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すだ
2025-11-08 16:34:52
10553文字
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主スバカグ
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春の里にはキミがいて
交際前の舞手スバルと嫁カグヤ。絆レベル6くらい。
カグヤと過ごすうち、かつて彼女に抱いていた恋心を思い出すスバルのお話。
ひたすら思い悩むスバルがいます。最終的にカグヤの言葉が悩みを吹き飛ばします。
完全なる妄想の産物ですが、婿スバルと同様に舞手スバルもカグヤが初恋だと信じている民です。
カグヤと仲良くなればなるほど、恋愛感情が記憶と共に戻ってきたらいいなと思ってできたお話です。
結婚後の某会話とは矛盾しておりますが、広い心でお読みいただければ幸いです。
#スバカグ
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2
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『スバル』
カグヤが呼んでいる。目を開くと、すぐそばに幼馴染が立っていた。
彼女が小首を傾げると、肩口から白銀の髪がさらさら流れる。桜色の唇が喜びを隠せない様子でほころんだ。
『今日は今までで一番うまく舞えました。見ていてくれましたか?』
頷くと、紅藤色の瞳が細められる。白磁の肌は上気し、ほんのり色づいていた。触れたくなって手を伸ばし
——
目が覚めた。
しばらく横になったまま反芻する。鼓動が少し速くなっていた。
夢を見た。夢の中のカグヤはこの世のものとは思えないくらい魅力的で
——
今にも消えてしまいそうなくらい儚かった。
おかえり。
帰ってきた自分の恋心を迎え入れる。
カグヤが春の里で暮らし始めてから数ヶ月が過ぎた。随分となじんだようで、里を訪ねると魔物退治やら手伝いやらで忙しい彼女と中々会えないことが増えてきた。
カグヤとの思い出は、白竜との契約により全ての記憶を失った自分が取り戻すことのできた数少ないもののひとつだ。
幼い頃から共にあり、苦しい修行の日々を身を寄せ合いながら乗り越えてきた。幼馴染で、親同士が決めた許婚。使命を果たすことができれば共に生きる未来はあるのかもしれない、と僅かばかりの希望を胸に旅立った日のことは、思い出していた。
星辰の祠を巡るうち取り戻した記憶は、かつて何が起こったか事実をなぞるだけのもので、そこにほとんど感情は存在していなかった。全然分かっていなかったのだ、カグヤへの想いを。
再会した直後は、いつか結婚するかもしれない仲の良い幼馴染という認識だった。大切に思っていることは戻った記憶の中にあったし、髪飾りを贈るのも妹のように思っていれば当然だと思えた。
恋人かと聞かれたとき、許婚だと口走ってしまったときに少し違和感があったが、それだけだ。あのとき、何故『幼馴染』ではなく『許婚』と答えてしまったのかは、その後思い知ることになる。
カグヤと共に過ごす時間が増えるうち、不思議なことが起こり始めた。
夢や白昼夢を見るようになったのだ。
きっかけは、おそらくスバルがカグヤへの恋心を自覚したことだったのだろう。
その日、スバルはカグヤを探すため春の台地を回っていた。
「見つけた、カグヤ」
見覚えしかない後ろ姿へ声をかけると、カグヤがゆっくりとこちらを振り向いた。不服そうな顔を見てスバルは苦笑する。やはり迷子になっていたようだ。
「タクミさんからの依頼で遠出したって聞いたから」
「ひとりでも大丈夫です。子供じゃないんですから」
カグヤはそう言うが、辺りはだいぶ薄暗くなってきており、もう少し遅かったら見つけるのにもっと時間がかかったはずだ。完全に夜を迎える前に見つけられて良かった。
帰ろうと言うと、彼女は頷き歩き出した。その方角が見当違いだったものだから、仕方ないと手を取り導いてやる。
「スバル」
抗議の声に、オレに着いてきたら離すよと答えたら再び頷いたので手を離した。そのまま並んで歩く。
「
……
心配をおかけして、すみませんでした」
消え入りそうな声で謝る幼馴染にどういたしまして、と返す。自分の弱さを見せることで誰かに心配をかけたくなくて、平気なふりをする不器用さがカグヤらしい。幼い頃から完璧を求められ続けた彼女が、せめて自分の前だけでも肩肘張らずに生きていけるよう、何とかしたいと思うのは幼馴染としてやり過ぎだろうか。
「タクミからの依頼って、何だったんだ?」
ふたりの間を浮遊するモコロンがカグヤに声をかけた。
「鎮守の森付近に魔物が出たので退治して欲しいと」
「ああ、あの辺りはいい木材が採れるってうららかが言ってたもんな。魔物に占領されちゃ困るよな」
「ついでに鎮守の木材をいただいてきました」
