ろころころ
2025-11-18 13:15:47
7935文字
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pk擬短編まとめ






ガラル地方。自然と文明が折り重なった島。
しかし、モダンな風貌の建造物と石造りの古風な街並みが広がるその地方には、あまり知られていない闇の世界が存在した。

ガラル地方で暮らす善良な民とポケモンは、暗く狭い路地に足を踏み入れることは滅多にしない。それは彼らの中で暗黙の了解であり、犯してはならぬ禁忌であったからだ。


(んー……雨の匂い。ジメジメとして、独特な……だけど……)


ガブリアスのクラージュには、世界各国を旅して回った経験により鍛えられた"直感"というものがあった。こうした"直感"というのは根拠はなくとも案外信じられるもので例えば嵐の予感や近くにテロ組織がいる予感。長旅において危険と出会うことは避けられないが、それらを事前に察知することは安全で健全な旅のために最も重要な術と言っても良いだろう。
だからこそ、クラージュは雨の匂いの中に嗅ぎとった違和感にも機敏に反応していた。

(この臭い……なーんか嫌な予感)

ワイルドエリアを超えれば人々の気配が広がる街に入る。一見、野生のポケモンがうじゃうじゃと住み着く外より安全に見える街内。
しかし、本当に危険なのはポケモンでは無く人間であることを、クラージュはよく知っている。

今夜はもう遅いのでスボミーインでチェックインを済まそうと歩みを進めていたクラージュは、

ぎゃっ!?」

通りすがりの男と肩がぶつかる。
男は深々と被った帽子の影をさらに深くしたまま、謝る暇すら与えずすごすごと走り去った。

「えぇーめっちゃ足速いんですけどー……ありゃ?」

ひらり、と視界を舞う一枚の紙切れ。
どうやら先程の男が落としたらしい。仕方ない、ぶつかった自分にも責任はあるし追いかけてやろうかと紙を拾う。


…………えぇっ?」


そこには、一匹のニンフィアの顔写真。

そして、 『Don't let this guy get away』この男を逃がすなの文字。


クラージュは、このニンフィアをよく知っていた。クラージュと同じくエオス島のゲームに参加するオスのニンフィア。彼の名前は蓮々。

彼との出会いは単純で、試合で味方になったと言うだけの話。しかし、その時から彼はよくクラージュに話しかけてくれるようになった。最近は触覚で縛ってきたりもするが、それも彼なりのコミュニケーションなのだとクラージュは思っている。だってほら、ニンフィアは触覚で他人の感情を読み取るのだと言うし。きっと彼もそうなのだろう。

そういえば、と思い返す。クラージュが久しくガラルにやって来た理由はも彼だった。

「ポケスタでバズってるガラルのスイーツ知ってる?ハッピーポフレっていうんだけどぉ〜僕、アレ気になってるんだぁ♡クラちゃんは俺の忠実な犬だから買ってきてくれるよな♡」

その話を聞いて、しばらく尋ねていなかったこともあり、興味本位に行ってみようかと足を運んだ。広々としたポケモンの世界と、閉鎖的で狭苦しい人間の街。特有の空気は今も変わっていなかった。

(………にしても、なんでニンフィアちゃんが?)

クラージュとてガラルギャングの存在は知っている。その地方の危険要素を把握しておくのも旅支度の一つなのだ。

ガラル地方の裏社会に蔓延るのは、『メフィストフェレス』と呼ばれる人身売買や麻薬の取引を中心とした反社勢力。いわゆるギャングと呼ばれるその集団は普段は表に姿を表さず、人気の無い場所で、同じく表舞台に顔を出さない組織と縄張り争いをくり広げている。
そうした被害はごく稀に善良な一般人にも及ぶが、多くの一般人は彼らを怖がると同時に災害のようなものだと考えているらしく、例え彼らに理不尽に殺された者がいようが「ギャングに目をつけられるなんて災難だった」と話を済ませてしまうのだ。

よって、止め手のいない彼らは日に日に力を増している。
人々は、いつ自分たちに災いの手が降りかかるかわからぬ日々を、怯えながらも見て見ぬふりをして過ごしているのだ。

そんな奴らに、何故彼が?

………………………

クラージュは男の走り去った方角をじっと見つめる。既に視線の先に男の姿は無かったが、あいにく、クラージュはガブリアスだ。屋根の上に上り空中から街全体を見渡すことなど造作もない。

(あいつらを先に倒しておけば、ニンフィアちゃんは安全ってコト?)

両手を強く握る。
面倒事は嫌いだし、旅人として常に"傍観"の態度を貫くのがクラージュのモットーだった。

けれども、大事な友人を傷つけるようなヤツらを放って置けるほど、クラージュは割り切れる性格じゃなかった。


「しゃーない!ニンフィアちゃんを守っちゃうぜぇ!」

今まで鍛えてきたのはゲームすなわち、人々の笑顔のため。身近な人の笑顔を守れない奴に、世界中の皆を笑わせることなんてできない。


クラージュはその翼を広げ、ジェット機の如く飛び立った。