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すだ
2025-08-20 20:00:00
6454文字
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婿スバカグ
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夏の里で生きると決めるまで
舞手カグヤと婿スバル。
絆レベル2くらい。
スバルが夏の里で暮らし続けることを決める話。
全体的に暗い。スバルのカグヤへの感情が重め。
最後は希望がある感じで終わっています。
メインストーリー、スバルとカグヤ絆クエのネタバレがありますので、閲覧はくれぐれもご注意を。
#スバカグ
1
2
3
息苦しさに飛び起きると、見知らぬ天井が目に入った。
ここは確か、カグヤ
――
彼の幼馴染が住まう竜神社の寝室だった。彼女の布団は隣に敷かれたままだ。
ぼんやりとしていた記憶が鮮明に蘇る。スバルが夏の里にある竜神社へと担ぎ込まれたとき、スバルを生かすため黒竜と彼の契約を破棄したのだと彼女から説明を受けた。
そして彼は一度死に、カグヤと黒竜の契約により生き返ったのだと。白竜と黒竜との二重契約。何て無茶をしたのだ、と背筋が凍ったのを覚えている。
荒い呼吸を整えながら、背中を丸め目元をおさえる。
皮肉にも、彼女は自分が一番大切にしたいと思っている人だった。
その事実に愕然とし、何と恐ろしいことをしてしまったのかと震えが止まらなかった。故郷を、アズマを
――
何より彼女を救うために黒竜と契約したはずだった。それなのに、己こそがこのアズマに危害を加える側だったのだ。
オレは、何てことを。
苦しさを紛らわせようと体を動かした。まだ竜神社の階段を降りる勇気は無く、一心不乱に境内の掃除をした。
箒で落ち葉を掃くことに没頭していると、嫌なことを少し忘れられた。
だがそれも、かけられた声により長くは続かなかった。
「スバル。寝てなくていいの?」
何年も焦がれてやまなかった彼女の温かく柔らかな声。胸が張り裂けそうだった。
救ってくれて嬉しい
――
あのまま逝かせてくれれば良かったのに
オレを気にかけてくれて嬉しい
――
オレのことなど捨て置けば良かったのに
相反する感情の渦に呼吸もままならない。
夏の里で暮らすようになりしばらくの間、毎夜うなされては飛び起きる日が続いた。
隣に寄り添ってくれる黒竜がいないことも辛かった。
『スバル、おはようございます』
『スバル、調子はどうですか?』
『スバル、お弁当を作ってきたんです。これ、好きでしたよね』
彼女はいつも正しくて、優しい。こんな自分を見かけては昔のように声をかけ駆け寄ってくる。
あなたにまた会えて嬉しいと、言葉と態度で何度も伝えてくれる。
スバルが竜神社で寝込んでいたときも、私はここにいますよ、と声をかけ続けてくれた。
自暴自棄になっていたスバルの刃物のような言葉を受けても、困ったように眉尻を下げるだけで何も言わなかった。
ただ辛抱強く、そばにいてくれた。隣に寄り添ってくれた。
罪を犯したオレなんかに嬉しそうに笑いかけなくていいのに。
いよいよ覚悟を決めたのは、カグヤがあなたを守ると言ってくれたときだった。
彼女がここまで言ってくれているのに、自分はこのままなのか?
