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望月 鏡翠
2025-09-10 01:38:33
5499文字
Public
リアタイ
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シズメ 06
シズメ/三角 麻弓/流転〜アフター
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自然科学研究部の活動は過酷だ。
段ボールを開いた瞬間に立ち上った埃に、一時退避をさせられた。窓を開け、マスクをしていても、まだ十分ではない気がする。防塵マスクとゴーグルが欲しいところだ。
いっそ中身なんて確かめずに、そのままゴミ集積場にポイ、とかじゃいけないんだろうか。
いけないんだろうな。
学校から借りた備品が混ざり込んでいたら大変だ。それに実験器具の中には小さくても高価なものも少なくないし、図書館から借りてきた本がそのまま残っていて、いつから借りたままなのかわからず悲鳴をあげたこともあった。
卒業した先輩たちが残していった、清濁併せ持つ遺産を整理整頓し、部室の掃除をするべく手をつけたはいいが、このままだと現状復帰がいつになるかわからないまま、来年を迎えるのかもしれない。
自然科学研究部に入ったのは、部活に参加した実績を残しながら、理系進学のために少しでも勉強時間を確保したかったからだ。実験は好きだが、生き物が特にわけでも興味があるわけでもない。
特に虫が苦手だった。
自然科学研究部の部室からは、突然虫の標本だとか、いつからおいてあるかわからないどんぐりに虫が沸いていたりして、虫嫌いには辛い環境だった。
古い段ボールを見ると、虫の温床になるのだから早めに捨ててくれと思う。しかし、それを片付けた方がいいと気にする人間が他にいないのだから自分でやるしかなかった。
埃が収まった段ボールの元に戻る。
活動記録だろうか。いつから一体あるのかわかったものではないノートが中に入っていた。
「うわ、何年前だよ」
古い紙は劣化して茶色くなっている。表紙の日付は何年も前のものだった。
表紙には三角 麻弓と書いてある。
「さんかく? まゆみ」
部活の活動記録だろうか。七月一日から始まっていた。
近隣の海の生き物の観察記録から始まっている。かと思えば、この辺りでは見たことがない鳥も登場する。どこから渡ってきたのか、記録した人もわかっていないらしい。
あとで調べる! と勢いよく書いてあるが、調べた形跡はなかった。
「絵、上手いな」
生物観察する人は、ある程度絵を描くのが上手い。急いで描いたらしいからラフなタッチだ。別に写真が存在しないほど昔じゃないだろうと思うけれど、なんでわざわざ手書きにしたんだろう。手元にカメラがなかったんだろうか。ともかく、こういうのがさらりと描けるのは格好いいと思う。
ページを捲る。
「なんだ?」
魚の種類がガラリと変わった。
生き物に詳しくなくても、生息地域が変わったのだとわかるくらいに色鮮やかだ。近隣の魚を観察するのをやめたのだろうか。中途半端だ。
このページになると、魚は料理法や味まで書いてある。食べたということは、現地にいったのだろうか。途中から日記のようになっていた。
旅行にでもいったのか。修学旅行先で活動を行ったのかも知れない。しかし修学旅行で魚料理に精を出しすぎている。
ノートの次のページには、首長竜の絵が書いてある。
空想の物語を書くことにしたらしい。途中でシズメ周辺に伝わる伝承の話も登場する。どうして自然科学研究部の部員が、民俗学をやっているのだろう。
幽霊だとか犬だとか白鳥だとか、もはやここまでくると観察とは程遠い内容になっていた。
誰かの名前が書いてあるところは、友達との夏休みのやり取りなのだろうか。なぜか羽や毛がビニールの袋に入れて保管してある。標本のようにラベルがつけてあったが、ビニールも劣化して黄ばんでいた。
結局、なんのノートなのか全くわからない。部活動というよりは、個人的内容のようにも思える。
どうしてわざわざ部室においていったのだろう。
「捨てていいよな」
大切なものなら、家に持って帰ったはずだ。
「何を?」
独り言に返事をされて、飛び上がる。部活のメンバーだ。掃除は全然手伝わないくせに、いつの間にか部室にやってきていたらしい。
「このノート。なんか、魚とか鳥とか犬とか猫とか首長竜とか書いてあって、支離滅裂」
渡してやると、思ったよりも熱心に読み始めた。恐竜が好きらしい。
こっちはこっちで、手が止まっていた掃除を再開する。もしかすると部室が片付くのは修学旅行から戻ってきてからになるかもしれない。それくらい果てしない作業だ。
ダンボールの中のものを、纏めてゴミに出す。
部室に戻ると、机の上に例の古いノートが出しっぱなしになっていた。
「だから片付けろって」
とはいえ、今日の分のゴミはもう出してしまった。ひとまず部誌を入れている棚の一番端に突っ込んでおいた。
もうすぐ修学旅行だから、自分の荷造りもしなければいけない。
ノートのことは、すっかり忘れていた。
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