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吾妻
2025-10-07 23:13:17
6922文字
Public
アークナイツ
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Short Story log07
SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。
基本的にイチャイチャしています。
今回はロゴ博♀・白铁博♀・ムリ博♀が入っています
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5 minute Left
「
……
」
無情な呼び出し音を鳴らし続ける端末を、耳から引き剥がしてベッドの上に放る。
ドクターはベッドの上に座り、自身が投げ出した個人端末と睨み合った。そんなことをしたところで鳴るはずがないのは百も承知で。
先程から何度も掛けているのに、一度たりとも繋がらない。
別に、無理やりにでも連絡を取る必要に駆られているわけではない。カジミエーシュ内での調整ごとを担当している〝彼〟は、数時間前に定時連絡もしっかり送ってきている。
『大規模な交通規制が行われているため、本艦への到着は予定よりも遅れる想定』。
ムリナールは、本日の定時連絡をその一文で締め括った。
本来の業務は無事に完了しているし、報告のために近隣に停泊中のロドス本艦へ立ち寄るのもあくまでついでだ。急ぐことなど何もない。
もしも彼が何らかの厄介事
――
今回の目的地周辺で賞金稼ぎ崩れが近隣の村への略奪行為を繰り返している
――
に巻き込まれてしまったとしても、むしろ同情すべきはムリナールではなく、その賞金稼ぎたちに対してだろう。
それに、何かに首を突っ込んでしまったとしても、武勇伝語りをするような男ではない。本当に交通規制だったのかと問い掛けたところで、溜息混じりに「私が虚偽の申告を行っているとでも?」と、冷ややかな眼差しを向けられるのが関の山だ。
だから別に、上司として、急いでムリナールの安否や居場所を確かめる必要はない。
――
ない、のだが。
ちらりと卓上のデジタルクロックに目をやると、そろそろ今日も終わろうとしている頃合いだった。
一月ほど前、『ここ数ヶ月で携わった任務の報告も兼ねて本艦を訪ねる』と言い出したのはムリナールのほうだった。日頃カジミエーシュ周辺での業務に当たりつつ、自身の〝探し物〟を続けている彼の来艦は不定期だ。ムリナールが来艦ごとにドクターの私室で夜明かしするようになってからは、以前よりも直接顔を合わせる頻度は増したが、それでも普段は離れて暮らしているのが実情だ。
そんな彼が。自分から。わざわざこの日にちを選んで。訪ねてくると言ったからには。
柄にもなく、妙な期待をしてしまっても、仕方がないのではないだろうか。
何しろ本日は、ドクターの誕生日なので。
想定外のトラブルがあったのならば仕方がない。
厭世家を装いつつも、彼が未だ弱者に寄り添わずにはいられない精神性を持ち続けていることも知っている。
ただ、それでも、なんというか。
この日を指定してきたのは君なんだから、メールでも電話でもいいので一言ぐらいあってもいいのではないか。
そんな我儘を抱いてしまったのである。
我ながら面倒くさい。本当に取り込み中なのかもしれないし、あまり干渉するのもよくない。
だが、しかし。
もう一度卓上のデジタルクロックに目をやって。今日があと5分で終わるのを確かめて。
「
……
あと一回だけ」
中空に言い訳をしてから、ドクターは端末を拾い上げ、リダイアルを試みた。
10コール。10コールで出なければ今日はもう寝よう。
自身に言い聞かせつつ、端末を耳に当てた瞬間。
廊下に面した扉の向こうで、無機質な着信音が響き渡った。
「
………………
ん?」
咄嗟に終話ボタンを押すと、扉の向こう側の着信音も止まる。
「
……
」
思考停止したまま再びリダイアルを試みれば、またしても扉の向こうからプリセットと思しき単調な音が鳴り響く。
「
……
ええと」
完全に混乱に飲まれ、終話ボタンも押せずに固まっていると、外側からロックが外された扉が横滑りに開いた。
薄暗い室内に、扉の形に光が差し込み、そしてその只中には、長身の人影。
「
……
私はどうやらあなたを見誤っていたようだな」
手にした端末を操作して着信音を黙らせると、ムリナールは室内に一歩踏み込んできた。彼の背後で扉が閉まり、室内は薄闇に包まれる。
「幼い頃のマリアのほうがまだ忍耐力があった」
「
……
う」
そう言われると立つ瀬がない。
しかし、こちらに向かっているのならば、通話に応答して、一言そう言ってくれればよかったのに。
恨み言を伝えれば、ムリナールは涼しい顔で「急いでいたんだ」と答える。
それを言われてしまえば返す言葉もない。電話に応じる時間も惜しんでいたとみえる。結果として日付が変わる5分前にやっとこの場にたどり着いたのだから、彼の言い分も尤もだ。
「
……
君がこんなに日付を気にしてくれるとは思わなかったな」
上着を脱いでネクタイを緩める男を見上げ、照れ隠しとからかいを込めて呟けば、乱れた髪を掻き上げながらムリナールは嘆息する。
「あなたこそ、ご自身の誕生日にそこまでこだわりがあるようには見えなかったが」
やはり、誕生日とわかった上で今日を指定してきたのだ。さりげない答え合わせにくすぐったさを覚えつつ、ドクターは肩をすくめた。
「確かに、君の言う通り、私は自分の誕生日なんてどうでもいいんだけど
……
。皆が祝ってくれるのは嬉しいし、何より君が今日来てくれるっていうから、柄にもなく浮かれちゃったんだ。それこそ、小さな子どもみたいに」
「
……
プレゼントが貰えるとでも?」
律儀に上着をハンガーに掛け、ムリナールが肩越しにドクターを振り返る。
「まさか貰えないとか?」
別に、プレゼントの有無はどうでもいいのだが、彼との問答が楽しくなってつい食い下がってしまう。この、他人からはギスギスしているように見えるであろう言葉の応酬も、二人で時を過ごしている証のようで、妙な安心感がある。
「あなたはもう子どもではないだろう?」
とはいえ、ムリナールの端正な顔にデカデカと「呆れた」と書かれているのを感じると、少々ムキにもなってしまうもので。
「だったら、大人にしか貰えないものはあるのかな?」
「
……
」
挑発の意図を込めて顎を持ち上げ、身軽になった男を見上げれば、ムリナールは無言のままベッドの方へ歩み寄ってきた。
大きな手が伸ばされて、上向けた恋人の顎をむんずと正面からつかまえる。
「あっ、こら、なんでいつもそんな乱暴に
――
」
日付が変わる1分前に、薄暗い室内で、ふたつの影がひとつに重なった。
【おわり】
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