2025-11-04 01:21:56
4878文字
Public 二次創作:全般
 

行き先を決める話:モルテとおでかけ編

https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26345340#2 ←これの冒頭シーンと同じシチュエーションで、過去作の登場人物たちとモルテの絡みを書いてみました。雰囲気の違いを楽しもう!

・当作品は、UTAU音源キャラクター『凶街モルテ』の二次創作作品です。キャラクター設定に一個人の解釈や捏造が多数含まれます。
・異性および同性間での恋愛・性愛を想起させる要素を含みますが、直接的な表現は含みません。
・過去作のスピンオフ要素を含みますが、重大なネタバレはありません。



「あの女」の場合

「あー……なんか行きたいところあ」
「あそこの居酒屋。この時間からやってるから」
「被せて来るじゃん」
 モルテの友達である女は、遠慮なく行き先を決めてスタスタと店に向かった。モルテは小走りでその後を追う。
「お前はこの辺って詳しいの?」
 そう聞かれると、女は薄茶色の髪を掻いて返答を思案する。
「まぁ……見ての通り飲み屋多いし、仕事で行くこともあるから……それなりに?」
 店先にのれんと『営業中』の看板が出ているのを確認した女は、先達して店の引き戸を開ける。ガラガラと音を立てながら、夕下がりでも賑やかな喧騒が外に漏れ出していく。

***

 二名様ご案内された女とモルテは、テーブル席に向かい合って座った。
「かんぱーい」
「ウェーイ」
 陽とも陰ともつかないぬるっとしたテンションで、それぞれハイボールといちごミルクサワーを飲む。モルテの口元にピンク色の髭がついたのに女は気づいたが、特に指摘はしなかった。
「ていうか……お前ってこの時間から呑むの?」
 モルテに話を振られ、女は細い目をより細めてしばし考え込む。
……たまに」
「なるほど。結構やってるな?」
「たまにだって言ってんでしょ!」
 図星。それはそれとしてわざわざ言わないでよ、と女はモルテに詰め寄った。
「まぁいいじゃねぇか。そういう生き方って刹那的で楽しいよな!!」
 はっはっは、と悪い高笑いが店の中に響いた。
「ぐぬぬ……慰め方が乱暴なんだけど……
 そう言いながらも、女はハイボールを呑み進めていく。強い炭酸がガツンと来て、プライドごとアルコールが溶かしていく心地だ。
 やがて頼んでいた卵焼きやソーセージが届きだす。
「お、美味そ〜。写真撮ろ……お?」
 スマホを取り出したモルテはカメラを起動して……一瞬硬直する。スマホを掲げ、自撮りするかのように角度を変えたり画面を覗き込むが、表情は険しくなっていく。
……は?!牛乳髭ついてんじゃん!なんとか言ってくれよ!!」
「あたしが髪切っても何も言わないヤツに言われたくなーい」
「クソッ!!」
 女にそっぽを向かれたモルテは、悔しそうに歯軋りする。
 横目でその様子を見ていた女は、モルテに気づかれないように口元を綻ばせていた。
「いいじゃない、愉快で楽しそうでしょ?」

***

 モルテと女は、あくまで夕飯までの繋ぎとしてこの居酒屋で時間を潰すつもりでいた……結果的に一時間ほど滞在してしまっているが。
「んへへ……トマトサワーも中々いけるなぁ〜」
「今日のモルテ君は変わり種の気分ですか〜?」
 すでに若干変なテンションになりつつある二人。御通しもつまみも(主にモルテが)食い尽くして、空いた皿を時折店員が回収しに来る。
 それでも、女の方は比較的酔いが回っていなかった。ふにゃふにゃのモルテをじっと見つめては、ウーロン茶をちびちびと飲んでいる。
……
 グラスをつかむ指先が震え、氷が小さな音を立てる。
「全く、あんたは本当に食ってばっかりだね」
 その言葉には呆れと、わずかな愛情、それと……
 純粋に飲み食いしてこの女と過ごすのを楽しんでるモルテを見ると——そんなモルテだからこそ——このまま抱きしめて二人だけの世界に連れ去って、なにもかもあげて、奪ってしまいたいような……そんな欲望が、じんわりと女の心を侵食してゆく。
 きっといつか飲み込まれるだろう、と女は思う。
(これじゃあ、あたしの方が乱暴者だな)
 そんな自己嫌悪も、ハイボールが喉の奥に流し込んでしまった。

 日が落ちて、店先に赤い提灯が灯る。
 燃えるような色。仄暗い闇の中でも眩しく、人の営みを照らし出す。