すだ
2025-08-20 20:00:00
6454文字
Public 婿スバカグ
 

夏の里で生きると決めるまで

舞手カグヤと婿スバル。
絆レベル2くらい。
スバルが夏の里で暮らし続けることを決める話。
全体的に暗い。スバルのカグヤへの感情が重め。
最後は希望がある感じで終わっています。
メインストーリー、スバルとカグヤ絆クエのネタバレがありますので、閲覧はくれぐれもご注意を。
#スバカグ



 ある日の夕刻、スバルが働いている舶来雑貨 風切羽でのこと。手伝いを申し出たカグヤと共に、スバルは在庫の整理をしていた。品切れの商品は発注が必要なため、正確な数量を確認しないといけない。
 ひと通り作業が終わり彼女に礼を言うと、少し話せませんかと幼馴染が切り出した。
 営業時間は既に終わっている。後ろにいたツバメを見ると頷いてくれたため、スバルは了承した。モコロンはついてこなかった。
 カグヤにうながされ、海辺へと場所を移す。どうやら込み入ったことを話そうとしているのだと分かった。少し緊張して彼女と向き合う。
「夏の里での暮らしはどうですか?」
「うん、何とかやってるよ。皆さん良くしてくれるし。カグヤも最近は良く顔を出してるから知ってるだろ?」
 だから安心して欲しいと答えたのだが、カグヤは釈然としない様子だった。
「何か気になることでもあるのか?」
 しばらく言いあぐねた後、ようやく彼女が口を開いた。
「スバルは、いつかどこかへ行くつもりなのではありませんか?」
 図星をさされスバルは動揺したが、表面上は平静を装う。
「どうしてそう思うの?」
「うーん、長年一緒にいた勘でしょうか」
「別にオレがどこに行こうと、キミには関係のないことだと思うけど」
 つい刺々しい言い方になってしまったが、気にする風でもなくカグヤは即答した。
「関係ありますよ。私の幼馴染の話をしているんです」
 幼馴染。おそらくカグヤにとっては家族のように大事にしたいもの。
 その言葉を使われるたび、自分たちはそれ以上の関係にはなれないのだと突きつけられているようで苦しくなるスバルとは対照的だ。
 それでも、少なくとも今の彼女にとって近しい場所にいるのがスバルなのだ。胸の痛みを感じながらも嬉しいと思ってしまう。
「ここが気に入らないというのなら私は止めません。ですが、あなたの意思に反して出て行こうというのなら、考え直して欲しいんです」
 私が言うのは烏滸がましいかもしれないが、夏の里はあなたの傷ついた心を癒してくれるかもしれないから。カグヤはそう言った。
「私がそうだったんです。私も、始めは不安でした。名前しか思い出せない、どこの馬の骨とも分からない人間を神の使いだと言ってくれた春の里の人たちに戸惑っていました」
 だが、そんなカグヤの不安をよそに、春の里の人たちの態度は一貫して変わらなかった。それは他の里でも同様だった。
 何も分からない得体の知れない女を受け入れ、家族のように接してくれた。
 他愛のないことで笑い、理不尽があれば我が事のように怒り、不幸な出来事に涙し、平穏な毎日を楽しむ。
 気がつけば、四季の里がカグヤの帰る場所になっていたのだと彼女は言う。
「四季の里の皆さんが私に居場所をくれたから、私は今ここに立っていられるのだと思います」
 スバルも同じだった。夏の里で孤独だと思っていた自分を助けてくれた人たちがいた。付かず離れず見守ってくれ、世話を焼いてくれた。
 色のない世界が、少しずつ色づいていく。
「私はここで幾久しく暮らしていきたい。もし……もし嫌じゃなかったら、スバルも私と生きてくれませんか? 私は、あなたとも生きていきたい。辛いことや悲しいこと、嬉しいこと楽しいこと全部、あなたと分かち合いたい」
 そう言って彼女が笑う。その笑顔がとても眩しくてスバルは目を細めた。かつての無彩色の世界でも、彼女だけは――スバルの愛しいカグヤだけは色づいていた。
「それって、意味分かって言ってる?」
「え?」
 照れ臭くて冗談混じりに返すと、しばらく考え込んだ後、幼馴染の頬が桜色に色づいた。
「ち、違いますよ!? 結婚とかそういうことじゃなくてですね、スバルも夏の里にずっといてくれれれば私は嬉しいな、って……。それだけですから、それだけですから!」
 弁解のつもりなのだろうか、それにしても結構恥ずかしいことを言っている気がするけれど。
……そうか、それなら」
 少し熱くなった頬の熱を夕暮れの空気が冷やしてくれる。知らずスバルの口角は上がっていた。
「先のことは分からないけど、考えてみようかな。キミと、みんなと暮らすのは悪くなさそうだ」
 軽く目を見開いた後、安心したように彼女は破顔した。


 誰よりも大切な恋しい女の子。彼女が他の誰かと連れ添う未来がきたとしたら、耐えられるかは分からない。そのときは、いくら引き留められてもここにはいられないかもしれない。
 だからといって、自分が釣り合うとは思わない。未だスバルの中には様々な葛藤が渦巻き続けている。
 そんな混沌とした感情を抱くスバルにとって、夏の里は息苦しくない場所だった。里の人たちは開放的で、来る者は拒まず、去る者は追わずの精神が根付いている。好きなことを何でもやってみればいい、と商いの里らしく放任主義なところがある。適度に放っておいてくれるのだ。
 夏の里で暮らすうち、悪夢はほとんど見なくなっていた。
 今朝も竜神社に白竜が降り立つ。程なくスバルの大切なカグヤが軽やかに階段を降りこちらへと向かってくるだろう。
 少しそわそわするスバルの様子を知ってか知らずか、雇用主であるツバメが元気よく彼に声をかけた。
「さあ、今日もじゃんじゃん売るよ! 準備はいいかい、スバル?」
「はい!」
 幼馴染が大きく手を振るのが見えた。スバルも彼女が見えるように手を振り返す。
 常夏の浜里は、今日も変わらずお天道様がギラギラと輝き、活気に満ちていた。