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koto
20021文字
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れめしし😈🦁
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オーバーライト・メモリーズ
とある事情で叶に迷惑をかけてしまった獅子神が、お詫びがてら叶のリクエストに応じることに
叶の希望で自分にとってあまり楽しくない子ども時代の思い出の場所を一緒に訪れる獅子神と叶のおでかけ話
※付き合っていないれめしし
※獅子神の過去を捏造しています
2025年7月5・6日に開催されたれめししWebオンリー「Let Me See You」内での「お兄ちゃんれめ企画」に参加した話を加筆修正したものになります
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夕暮れ時の河川敷は人もまばらで、時折すれ違う相手も目を凝らさなければ人相が分からないくらいの薄暗さだった。真っ暗とまではいかないが、花火をするのに困るほど明るくもない。
なんとなく夏は日が長いイメージがあるが、実際のところ夏至は六月だ。そこを越えれば、どんどんと昼の時間は削られていく。夏至から二ヶ月近く経つのだから、この時間でこの暗さは妥当だろう。
到着するなり街灯の下で叶が準備を始める。開封した袋の中からまずは一本と獅子神に花火が手渡された。叶はしゃがみこみ着火ライターを構えると、点火具となるロウソクに火をつける。手際よく用意していく様子を眺めながら、獅子神は実は手持ち花火が初めてだと言うべきか考えあぐねている。実際にやったことがないとは言え、さすがに大まかなやり方は分かる。それでもいざ手に持ってみると、どの辺りを持つべきか、先端をどう向けるのが正解なのかなど細かなところがピンとこなくてまごついてしまう。結局、準備を終えた叶が同じように花火を持つのを待ち、振る舞いを参考にした。
見よう見まねの一本目が燃え尽き、二本目に火を着けたときには勝手も掴めてくる。お互いの火花の出方や色にああだこうだと短くコメントしては、次から次へと火をつけていく。花火に照らされ楽しそうにしている叶の姿が煙越しに見える。野郎二人で花火なんて
……
というのは完全に建前で、獅子神も正直はしゃいでいる自覚はあった。ほぼ無風の中、花火から出てくる煙に巻かれていく。ツンとした煙の匂いは火薬由来なのか、鼻をムズムズさせる。
手持ち花火は思った以上に早く燃え尽きてしまう。そんな感想が顔に出ていた獅子神に、「安物だからだよ」と叶が笑いながら教える。国産のしっかりしたものは持ちが良いらしく、そこらで出回ってる安価なものと比べると値段もしっかりしているという。
「でも同じの長くても飽きちゃうし、次々やるのも楽しくない?」
その発想がいかにも叶らしくて獅子神はつい笑ってしまう。次はどれにしようかと残りの花火を物色する叶の後ろ姿を眺める。自分の中でいわゆる叶らしさを分類できるくらいには一緒に過ごしていることに獅子神は改めて気付かされる。もちろん叶の人となり全部を分かった気でいるわけではない。それどころか命を賭けてみて、ようやく、まだまだ知らないことがあると分かったくらいだ。底の見えない沼や落とし穴みたいに、その深さの全容を獅子神はまだ想像すらつかずにいる。
「
……
敬一君!」
名前を呼ばれハッとした獅子神の前に、種類の違う花火が差し出される。
