kanaco
2025-08-23 00:09:28
10116文字
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【四信/A信】信仔と信信の四仔アタック大作戦

《四信/A信》四仔に恋している信仔(映画ンヤ)が、魔法の耳飾りの力で出会った信信(原作ンヤ)に励まされて四仔に告白しようとするおはなし。主役は映画ンヤ。AVは登場せず、原作ストーリーについて言及ゼロにつきネタバレはないかと思いますが、キャラクターには触れているのでご注意ください。

その日、十二と一緒に廟街を歩いていた信一は怪しい男と肩をぶつけた。

相手に急いでいるそぶりはなかった。まるで狙った体当たりのように肩がぶつかる。信一はムッとして振り返ったが、相手は振り返らず歩みも止めなかった。黒い服を着て、深い帽子を被った男。黒社会の雰囲気は感じられなかったが、後ろ姿だけでは確証はない。信一はムカつきはしたものの、追いかけて絡むまでは面倒だった。(なんだよ、もう)と小さな苛立ちだけを起こし、その場は流してしまうことにした。

不思議なことが起きたのは九龍城砦の自室に戻ってからだ。

夕方から四仔・洛軍と麻雀をする予定があったため、十二と一緒に城砦に帰ってきた信一は、服を着替えようと1人で部屋に戻った。後で四仔の診療所に集合する予定だ。

服を脱ぐ前にポケットの中身を全て出そうとスラックスをまさぐった時、身に覚えのないイヤーカフが入っていることに気がついた。

アクセントのように小さな青い石がついている、シルバー製の細い耳飾りだ。信一はピアスを空けていないし、体をよく動かすため耳飾りは落としやすい。だからイヤーカフを身に着ける機会はほとんどなかった。(え?俺もしかして知らずに万引きした?)と一瞬ヒヤッとしたものの、今日はアクセサリーを売るような店にも台にも近づいていない。

そこでふと、昼間にぶつかった怪しい男のことを思い出した。

「あいつが、これを入れた?」
そんなの一体、何のために。

そんなことってあるだろうか、と信一はイヤーカフをまじまじと眺めた。

シンプルな銀とデザインに引き立たされた、目が吸い込まれるような美しい青。宝石?いやまさかそんな。ニセモノだろうか。それにしても透明度が高いのに、深い色をしたトルマリンブルーは美しい。色、形共に自分に似合う気がして、信一は何ともなしにその耳飾りをつけてみた。それから「どうだろう」と姿鏡を覗き込む。

次の“不思議”はここで起きる。

鏡の前に立った信一は、そのミラーが確かにグニャリと歪むのを見た。一瞬の出来事だったので自分が眩暈を起こしたのかとさえ思う。歪んだ面はすぐに元に戻り信一をしっかりと映し込む。

「は?」

確かにそこには信一が映っていた。背景も自分の部屋のもの。しかし信一は思った。

あれ?俺って今日、スーツ着てたっけ?

黒いスーツに白いシャツ、キッチリとしめられた黒いネクタイ。

今日は十二と映画を見に行っただけなのでラフな格好だったはず。酷い違和感はそれだけではない。予想外の光景に自分は身を固くしているというのに、鏡の中に映る信一は首を傾げて怪訝な顔をしていた。不可解だと言わんばかりに器用に片眉を上げて見せる。それは信一自身もよくする仕草だ。しかし今、信一の表情筋は動いていないはずなのに。

服装以外にも違うところがある。鏡の信一はパーマ髪を両耳にひっかけており、露わになった耳にはピアスが空いていた。その右耳。信一がイヤーカフをつけている同じ方にシルバー製の細いピアスが主張している。そして小さくも存在感を放つ、青いトルマリンブルーがキラキラ煌く。信一のイヤーカフと対になるようなピアス。

相手の方も信一のブルーをしげしげと見つめている。それから。なんとこれは鏡であるというのに。目の前の男は喋ったのだ。戸惑いに反応が鈍る信一と違い、まるで演劇をするかのように大袈裟に両手を広げた男は、優美な笑みを浮かべて言い放った。

「信用カードの信、一諾千金の一!」
「は?」

何だって?と信一は聞き返した。唐突に喋り出すにしても言った言葉の脈略がなさすぎて脳が追いつかない。目を白黒させた信一を見て、鏡は親切かつ見当違いにもう一度ゆっくり繰り返した。
「信用カードの信、一諾千金の一。俺の名前さ」
それから口をあんぐりと空けた信一の鼻先に向かって人差し指をズバリと指す。

「君は誰だ?」

「そ……信一。藍信一」
なんとか返事をすると、聞いたピアス男は顎に右手を添えて考える仕草をした。難しい問題に直面して悩んでいるようにグググと眉間に皺が寄る。そんなクセまで自分にそっくりだ、と信一は思った。そのうちピアス男は顔を上げた。

「なるほど。何が起きているかはさっぱり分からないが、君の名前だけは理解した」
男の眉間にはもう皺は寄っていなかった。むしろ爽やかで好奇心に満ちた瞳で信一を見る。そうして再び、見惚れるような優美な笑みを浮かべて言い放った。

「はじめまして藍信一。もうお前も薄々気がついていると思うが
確かに信一も気がついていた。予想していた言葉がそっくりそのまま耳に飛び込んでくる。

「俺も名を藍信一という」

信一は非現実的なこの有り様に、今度は本当に眩暈に襲われるかもしれないと思った。そんな信一の心中を察してか知らずか、鏡の中の藍信一は実に興味深そうに、その形の良い口をますます弧にした。