ろころころ
2025-11-18 13:15:47
7935文字
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pk擬短編まとめ







ジーヴルシティは夜の帳が降りても、輝きを失うことを知らない。

エオス島は観光地と言うだけあって、夜の街も賑やかだ。カジノやバーがあるのはアグニスにとってもありがたい話だ。とはいえこちらは腐っても選手。見知らぬ人間に化けたイリュージョンを解くことは出来ないのだが。

にしても、今日は運が良かった。思ったよりも稼げたので気分も良い。バーカウンターで窓の外を眺めながらちびちびと真っ赤なワインをを啜っていたら、ふと見覚えのある大型車が目先の道路を走っていた。
『UNITE』と見慣れたロゴが記された周囲の大型車よりも大きなそれは、おそらくポケモン運搬用のものだ。そう、事務所が新しい選手を連れてくる時に乗せる車。
そういや次の参戦選手はダダリンだったか。とはいえ、来るにはまだ早くないか?そんなことを頭の片隅で考えていたアグニスは、唐突な破壊音に顔を顰めることになる。

ドカン、と何かを突き破るような音が1つ。
そして忽ち、辺りはつんざくような悲鳴と散らばる足音に包まれた。
まぁアグニスにとっちゃ、例えば前にこの島の運営を乗っ取っていたギャングが帰ってこようが知った話ではない。悪質な観光客にこの店がハイジャックされようともどうでもいいし、このワインに毒が入っていますと言われても同じだ。なぜならここはエオス島。選手に手を下そうなら、相応の罰が与えられる。おまけに完璧な医療が自分達には提供されるのだ。というかアグニスのビルドのアイテムはなんでもなおし固定なので、毒に関しては割と心底どうでもいい。

「お客様!どうか避難をお願いします!外で野生のポケモンが暴れているんです!」
「あ?野生?」

まさかのポケモンが原因とは。予想外に少しは面食らったが、まぁ想定内だ。基本的にエオス島の野生ポケモンは温厚だ。だから観光客を襲うことも無く、たまにエオス島の試合を覗きに来ることすらある。とはいえ、野生の個体の中には凶暴な類のものがいても何らおかしくは無い。渡り鳥のようなポケモンであれば、外部から入ってくることも出来る。

アグニスは焦るマスターに「気にすんな、店番ならしといてやるよ」と、ヒラヒラ手を振って答えた。


と、その時────────────


「きゃっ!……いやっ!?誰か助けて!!!」

人間の女の悲鳴と激しい物音が、すぐそこから聞こえた。
どうやらポケモンが店へ侵入してきたらしい。アグニスの席からは壁が死角になっており見えないが、荒い息遣いと血の匂いが、そこにいることをアグニスにも理解させた。

「ほら、お前が早く逃げないからさぁ?入って来ちゃったじゃん。こういう時は電気消して誰もいませんーって細工するのが十八番だろ?なぁ」
「お、お客様っ!は、離れろ化け物め!!!」
「あ、マジ?戦うの?そういう感じ?」

ポケモンよりも力が無い人間は、ポケモンよりも無謀に対して躊躇いがなくて、無駄な勇気を持っている。生存争いの中では優れているとは言えない生き物なのだと、どこかのたべのこしが好物な梟も言っていたか。
空の酒瓶を握り、バケモノへ目掛けて投げつけたらしい。そんなことをすればターゲットが自分に移り変わるだけなのに。お客を守ろうと自らを犠牲にするとはなんと責任感の強いマスターなのだろうか。そんな奴が食われちまうなんて、嗚呼!なんて悲しい結末なのだろうか!

バケモノが狙いを変えたことで、アグニスの目にもその姿が映る。

白く炎の様に靡く獣毛に、満月のように怪しく光る黄金の瞳。その白い身体には痛々しい傷が幾つも刻まれており、瞳と口端からは紅い雫を垂れ流していた。

儚く今にも消えゆきそうで、それでありながら怒りの感情を露わに爛々と獲物を捕らえるその瞳は、まるで死神のようだ。彼はアグニスも初めて見たポケモンだった。

いや、ポケモン?あれがか?
いや──────あれはバケモノだ。

バケモノが血で濡れた鋭い爪をマスターに振り下ろさんとした刹那、アグニスは飛びかかった。つじぎりを傷を受けていた腹の辺りへと叩き込む。

「──────がはっ!」

バケモノは白い毛を更に赤く染めながら倒れ込んだ。なんとも拍子抜けだ。想像よりも手応えがあるではないか。まさか、あくタイプが効果抜群なのか?