「次なにやる? どんどんやらないと二人じゃ終わんないぞ?」
「あー、わりぃ。ちゃっちゃとやんねぇとだな」
袋の残量は折り返しといったところだが、のんびりとしたペースではしばらくかかりそうだ。真経津あたりならとっくに飽きて二、三本同時に着火してそうだな、なんて感想が浮かんでしまう。
「晨君だと残さず使い切らなきゃって発想にまずならなさそうだな」
「
……
人が考えてそうなこと言い当ててんじゃねーよ」
こんなことも今更だなと思いつつも、見透かされてしまうのは面白くないので釘を刺す。
「敬一君もオレといるのにオレ以外のこと考えてんじゃねーよ」
言葉尻を真似てふざけているように聞こえるが、おそらく半分以上は本音なのだろう。たしかに不義理だったかもと獅子神は少しだけ反省する。
花火の残りも数えるほどになり、叶は噴射式のものを一列に並べると一つずつ着火させていった。獅子神も残り少ない花火から一本を選び取る。手にした花火は短い導火線のような紐があり、角度的にロウソクでは少し着火しづらい。 それでも、どうにか火がつきそうなタイミングで叶が振り返り声を上げた。
「けっこういい感じじゃない?」
等間隔に五つ並んだ噴射式の花火がそれぞれ色とりどりの火花を噴射させている。叶の言うとおりなかなかにキレイで獅子神は視線を奪われる。
そんな獅子神とは対象的に、叶は獅子神が手にしている花火に気付くとその顔色を変えた。
「あっ! 敬一君、花火! 手、離して!!」
聞き馴染みがない叶の鋭く大きな声に、なんで、とか、なにを、と思うより早く手を離す。さっきまで手にしていた花火は火花を吹き出し、甲高い音を上げながら飛び出していった。それがロケット花火だったと知らなかった獅子神は呆気にとられる。花火は勢いよく叶のほうへ向かい、避けきれなかったそれはあろうことかパーカーのポケットに突っ込んでいった。叶も突然の事態に焦り、ポケットから飛び出た竹ひごの部分を掴んで出そうとしたところで大きな破裂音が上がった。
◆◆◆
後片付けを済ませた花火は跡形もなく、火薬の匂いだけが煙と一緒にうっすらと辺りに滲んでいる。
「あーあ
……
。楽しいな?」
二人並んで腰掛けた河川敷のベンチの上、溜息交じりに声を上げた叶がしみじみと言った言葉に獅子神は思わず耳を疑った。ポケットの周囲が焦げたパーカーは叶の傍らに置かれ、軽く火傷を負った手には獅子神がコンビニで買ってきた氷のカップが握られている。
「はぁっ⁈ なに言ってんだ、楽しいはずあるかよ」
この状況のどこが楽しいというのか。獅子神の咎めるような響きに、叶はどこか嬉しそうにも見えた。
「あ、コレ? こんなの普段のゲームに比べたら擦り傷みたいなもんじゃん」
「それとこれとは違ぇだろ」
叶が引き合いに出した賭場での負傷は、叶自身が納得の上で支払っている代償だ。より魅せられるものを見るための対価。対してこの怪我は完全に獅子神の過失でしかない。
「あ、違う違う。別にロケット花火の話してるんじゃなくて。今日一日の話」
落ち込み始めた獅子神の思考を打ち消すように叶は言葉が足りていなかったと説明を加えた。
叶の言葉につられ、獅子神は改めて一日を振り返る。二日酔いの最悪な目覚めでスタートした一日。叶に半ば強制的に連れ出されたのは、行きたくもない、見たくもないものに敢えて踏み込んでいくような悪趣味なプランだった。初めこそ憂鬱だったが、蓋を開けてみれば獅子神にとって悪くない一日だったと言えるだろう。
