吾妻
2025-10-07 23:13:17
6922文字
Public アークナイツ
 

Short Story log07

SNSなどに投げ込んでいた短い話のまとめです。
基本的にイチャイチャしています。
今回はロゴ博♀・白铁博♀・ムリ博♀が入っています


三割引ボーイ


「フェイスト、後ろを向いて」
「え? こう?」
 ステインレスは、促されるままに回れ右をした。理由はわからないが、ドクターの言うことには何となく素直に従ってしまう。彼女が自分に悪意を向けることなどあり得ないし、彼女のお願いは何でも叶えてあげたいからだ。
 すると、背後に回ったドクターが、背中の真ん中あたりをつんとつつく。
「〝これ〟、わざと?」
「? なんのこと?」
 とぼけているわけではなく、本当にわからなかった。ドクターの指が示すあたりには特に違和感もなく、ぶつけたり汚したりした記憶もない。
「なんだ、わざとじゃないのか」
 どことなく残念そうに呟くドクターの声のあと、ぺり、と奇妙な音が聞こえてきた。ぺり……
「これ、見覚えはある?」
 肩越しに振り返ったステインレスの眼前に、ドクターの手が差し出される。その指先に貼り付いているのは、「3割引」と印字された値引シールだった。
「あ!」
 思わずそこそこ大きな声が出た。あまりにも見覚えのあるものだったからだ。夕方、エンジニア部に顔を出した際、だいぶ遅めの昼食を取っていたスタッフの弁当の上に貼られていた代物だ。
 おそらく誰かが悪戯心を発揮して、こっそりステインレスの背中に貼ったのだろう。
「俺、そいつを貼られたままエンジニア部からここまで歩いてきたってこと!?」
「おそらくは」
「マジかー……
 別にそれで誰かに笑われたりしたわけではないが、そこそこの距離を「3割引」のまま移動してきたのかと思うと、今更ながら恥ずかしくなってくる。エンジニア部の面々は、筆頭のクロージャを始めとして、好奇心旺盛でチャレンジ精神に満ち溢れた良き同僚たちだが、こういうところがあるのだ。つまり、子供のような、ある種の無邪気さが。
……っていうか、わざとなわけないじゃん!?」
 好きな人の前ではできる限りかっこよくありたい。それが、恋する男のプライドというものだ。わざと自分を値引きする理由なんてどこにもない。
 それに、自分でネタを仕込むなら、背中なんて気づきにくい場所ではなく、もっと目立つところに貼る。気づかれないネタほど虚しいものはないからだ。
 なのに、どうしてドクターはちょっと残念そうなんだ? 割引されてて欲しかったってこと?
 ドクターの真意が読みきれず、ステインレスが難しい顔をしていると、ドクターは僅かに唇を尖らせて、
「今日はサービスデーかと思ったのにな」
 と、言った。
……
 ぱちぱちと数度瞬きをして、ステインレスはドクターの言葉を咀嚼する。
 サービスデーなら良かったってこと?
 つまり――
(俺にサービスされたいってこと?)
 ストレートに、そして自分に都合よく解釈すれば、そういうことになる。
(そんなの、いつだってするに決まってんだろ)
 好きな人の望みなら、いつだって叶える準備はできている。問題は、ドクターが案外甘え下手だということで。
 そういうところも可愛いと思ってしまうのだから、恋は盲目とはよく言ったものだ。
 ステインレスは尻尾を揺らしながら、シールを貼りつけたままのドクターの指先を捕まえた。そのまま自分の方へ引き寄せると、値引きシールを自身の鎖骨あたりにぺたりと貼り付けた。
「んじゃ、今からサービスタイムってことで」
 まだ事態が飲み込めていないらしいドクターに満面の笑みを向け、ステインレスは身を屈めた。
 ドクターの背に腕を回して抱き寄せ、耳元に唇を近づけて。
「どんなサービスして欲しい? ちゃんと言葉で教えてよ?」
 わざと低い声で囁けば、腕の中に閉じ込めたドクターがかすかに体を震わせた。


【おわり】