もち粉
2025-10-13 22:21:48
10661文字
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誘惑係 〜好感度は、つくれる〜


カブミス
エルフイメージアップキャンペーン

パタちゃんは「盛りすぎ」「引き算」まではたどり着けなかったようです


パッタドルは資料の束を会議室の机いっぱいに広げ、真剣な顔で身を乗り出した。壁には手書きの円グラフやら何やらが貼られている。

〈隊長、次の一手は"服装戦略"です。「モテテク」において視覚的効果は七割を占めると、文献にもあります〉

ミスルンは小首をかしげた。

〈服で?〉

〈そうです!〉
パッタドルは力強く頷く。

〈まずは「ヘルシー肌見せ」。健康的に覗かせる素肌は、トールマンの本能に強烈に訴えかけます。これは我らの文化を理解してもらうためにも、民族衣装が最適です〉

そう言うと彼女は雑誌を開き、ぱんっと手のひらで押さえつけるようにページを叩いた。
肩と足を大胆に露出したミニワンピース姿のモデルのイラストが描かれている。なるほど、確かにエルフの民族衣装に近い形だ。

〈しかしカブルーは、ミルシリルの元で育っている。我々の民族衣装など見慣れているのではないか?〉

ミスルンの疑問に、パッタドルはふっと笑みを浮かべた。

〈もちろん、それだけでは彼への効果は薄いでしょう。……ご心配なく、抜かりはありません〉

彼女は次の資料をめくりながら、勢いよく指を差す。

〈次に「絶対領域」! 短い丈の服と長いブーツの隙間――ほんのわずかな肌の覗きが、相手の想像力を刺激するのです〉

……なるほど〉

ミスルンは図をじっと見つめ、理解したように小さく頷いた。

〈そして最後に「萌え袖」! 袖が長すぎて、指先だけがちょこんと覗く――これが「萌え袖」です。これにより、か弱さを演出し、庇護欲を最大限に引き出します!〉

〈さらに! 相手に何かを渡すとき、袖ごと差し出される仕草は"小動物的かわいさ"を発揮します。強者であるエルフの見せる、思いがけない可愛らしさ――そのギャップにトールマンは確実に落ちます!〉

〈ふむ……しかしサイズの大きい上着で「萌え袖」にして、「絶対領域」のできるようなブーツを履くと、最初の「肌見せ」はどうなるんだ?〉

ミスルンの疑問に、パッタドルは自信ありげに笑った。かけていない眼鏡を中指でクイッと上げるような仕草をして、寝食を削って練り上げた作戦を披露する。

〈脱ぐのです〉
〈脱ぐ?〉

〈「萌え袖」で庇護欲をくすぐったあと、途中で上着を脱ぎ、「ヘルシー肌見せ」を実行すれば、二段階効果が得られます。
なので上着は前開きで脱ぎやすいものがいいでしょう。丈は民族衣装の裾と合わせて、「絶対領域」は死守します。なおかつフード付きのものを選べば、小顔効果も期待できます〉

パッタドルは拳を握りしめた。

〈この三つを組み合わせれば、たとえカブルー相手でも、確実に落とせます!〉

(カブルーが……私に落ちる?)
ミスルンは真顔のまま立ち上がり、自分の体を見下ろした。

……つまり、民族衣装を着用し、サイハイブーツを履いて、大きすぎるフード付きの上着を羽織るといいのだな〉

〈その通りです隊長! 我々の総力を挙げた服装戦略で、あの頑固なトールマンを攻略いたしましょう!〉
〈勝負服、というわけだな〉

ミスルンは、決意をこめて頷いた。

〈承知した。必ずカブルーを落としてこよう〉




〈あと隊長、トールマンには「勝負パンツ」という風習があるそうです〉

*****

カブルーが"勝負服"のミスルンに強襲されるのは、この五日後のことである。
ミスルンが"勝負パンツ"を履いていたかどうかは――カブルーだけが知っている。

​なお、後年ミスルンが「決戦日」と呼んだその日以降、カブルーからの抗議は途絶え、「誘惑係」はこれで「一定の効果を得た」と判断され、以後、一般市民へと展開されることは二度となかった。


パッタドルは、本国への報告書とは別に、私的な記録の最後にこう記した。
「我らが隊長は、メリニにおいて最も成功した"好感度向上施策"であった。」