない、まっすぐな言葉が入ってきた。
とりあえず知らない人ではないのでレイニーは本日来訪予定のなかった客人、サティを家にあげた。やけに落ち着かない様子で玄関をくぐるのを横目で見やり、報酬と引き換えにまた手伝ってもらおうかなどど人差し指と親指の間に顎を乗せ画策していれば前触れなく上着をクイっと控えめに引っ張られた。
「花?」
レイニーの瞳に反射する凛と背筋を伸ばす可憐な一輪の花。吸い込まれそうな蒼穹を称える花から差し出している相手に目をやれば、気恥ずかしそうに眼を逸らし頬を赤らめている。再び一輪の花もとい花を持っている手に目を向けると微かに震えていた。拒まれるかもしれない不安を小さな勇気で覆う健気ともいえるその姿。
きちんと向かい合い気持ち笑みを深め両手でサティの手から花を受け取った。
「ありがとう」
「うん」
初対面のときより表情豊かに綻ぶサティが「綺麗だったからあげたくて」と弾んだ声に次いで「ちゃんと摘んでいいか訊いた」と慌てて理由を述べる様にレイニーは、あらためて感謝の想いを言の葉に紡いだ。
流石に花を手に持ったまま芽を取る芸当は出来ないため一時的なものでコップに貰った花を生け、半ば巻き込む形でサティと共にじゃがいも山脈攻略に勤しんでいれば、一部始終を見ていたダリアが何処からか持ってきた花瓶に花が活け直されていたのをレイニーが気付いたのはじゃがいも山脈を攻略した後だった。