すだ
2025-08-20 20:00:00
6454文字
Public 婿スバカグ
 

夏の里で生きると決めるまで

舞手カグヤと婿スバル。
絆レベル2くらい。
スバルが夏の里で暮らし続けることを決める話。
全体的に暗い。スバルのカグヤへの感情が重め。
最後は希望がある感じで終わっています。
メインストーリー、スバルとカグヤ絆クエのネタバレがありますので、閲覧はくれぐれもご注意を。
#スバカグ

 寒いのが嫌いだ。いや、正確には嫌いなのだと知った。何故なら自分は記憶が一切無いからだ。
 己の名前と、日常生活を送ることが出来る程度の知識は残っているらしい。
 だが、自身が生まれてから今まで生きてきた記憶がごっそり抜け落ちていた。
 何が好きで、何が嫌いか。どんな暮らしを送ってきたのか。どんな人間だったのか。その全てが失われている。
 共に空を駆ける黒竜に理由を問うても、いつもはぐらかされてしまう。
「我がいるのだ。それだけで良いではないか」
 それもそうか。ぼんやりとした頭でそう思う。今日もアズマを救うために、ケガレをばら撒かないと。
……なあ、黒竜」
「どうした、スバル」
……本当に、これは必要なことなんだよな?」
「おかしなことを聞く。当然であろう?」
「そう……だよな……
 ケガレをばら撒く度、人間が恐れ慄き嘆き苦しむ姿を目の当たりにする。正しいことをしているはずなのに、胸が締めつけられるのは何故なのだろう。
 更に雪が降ると最悪だ。白い結晶が落ちてくる度に心がざわついて仕方がなかった。
 記憶は失ったはずなのに、銀糸の髪を持つ誰かの姿が脳裏にちらつくのだ。
 うるさい、邪魔だ。幻影を振り払おうとしても、何度もその姿は現れる。
 

 そして、とうとうその相手と対峙するときがやってきた。
 ひと目見た瞬間、あの幻はこの女だったのだと確信した。
 ここ最近、自分の意識は靄がかかったように曖昧で、何をしているのかすら分からないことが多かった。
 だが白銀の髪の女が立ち塞がったとき、ついに来たかと苦しいような、嬉しいような、荒れ狂う様々な感情だけははっきりと感じ取れた。気持ちが、悪い。
 この女を討つ。そして己の内にある嵐のような感情にけりをつけるのだ。矢を番え、女の急所へと狙いを定める。
 何故か視界がぼやけ、自分が泣いていることに気がついた。