学校が海に沈んでいるのはあり得ないくらい不思議なことではあるけれど、流石に夢ではないと思っていた。麻弓の頭から出たにしては壮大すぎるし、霊媒師はキャラが濃すぎる。首長竜だって、恐竜に詳しくない頭で動かしたって、あんなにリアルには動かない。
だからこれは夢なんかじゃないはずだ。
頬をつねったら痛いし、知らない魚は初めて食べる味がした。でも本当の意味で学校が水没して、水の中にぷかぷか浮かびながら、あくびがでたときにこれは夢だったのかなと思った。
知った人だった人の姿が目の前で変わって、死んだ人だったんだとわかる。自分の中にあった記憶がどんどんとぼやけて、不確かになっていく。
個人を個人だと証明してくれるものは、実は記憶の連続性しかない。それが嘘かもしれないと思ったときは、流石にショックを受けた。
しかし、誰かが麻弓を騙したわけではなく、この二ヶ月が終わったのなら七月一日に戻るという。それなら別に自分の時間が奪われたわけではないし、楽しみにしていた修学旅行がなくなったわけでもない。
何も悪いことは起こっていない。
だから、夢のようなものなのだと考えることにした。
夢の中でもの凄く長い時間を過ごしても、実際は一瞬のうたた寝だったりする。夢の中で、知らない人間とまるで友達のように振る舞っていることもあるし、全く別の役割を与えていたりする。
それ自体に深い意味はなく、そういう設定なだけだ。
麻弓の頭が生み出した夢ではなく、みんなの頭が生み出した夢。あるいは、この場所が見ている夢。シズメ高校が夢を見てこんな景色を見せているのかもしれない。
「目が覚めたら忘れちゃうのかなぁ」
目を覚ましたあとの夢は、きっといつか忘れてしまう。しかし、夢の登場人物はどうだろうか。結局、麻弓は鎮にご飯を押し付けたり遊びにいったりするだけで、k打ち寄せを頼んだりはしなかった。
大人になったら、誰かにもう一度会いたいと思ったりするような別れが訪れるのだろうか。
きっとそのときに、この二ヶ月のことを思い出す。
私は幽霊と話したんだ。
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