「凶神木と戦ってきたの!?」
責めるつもりはなかったが、つい声が大きくなってしまった。身を縮こまらせ小さな声で「はい」と返事をするカグヤ。軽く深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「ひとりでなんて無茶するね
……
。無事だから良かったけどさ」
春の里の魔物に遅れをとるカグヤではないと知ってはいるが、調子の悪いときは人間誰しもあるものだ。何もなくて本当に良かった。とは言え釘を刺しておいた方が良さそうなので、軽く睨んでおくことにする。スバルより小さな体がますます小さくなった。
——
ちょっと可愛い。
思わずときめいてしまった自分に何を考えているんだと頭を振った。最近妹分に抱くにはおかしい感情が出てくるときがある。
このままだと余計なことを言ってしまいそうで口をつぐんだ。何も言わず里への帰り道を歩き続ける。カグヤの横顔を盗み見た。少し落ち込んだ表情ではあるが、真っ直ぐ前だけを向き、瞳の輝きは失われていない。以前のような、罪の意識に苛まれ人知れずどこかへ消えてしまいそうだった彼女とは雰囲気が変わっていた。前へ進むことを受け入れ、歩き始めようとしているのだろう。どうしよう、何だか胸がいっぱいだ。
ふと、先程中途半端になっていた会話を思い出し問いかける。
「そもそも、どうして鎮守の木材が欲しかったの?」
言いにくそうに視線を逸らすカグヤの正面に回り込む。名を呼ぶと、渋々答えが返ってきた。
「
……
神社の修復に必要な素材ですから」
見事に心臓を鷲掴みにされた。少し前、竜神社の外壁に傷んでいる箇所を見つけ、タクミの所へ相談しに行ったのだった。たまたまカグヤもそこにいて、近いうちに鎮守の木材を取りに行かないといけないことを話したのだ。
「え、オレのため?」
眉根を寄せたまま、カグヤが横を向いた。手元の頼りない灯りが彼女を照らす。不機嫌そうな表情を作っていても赤らんだ頬が見えて、照れているのが一目瞭然だ。
「竜神社が傷むとモコロンの体調に悪影響があるかもしれません。一番はモコロンのためですからね!」
「何だよー、照れるなー。ありがとな、カグヤ」
では二番はスバルのためか。抱きしめて頭をこれでもかと撫でてやりたい衝動に駆られた。流石に大人になった幼馴染に対してやることではないので何とか自重する。
こういう誰かのことを思って自然と行動を起こせるところがたまらなく好きなんだよな、と心に浮かんだ瞬間、スバルに衝撃が走った。
そうか、オレはカグヤに恋をしているのか。
自覚してしまえば今までのことが全て納得できた。妹分だなんて思っていなかった、始めから恋愛対象として好意を寄せていたのだ。だからあのとき、幼馴染ではなく許婚と白状してしまったのだろう。
カグヤはオレの許嫁だから、誰も近寄らないで下さいね、と。
その夜、夢を見た。幼さの残るカグヤが隣に座っていた。まだまだ細く小さい体だが、体の線は丸みを帯び少しずつ女性らしくなっている。
最近、幼馴染と顔を合わせるたび変な気持ちになる。何故か彼女から目が離せなくなるのだ。今日は剣術の稽古の日で、散々師匠にしごかれた後休憩をとっているところだった。互いの傷だらけになった体を見て苦笑し合う。全く師匠は容赦がない。思い出したように、カグヤが話しかけてきた。
『そういえばスバル、舞には剣舞というものがあるらしいんです』
そう言うと、興味津々といった表情でこちらへ身を乗り出してくる。近い距離に少し動揺し、離れながら答えた。
『へえ、そうなんだ。カグヤは両方身につけているから、すぐ覚えられるかもね』
『はい! どんなものかはわからないんですけど、試してみてもいいですか?』
師匠の方を見ると、休憩中だから問題ないと了承を得た。カグヤがおもむろに立ち上がる。心なしか新しいことにワクワクしているようだ。最近は感情をあまり表に出さないようにしているようだが、昔と変わらず彼女は好奇心が旺盛だ。
『見ていて下さいね』
そう言うなり剣を手に軽やかに舞い始めた。剣戟の動作を模しながら、神楽舞を組み合わせているのが分かる。上段から真っ直ぐ振り下ろされる澱みない太刀筋。捧げ持つ刀に手を添わせ、伏せた顔に銀髪がふわりとまとわりついた。
正に勇壮で優美という言葉が相応しい。戯れに舞ってみてもこれ程までとは。少しの嫉妬心がちりりと胸を焼く。舞に関しては純粋にすごいな、と感心する反面、武芸で遅れを取るとどうしても嫉妬してしまう。
だがそれ以上に胸を占めたのは、苦しいような、幸福なような、泣きたいようなよく分からないものだった。もっとカグヤの舞を見ていたい。いや、「カグヤ」をずっと見ていたい。
舞うときの楽しそうな顔を。煌めく紅藤色の瞳を。暗闇の中でさえ明るい豊かな白銀の髪を。凛と立つ真っ直ぐな背中を。
今まで感じたことのない激情にスバルは振り回されるしかなかった。
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