すだ
2025-08-30 12:18:07
7240文字
Public 龍の国その他
 

カグヤと黒竜

舞手スバルと嫁カグヤ。
主スバカグ前提の、相棒との思い出を無くしたカグヤと、夢現でカグヤを見守り続けた黒い竜のお話。
舞手スバルが黒竜とバチバチやり合っているので、婿スバルと黒竜の関係が好きな方はご注意を。
カグヤが黒竜の乗り手だった頃の描写は暗いです。カグヤが天寿を全うする描写があります。
スバルはゲーム内最後の選択肢を断っています。
全く言及されなかった黒竜とカグヤの関係を自分なりに考察したもの。
カグヤが黒竜の話を全くしないのは記憶をいじられたのでは……という完全な投稿者の妄想です。
ルンファク4のセルザとフレイが大好きなものですからこじれました。


 
 黒竜の契約からカグヤを解放し、彼女が春の里に住み始めてから随分と時が過ぎた。
 二度と会えないと思っていた幼馴染に会える嬉しさと、里に馴染めているだろうかという心配から、時折カグヤの様子を見に行っていたスバルは違和感を覚えるようになっていた。
「黒竜が、カグヤの中にいないんだ」
 静かに話し始めるスバルの言葉を受け、モコロンは不思議そうに答えた。
「? そりゃそうだろ。天鬼開闢法てんきかいびゃくほうで黒竜とカグヤの魂は完全に分かたれたんだから」
「そうなんだけど、そうじゃなくて」
 どう言ったら相棒に伝わるだろうか。魂を半分分け合っているとは言え、意思の疎通を完全に行うには言葉が必要だ。それが何とももどかしい。
「オレとモコロンは魂を半分分けた者同士強い絆があるだろ? カグヤだって、契約が破棄される前は黒竜と同じ状態だった筈なんだ。なのに、オレは彼女の口から黒竜の話をほとんど聞いたことがない」
 スバルの言葉に、モコロンは目を瞠った。
「あいつ……。もしかすると、カグヤの記憶をいじったのか?」


 スバルはひとり、カグヤと黒竜が最期を迎えた場所へ来ていた。ここに、何か手掛かりがないか確かめるためだ。
 辺りを見回すが、特に何も無い――いや、あった。カグヤを生き返らせたときの花吹雪だ。
 スバルはしゃがみ込み、それを拾い上げようとした。その途端、火花が散るような衝撃が彼を襲う。
 驚いて手を引っ込めると、花びらが舞い上がる。漆黒の渦が現れ、花びらは吸い込まれていった。
 何も無くなった虚空を見上げる。僅かだが禍々しい気配が感じられた。
「余計なことはするな、ってことか?」
 気配が濃くなり、スバルを拒絶するようにじわじわと広がっていく。彼はそれが何者なのか理解した。
「はあ……。分かったよ。もうここには来ない。カグヤにも黒竜の話はしない。それでいいんだろ?」
 空気が和らいだ感覚に、スバルは腰に手を当てた。
「カグヤにバレたら怒られると思うけどね。あなたも知ってるだろ? 彼女は怒らせると怖いんだ」
 気配が惑うように揺れる。もうここに用は無い。スバルは背を向けて歩き出した。
「オレも、辛いことは思い出して欲しくないから利害は一致してる。それでいいなら構わないさ」


「良かったのか?」
「あっちがそう望んでいるんだし、いいんじゃない?」
 帰る道すがら、白竜からの問いにスバルは答えた。
「お前、そんな適当な……
 呆れた様子の白竜に、スバルは肩をすくめる。
「多分これが黒竜なりのカグヤの守り方なんだろ」
「お前、もしかしてものすごーく怒っているのか?」
「そうだね。もしオレがカグヤの立場だったらって考えると凄く腹立たしい。こっちが望んでいるか確認もしないで勝手なことをして、ってさ」
 だから、黒竜にはカグヤの髪一本さえ渡してなんてやらない。せいぜい悔しがりながら眠りにつけばいい。


