文豪のマシュマロ、来たな...
◇◇◇
あのとき目を逸らしたのは、本能的な直感によるものだったのかもしれない。私はこの歌を「受け止めすぎて」しまうと、分かっていたから。だから、向き合うのを避けたのかもしれない。自分を、守るために。
その直感は正しかったのだと、痛感する。だって、今の私は、こんなにも。
「は、ぁ
……っ」
吐息に熱がこもる。震えが止まらない。握りしめた手のひらに、汗が滲む。
歌声が、旋律が、突き刺さる。初音の執着、初音の渇望、初音の、激情。荒れ狂う感情の濁流。その全てが、私だけに向けられている。ただ一人、私だけに。
初音の感情が喉元まで流れ込んで、窒息しそうになる。波に押し流されるように、私の存在ごと、どこかに連れていかれそうになる。
……怖い。初音に呑み込まれそうで、怖い。怖い、怖い、こわい
……っ。
──けれど、と思う。
もし、この波に身を委ねたら。私は、どうなってしまうんだろう──
「
……さきちゃん?」
その声に、はっと我に返る。顔を上げると、初音が不思議そうにこちらを覗き込んでいた。
ほとんど反射的に、付けていたイヤホンを外す。私を包んでいた波が、嘘のように消えていった。
「動画見てたの?
……あ、これ、再結成ライブの時の。懐かしいね
……」
初音がそう言って、目を細める。その横顔は、とても穏やかで、優しくて。
……でも、私は知っている。その表情の裏に、皮膚の下に、どれだけの情念が渦巻いているのかを。
先程まで見ていた動画に、視線を戻す。画面の中では、初音が音もなく歌っている。イヤホン越しに届けられていた、私への思い。
──もし、直接受け取ってしまったら?
「
……ええ、私も懐かしいと思って、見ていましたの。
……それで、初音」
頭の片隅で、やめろと叫ぶ声がする。その声を振り切って、初音を見上げて、言う。
「よろしければ、この歌、
……もう一度、歌ってくださらない?」
──あの波に身を委ねたら、どうなってしまうのか。
それは、私が今から身をもって知ることだ。
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