「お、お客様!いえ、貴方エオスの
「安っぽいお涙頂戴展開は不快なんだ。んな事よりあいつらどうにかしろって。出口付近で屯いやがって、帰れねーだろ」
はい、ありがとうございます」

マスターはただ頭を軽く下げると、襲われていた客の方へと走った。思ったより丈夫な奴らしい。人間のくせに大したもんだ。

…………………ニンゲン………お、まえたちを、おれ、は……ゆるさ、な、」
「あ、なに?お前まだ生きてんの?しつこい男はモテないぜ?なぁ?バケモノさんよぉ」
「────がっ………!?……………こ、の……はなせ……ニンゲンふぜい、が……!」
「うっせーよ雑魚。悪いが俺はみねうちなんぞ覚えられねーんでなぁ?お前、あくが弱点なんだろ?シャドクロかつじぎり。トドメの技くらいは選ばせてやるよ。ひゅー!俺ってやさしー!」

バケモノはアグニスの言葉に目を見開く。

………なにを……おまえ、ニンゲンじゃ、」
けほっ、にーに?」
…………っおい!くるな!げほっ、でてくるんじゃ!」

物陰からもう一匹の小さな影が姿を表す。
この床に伏しているバケモノと同じ色合い。だが注目すべきはそこではない。

子供は、見覚えのある尻尾を持っていた。

「アイツ、まさか……………っ!?」

アグニスは、あまりにも心当たりのありすぎる姿に意識を持っていかれた。油断した。
急に辺りに広がる黒い霧。そして次々とアグニスを囲むように増え続けるバケモノの影。


そしてそれらが重なり合って生まれたのは──────



『2月24日(木) 「アサルトブレイク」のお知らせ』




「いやふっっっざけんなよ!!!!死ね!!!!」

アグニスはユナイト技をぶっぱなした。イリュージョンが解けるが知らない。ぶっ飛ばしてやるアサルトブレイクめ。アサルトブレイクの被害者はメイジだけでは無い。あの時強化されなかったアサシンも被害者の内の一人だ。バチクソに強化された同ロールの奴に勝てるわけねーだろ馬鹿がよ。

幻術は霧となって散り、辺りはすぐに明瞭になる。

逃げられたかと思ったが、満身創痍のバケモノはそんな余裕すらないようだった。激しく咳き込み、その口からはぼたぼたと血が垂れている。その横で、Sサイズのバケモノが涙目になりながら寄り添っていた。

いや、バケモノというのはやめておこう。ポケモン図鑑にも記されている通りゾロアークは同族には優しい種族だ。身内贔屓というやつである。あんな白髪の奴なんて聞いたことは無いが、小さい方の尻尾と先程の幻術。少なくとも同族に近い存在であることは確かだろう。

「はぁ……お前、なに?どっから来たの」
……げほっ、うるさいだまれはなしかけ…………?お、まえ……ニンゲン、じゃ……
「お前もお得意だろ?イリュージョン。ニンゲン様によると、ゾロアークは仲間との結託力が強いらしいぜ?同胞には優しくしなくちゃなぁ?」
…………………………おれ、のことはいいから……、こいつだけは……!」
「だから安っぽいお涙頂戴展開は嫌いだって言ってんだろ。おいチビ、着いてこい」
…………?」

アグニスは上に載っていたワイングラスが落ちて叩き割れるのも気にせずテーブルクロスを引き抜くと、包帯代わりに傷口へ巻き付け、イリュージョンで再び姿を変えてから白い同胞を抱える。

「その辺に転がってるゴミみてぇになりたくなければ、その手を離さないことだな」
…………


小さく頷くゾロアを連れ、アグニスは闇夜に解けて消えた。




No.571
仲間想いの ポケモン。 恐ろしい 幻を 見せて すみかや 群れを 守るのだ。
(ポケモン ソード 図鑑説明より)