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もち粉
2025-11-15 00:57:54
11217文字
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いつくしみ深きあなたへ
カブ→ミス
お見合話の来たカブ
※カブの妻と子孫を捏造しています
「スズメの約束」の続編
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そして数ヶ月後
――
王都の北、斜面に沿って建てられた小さな館に、一通の手紙が届けられた。
初夏の風がきらめくある日、年若い娘が、ミスルンのアトリエを訪ねてくる。
名乗るまでもなく、髪の色や目元には、どこかカブルーの面影があった。
特にその瞳には、在りし日の祖父を彷彿とさせる光が宿っていた。
「はじめまして。あなたが『ミスルンさん』でしょうか?
……
祖父が、生前たいへんお世話になったと聞いています。
父も、子供の頃、長期休暇になるとよく泊まり込んで、あなたに稽古をつけてもらっていたとか」
「ふふ、カブルーの子供のくせに、あいつはずいぶんとやんちゃな、きかん坊だったからな。
私も、厳しくしつけてやったものだよ」
笑うミスルンは、当時よりは少しばかり年をとったものの、孫娘の目には、まだ三十歳そこそこにしか見えなかった。
本当にこの人が、祖父母の語った「ミスルンさん」なんだろうか。
父は「ミスルンさんは怖いぞ」と何度も脅してきたが、目の前の小柄なエルフはたおやかで、とても、かの武人として名を馳せる父がいまだに一本も取れない相手には見えない。
迎え入れられ、卓に着いた娘は、一通の古びた封書を差し出した。
「今日は、これをお届けに来ました。それから
……
来年から、私も王都で役人として働くことになりまして。そのご挨拶も兼ねて参りました」
彼女に手渡された封書を、ミスルンはまじまじと見つめた。
カブルーの遺品から見つかったというその封書には、宛名として、ただ一言
――
「ミスルンさんへ」とだけ綴られている。
ミスルンは、右肩上がりのその筆跡を、まるでぬくもりを確かめるように、指先でそっとなぞった。
これは、カブルーがミスルンに宛てた、ただ一通の手紙だった。
封筒の端は、ほんのり黄ばんでいて、まるで長いあいだ開かれるのを待っていたかのようだった。
けれど
――
ミスルンは、封を切らなかった。
席を立ち、今も書き続けている手帳にそっと挟む。
(私は、お前から多くをもらった)
(空っぽだった私の中に、お前が火を灯してくれた)
(あの光が、まだこの胸にある)
ミスルンは、深く息を吸った。
初夏の風が、やさしくカーテンを揺らす。
(
……
だから私は、まだ、生きていけるよ)
カブルーの瞳のような、青の濃い五月の空を見上げる。
どうしようもなく、お前に会いたくなったときのために
――
この手紙は、取っておこう。
カブルーの孫娘を振り返る。
「訪ねてきてくれてありがとう。暑かっただろう、冷たいお茶を入れよう。
……
お前に話してやりたいことが、たくさんあるよ」
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