2025-11-04 01:21:56
4878文字
Public 二次創作:全般
 

行き先を決める話:モルテとおでかけ編

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26345340#2 ←これの冒頭シーンと同じシチュエーションで、過去作の登場人物たちとモルテの絡みを書いてみました。雰囲気の違いを楽しもう!

・当作品は、UTAU音源キャラクター『凶街モルテ』の二次創作作品です。キャラクター設定に一個人の解釈や捏造が多数含まれます。
・異性および同性間での恋愛・性愛を想起させる要素を含みますが、直接的な表現は含みません。
・過去作のスピンオフ要素を含みますが、重大なネタバレはありません。


『あの男』の場合

 男は満腹だった。そう思うとカフェに入るのもあまりしっくりこなくて、その上で楽しみつつ時間を潰せるなら——
「カラオケはどう?」
 その提案にモルテは特に異議を示さなかった。
 そんなわけなので、眼鏡の男がカラオケを選んだことには特に深い理由はなかった。
 ……だからこそ。

 カラオケの受付にて、店員の袖口からタトゥーの一部が覗いているのを男は見つけてしまった。その図案を認識した男は——
……うぐっ」
 己の運のなさを静かに呪ったという……のは、ソフトクリームつきドリンクバーに目を輝かせているモルテには全く伝わっていない。

***

 103番ルームにて、どさっと乱暴にソファーに腰を下ろす。
……あぁ……
 テーブルに突っ伏すと、メガネの黒いボストンフレームが顔の肉に食い込んだ。
「どうしたー?」
 男の向かいの席では、モルテがソフトクリームを頬張り
……最悪だ。ここのカラオケの店員、元カ……元恋人なんだけど」
 モルテはアイスティーを吹き出した。爆笑だった。
「マジで〜!?すっげぇ天文学的偶然!」
「笑うなあぁ……
 男は突っ伏したまま机をぺちぺち叩いて抗議する。しかしモルテは意に介さず腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
「元気出せよ。こんなときこそパーっと歌おうぜ?」
 モルテは手を伸ばして、男のくしゃくしゃの髪を撫でた。……指先に垂れたソフトクリームがついたまま。
「本当、何から何まで雑な男……
「そこは大らかってことで一つ」
 モルテはわざとらしく、白く染まった舌を出す。
「ミ」
 男は一言だけ鳴いて昇天した。
 相手の目には舌が超刺激物として映ってたことは困惑するモルテには全く伝わってない。伝わらない方がいいかもしれない。

 入室から数分、カラオケの機械は曲を入れてもらえないまま懸命にCMを流し続けていた。モルテはその音量にも負けずにおしゃべりを続ける。相変わらず"元恋人"いじりが激しい。
「あのタトゥーな、俺も見たわ。別に天使の羽を刻んでようが知らんが、お前があれに憧れて——くくっ」
「何で笑うんだ!!馬鹿にしないって言ったのに……
「そんなつもりはねぇよ。ただまぁ、天使の次は人喰い亡霊かーって考えるとなんかこうギャップが」
「つっ、次とかどういう意味で……!」
 眼鏡の下の顔が真っ赤になるのを薄暗い照明が隠した。おそらく幸いである。
 モルテはぐいっとアイスティーを飲み干し、ふっと息を吐く。
「まぁでも、向こうも仕事だろ?別にからかってこないならいいじゃん」
 そう言うと、男はのそのそと身を起こす。
「それはそうだけど……よりによっておまえと一緒にいるときになんて……
 言葉を濁しながらガラスコップを傾ける男の前で、モルテは『なにか問題が?』と言いたげに首を傾げる。
……なんでもない」
 わざわざ口にしない。それでも……あの切れ長の目が自分とモルテを交互に見やった気がして、それを思うと男の胸に小さな痛みが走る。
 この日常ごと、まるで天国だと錯覚させてくれた彼が、今自分の隣にいるモルテを見たらどう思うか……なんてことまで考えてしまう。
 ……何にせよ、人からどう見られたところで、今の男とモルテはただの友人なことに変わりはないのだった。

 ***

 そろそろなんか歌おうか……と気を取り直した男がパネルを手に取ったのが十五分後。モルテも時々茶々を入れつつ、男は少々激しめの洋楽ばかり入れていく。
「なんつーか、荒削りながらも気持ちが伝わってくる的な、そんな感じだな!」
「褒めてるってことにするよ……ほら」
 歌い終わって息切れしながら、男はモルテにマイクを突きつけた。
「次はおまえが入れたやつだよね」
「おぉそうだな!よっしゃ、俺の美声を響かせてやる……
「声量は程々にして?」
 モルテは仰々しくコップを置いて、マイクを掲げる。

 モルテの歌を、男は黙って聞いている。
 耳はその声に傾けて、目はその表情を捉えて離さない。
 そして、その歌のタイトルとバンド名をスマホのメモ帳に残す。特に悪いことでもないが、妙に後ろめたい。
……結局、あいつと付き合ってたときと変わらないな)
 憧れて、救いを期待して。そうして近づこうとした結果、レーザーでしか消えないような跡を残してしまった。もしもモルテに見られたら——と思う矢先に、そもそもそんな日は来るのか、と声が聞こえる。
……あーいい汗かいた。どうだ?俺のソウルフルな歌声で惚れ直したか?」
「ほっ、あっ、無自覚に!!あぁッ!!」
 男は爆発して崩れ落ちた。
「シャウト上手いな!」
 モルテの笑い声を背景に、男は内心『翻弄されるこの距離感も悪くない』と思い始める。
 その選択もまた地獄だとしても。