もう、己の犯した罪から目を逸らすのはやめにする。どんなに辛くとも、罪に向き合うのだ。
お前のせいで、と石を投げられることは、いつか現実に起こりうることかもしれない。だが、勝手に皆がそう思っているのだと相手の心を決めつけることはしない。
たとえ石を投げられたとしても受け止め、次にどうすればいいのか考えていきたい。
それが、カグヤの隣に立つための最低条件なのだと。
そう思えるようになったのは、ツバメのおかげでもあった。
ツバメの手伝いを始めたとき、問うたことがある。どうして罪を犯した人間を受け入れてくれたのか、恨みはないのかと。
ツバメは驚いた様子もなく、真っ直ぐスバルを見ると淡々と口にした。
『あたしはあんたがやったことは悪いことだと思ってる。でも、あんたはその罪を十分わかった上で、自分なりに償おうとしているじゃないか。咎人はやり直してはいけないの? あたしはそうは思わない。あんたに恨みも持っちゃいない。だから一からやり直すきっかけになればと、あんたをこの店に置いたんだ。スバル、世の中には色々な人がいる。黒竜の乗り手だったあんたに恨みを持つ人もいるかもしれない。でもね、その人がどう考えているかなんて、話してみないと分からないよ』
商人にとって一番大切なのは対話だと、ツバメは教えてくれた。
『だからあんたも、対話をすることだ。その人が何を考えているのか、何を求めているのかを知るために』
罪に向き合う第一歩としてスバルが選んだのは、ケガレ浄化の手伝いだった。
始め、スバルが手伝いを申し出たとき、カグヤは気乗りしない様子だった。
「ケガレを祓うお手伝い、ですか?」
「ああ、オレも一緒に連れて行ってくれないか?」
「私は構いませんが
……
スバルは
……
その
……
辛く、ないですか?」
「心配してくれてありがとう。でも、オレは自分がしでかしたことに向き合わなきゃいけないんだ」
迷いのないスバルの眼差しに何かを感じ取ったのだろう。カグヤは表情を引き締め頷いた。
「
……
分かりました。行きましょう、一緒に」
カグヤはいつもそうだった。スバルが贖罪のために行動する度、寄り添おうとする。曰く、「もしかすると、自分がスバルの立場だったかもしれなかったから」
共に背負おうと、隣に立つ。
その真っすぐさが居た堪れなくて、同時にどうしようもなく嬉しいと仄暗い喜びを感じてしまう。
でも、キミがそこまでする必要はない。オレたちはただの幼馴染で、親同士が決めた許婚の約束なんて反故にしてしまえばいいんだ。オレのことなんて、忘れていいんだよ。
夏の里に迎え入れられてから、スバルは沢山の新しいことを経験した。
ツバメはスバルが夏の里に馴染むため店番を任せてくれたばかりか、ひとりで生きていくために必要なことを沢山教えてくれた。
ヒスイは困りごとがあると決まって現れ、助言をしてくれた。改名を熱烈に勧められること以外はとても優しい人だ。それに彼女の人生哲学はとても勉強になる。
クサツは住むところのないスバルのために住居を一緒に探してくれたし、顔を合わせるといつも元気に声をかけてくれる。今ではクサツ旅館で温泉につかるのが仕事後の楽しみだ。
マウロは決して近づきすぎることのない距離で接してくれ、スバルに外の世界のことを教えてくれた。試験飛行と称して飛空挺に乗せてくれることも度々あった。
マツリは剣の鍛錬中に「手合わせしよーぜ!」と返事も聞かずに打ち掛かってくるが、あの快活さはスバルの暗い気持ちをいつだって吹き飛ばしてくれた。
カナタは何かと遊ぼうと誘ってくるのだが、何故かスバルのことを里の子たちと同じだと思っている節がある。以前文句を言ってみたら、「わらわは神ぞ? お主たちよりちょびっと長生きしておるからの、お主も里の童どもも同じようなもんじゃ!」とあしらわれた。
やることなすこと全てが新鮮だった。故郷では大人たちが全てを決めていた。だがここでは、自分の意思でものごとを決めることができた。
そんな毎日を過ごしているうち、どうやら故郷で行われていたことはおかしいのではと考えるようになった。
時折自覚する、里の住人との育ってきた環境の違い。朝から晩まで修行する子や、失敗しても蔵に閉じ込められる子はいないこと。
衰退を目の当たりにし、焦燥のあまりアズマ復興の望みを成人したばかりのカグヤとスバルに託すほど追い込まれていたのだろうとは思う。
とはいえ、年端もいかない子らにしていい仕打ちではなかっただろう。
カグヤとかけがえのない日々を過ごした地ではあるが、今となっては戻りたいと思うことはほとんど無くなった。カグヤも四季の里の長として忙しくも楽しそうに毎日を過ごしているように見える。
最早許婚とは名ばかりの関係だ。そもそも、スバルとカグヤが結婚することを願う者は故郷に残っているのだろうか。もしいないのならば、カグヤを縛りつけるものは何も無い。彼女には、好きなように生きて欲しい。
カグヤが幸せになったことを見届けたら旅に出るのも悪くないとスバルは考え始めていた。たとえ彼女が誰かと恋に落ち、結婚することになっても。そう考える度、鈍く疼く己の心に蓋をして。
仕方がないのだ。今のスバルは昔の自分とは違う。多くの罪を犯し、災厄としてアズマに仇なした存在なのだから。カグヤにもっとふさわしい人は他にいる。それなのに、スバルから許婚という関係を解消しようと言い出すことはできなかった。
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