 しかし、黒竜はしつこかった。
 あれほどスバルに関わるなと警告したにも関わらず、よほどカグヤが恋しかったのか、残滓となって彼女を連れ去ったのだ。
 絶対に渡す気のないスバルは一瞬で残滓を浄化した。少しモコロンが引いていた。
 結果的に互いに離れたくないのだと確かめられ、ふたりの関係が進展したことは不本意ながら感謝している。
 その後も以前のようなカグヤを攫うほどの力は無いとはいえ、黒竜の残滓は度々カグヤの周りに現れた。
 前回のことで懲りたスバルが見つけた瞬間祓っているのでカグヤには気づかれていない。と思う。
「あいつ隠れる気全くないよな……
「そんなに心配なら記憶消さなきゃいいのに」
 思わず呆れ顔になってしまうスバルとモコロンだったが、こう頻繁に現れてはそう思われても仕方ないのではなかろうか。


 黒竜のことを忘れている様子のカグヤだったが、時々様子がおかしくなることは夫婦になってから明らかになった。
 ある日の夜。うなされているカグヤの声にスバルは飛び起きた。慌てて様子を確認するが、体調が悪いのではなさそうだ。
 ただ、布団を強く握りしめながらぽろぽろと涙を流す。
 行かないで、行かないでと何度も『誰か』を呼ぶ。
 その慟哭は、決まって月の無い夜に起こった。
 始めはスバルがいなくなる夢を見ているのかと、彼女が落ち着くまでずっと抱きしめ、背中を撫でさすっていた。
 だが、翌朝になると何も覚えていないのだ。すっきりとした顔で、おはようございます、スバルと可愛らしく挨拶をしてくれる。
 スバルがいなくなる夢なら少しくらい覚えていてもいい筈だが、うなされた夜のことは毎回綺麗さっぱりカグヤの記憶から消えているようだった。
 多分、黒竜の夢を見ているのだろう。
 正直面白くはなかったが、やはり彼女と黒竜の絆はモコロンと自分のように強かったのだろうと思えば我慢はできた。

 
 何を失ったか忘れたままのカグヤと過ごす歳月だけが過ぎていく。年長者を送り、同年代の者たちが一線を退き、スバルも里長の任を辞することを決めた。
 すでに独り立ちした子らは、各地でのびのびと過ごしているようだ。ようやくゆっくりできるようになった時間を、最愛の妻と過ごした。
 ある日の昼下がり、竜神社から外を眺めるカグヤが呟いた。
「最近、黒竜と過ごしたときのことを夢に見るんです」
 その言葉にはっとした。ずっと記憶を消すことで彼女を守っていた黒竜。カグヤとの契約はとうに切れている。力もほとんど残っていない筈だ。
 だが、曲がりなりにもあれは神の眷属、神竜である。
 モコロンの受け売りだが、カグヤとスバルとの契約により得た力の残りを使いながら、人間の記憶をいじることなど容易だったろう。恐らく、完全に眠りにはつかず、カグヤの心を守っているのだろうとも。
 その力も残り少なくなってきたということか。
「そうか。そういえば聞いたことなかったよな。どんな旅だったんだ?」
「もう滅茶苦茶。世間知らずな私と神竜である黒竜がふたりいたところで、まともな生活なんてできませんでした」
 それでも、黒竜は自分の鱗を使って魚を獲ってくれたり、寒がるカグヤのためだと抱き枕になってくれたりしたのだと言う。
「鱗が硬くて、痛いんです。痛いと言うと、文句を言うでない! って怒るんですよ。でも、我慢して抱きついていると、すまぬ、すまぬって謝るんです」
 辛い旅だったろうに、とても楽しそうに連れ合いは笑う。そして、ふと遠くを見つめた。
「どうして、今まで忘れていたのでしょうか……
 何も言わず、隣に座る愛する人をスバルは見つめた。
「これは、お説教ですね」
 恐らく、カグヤは気づいたのだ。黒竜が彼女に何かしたことに。
 それはそれは可憐に微笑むカグヤの様子に、スバルは黒竜に同情した。
 だから言ったじゃないか。カグヤは怒ると怖いんだって。
 きっとどうにかして黒竜と邂逅を果たすに違いない。スバルには確信があった。