今まで避けてきた昔のみじめで苦々しい思い出は、触れてこなかった間で無意識に獅子神自身が大きく耐えがたいもののように育ててしまったらしい。大きく風船みたいに膨れ上がったそれは、いざ直面してみれば身構えていたのが嘘みたいに軽かった。少なくとも、今の獅子神を呑み込んでしまうほどの力はない。
「上書きできた?」
「上書き?」
唐突な質問の意味がすぐには分からずに、オウム返しをしてしまう。それでも「上書き」という言葉を鍵にして、今一度思い返してみる。
たとえば、小学校の教室。あの場所を思い出そうとすると、真っ先に浮かぶ光景は小学校時代のものではなくなっていた。今浮かぶのは小さな椅子に窮屈そうに腰掛けながら、くだらない話をする叶の姿だ。ひとりぼっちの通学路も、駄菓子屋も、遠目で眺めるだけだった手持ち花火も。薄ぼんやりとした記憶を蹴散らすくらいの鮮やかさで居座っているのは目の前の男だった。
「クラスの中心人物も、かわいそがってきてた奴も、見て見ぬふりのその他大勢も、今の敬一君相手じゃ記憶に残ることも、ましてや傷つけることもできない。そんな取るに足らない存在だったろ?」
どこか棘のある言い回しだったが、たしかに叶の言うとおりだった。ずっと避けてきた思い出の数々は今の獅子神を傷つけられるような力を持っていなかった。
「思い出にバフかけ過ぎなの。敬一君が避ける必要ないくらいにちっぽけな、石ころみたいなものだよ」
そんな言葉と一緒に、足元にあった小石を叶の足が蹴り飛ばす。
「道端の石ころを大事にするなら止めやしないし、否定する気もないけどさ。でも傍から見れば当人が思っているほどそれに価値はない」
言わんとしていることは分かっているつもりだった。それでも叶にこうまで言わせ、今日一日をこんな風に費やさせてしまったのは、昨日の失態が関係してるんだろう。傍から見て放っておけないと友人に思わせてしまう己の不甲斐なさを痛感する。
そんな獅子神の反応に叶は深々と呆れたように溜息を吐いた。
「敬一くんにとってさ、今、眩しいくらい価値のあるものってなに?」
叶の問いに真っ先に浮かんだのは目の前の叶を始めとするいつもの面々だった。
「今はもう立ってるステージが違うんだよ。昔の有象無象を気にするより、どうせなら楽しいことや価値あることで満たそうよ」
今日一日でいくつかの思い出を上書きした男がそんなことを言うのだから、少しだけ悔しくもなる。
「その理論で行くとオマエには価値があるって?」
「は? オレに価値がないって?」
まさか信じられないと言わんばかりの返しに獅子神は思わず吹き出してしまう。長年知らず知らずのうちに引き摺っていたものも、この男の手にかかればこうも見事に蹴散らされるのだから、本当に嫌になってしまうくらいだ。とらわれていたのが馬鹿馬鹿しく思える。
「あー、負けだ負けだ」
「なにそれ? 別に勝負なんてしてないでしょ」
「いや、なんか、ムカつくけど敵わねぇなって」
獅子神は背もたれに体を預けると、お手上げだと言わんばかりに両手を上げてみせる。叶がどういうつもりで今日一日連れ回したのかは知らないが、どう考えても叶の掌の上だ。
「んー
……
そうでもないと思うけどな」
「嫌味か?」
「違うって。まあ、ギャンブルの力量は置いておくとして」
「おい」
さり気なく失礼な発言だが、事実ではあるのであまり強くは言えない。そんな獅子神にお構いなく叶は話し続ける。
「よく言うだろ」
「なにをだよ」
「惚れたほうが負け、みたいなやつ」
「
……
あ?」
「そういう意味じゃ負けてるのはオレだしなー」
「え、は??」
話題が急カーブを切ってきて、獅子神は完全に置いてけぼりになっている。
――
なんの話からなんの話になった?
混乱する獅子神に叶は酷く満足そうな表情を浮かべる。
「困ったな、敬一君。どんな意味か分からないから、敬一君の頭の中、オレでいっぱいになっちゃうね」
「いや、だから、どういう
……
」
そう口にしながらも、どういうもこういうもないことは分かっている。この男はこういう言い回しをする。衒いもなく褒めたり直球の好意を向けるし、逆もまた然りだ。それでも、これが単なる友達に対する好意の話ではないことを薄々感じ取ってしまう。じゃあ、なんなのか。
「さってと、帰ろっか」
ベンチから立ち上がった叶に続き、獅子神も腰を上げる。叶が握っていたカップはすっかり溶けて水になっている。叶が中身を捨てると、空になったカップはゴミ箱へと放られた。
「いや、話聞けよ」
土手の階段を上っていく背中を追いながら声をかける。パーカーを小脇に抱え、暗がりで進んでいくTシャツ姿が見慣れなくて、どこかよそよそしく感じる。
「聞いてるよー。でも、教えない」
獅子神にお構いなしで進んでいた叶は、階段を上り切ったところで立ち止まる。くるりと振り向いたかと思えば獅子神の顔を覗き込むように至近距離に迫ってくる。突然のどアップに一歩引きそうになる足をどうにか踏みとどめた。
「分からないことを聞くのは悪くないけど、端から考えないのはよくないな」
「
……
っ」
「脳みその回路が擦り切れて火が出ちゃうくらい考えてくれよ。次、二人で出かけるまでの宿題」
じっと目を覗き込みながらそんなことを言うと、叶は屈めた体を元に戻す。
「次って
……
」
いつだよ。そう尋ねてしまえば催促してるように聞こえてしまいそうで口をつぐむ。そんなことも筒抜けなのだろう。
「次は敬一君が誘って? だから次がいつかは敬一君次第」
「はぁっ!?」
「楽しみにしてるな」
朝から晩まで終始ずっと叶のペースだ。そのくせ握って引きずり回していた手を最後までは引かず、離したかと思えば決定権を押し付けてくる。そのたちの悪さに収まったはずの頭痛がぶり返しそうだった。
「じゃあ思い出の地めぐりはここまでってことで。どっかでご飯でも食べて帰る?」
行き詰まった空気を仕切り直すように、叶が夕食の提案をする。昨夜の約束はここまでで果たされたということだろう。
「いや、このまま帰る」
解放された獅子神はきっぱりと叶の提案を跳ね除ける。取り付く島もないような口調に、叶は一瞬面食らい、すぐに苦笑いを浮かべた。
「そっか、残念。じゃあ、また今度ね」
今日一日振り回したことを思えば、獅子神の反応も仕方ない。そう納得したのかもしれない。
「ちげぇーよ」
これで解散とばかりに別れ際の言葉を口にした叶に、獅子神は憮然と否定した。
「え?」
「ソレ」
「これ?」
獅子神が指差したのは冷やしていた手のひらの火傷だった。
「飯は食いに行かねえ。その怪我ちゃんと手当てすっからウチ帰んぞ」
獅子神の言葉に促されるように叶は自分の手のひらを見たあとで獅子神に視線を戻す。
「だから気にしてないのに」
叶はグーとパーを繰り返して軽傷をアピールして見せるが、獅子神に聞く気はないらしい。
「オメーが良くてもオレが嫌なんだよ! ついでに冷蔵庫の中身片付けんのも手伝えよっ」
そう言い渡すと、獅子神は叶を追い抜き前を歩き始める。
「
……
オッケー」
不器用な夕食の誘いにクスクスと笑う声が聞こえてくる。
「期待してもいいの?」
「うるせぇ、調子乗んな。オマエ次っつっただろ、次って。今日はノーカンだ」
「はいはい、分かったよ」
聞き分けのない子どもを宥めるような叶の口調が引っ掛かったが、そこにあえて噛み付くような真似はしなかった。今、獅子神にとって重要なのは考えるための猶予を死守することだ。済し崩しに畳み掛けられでもしたら、きちんと考える間もなく叶の思うとおりに誘導されそうで、それは避けたかった。
あとは、それとは別に今日一日かけて叶がしたことに感謝する気持ちもあった。癪ではあるが夕食くらいは振る舞いたいと思ってしまった。
叶の言う「次」をいつにするかとか、それまでに考えなくてはいけないことなんかは一旦置いておく。今日はもうキャパオーバーだった。獅子神はひとまず、冷蔵庫の中身を思い浮かべ、叶になにを食べさせるかに考えを集中させることにした。
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マシュマロ
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