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koto
20021文字
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れめしし😈🦁
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オーバーライト・メモリーズ
とある事情で叶に迷惑をかけてしまった獅子神が、お詫びがてら叶のリクエストに応じることに
叶の希望で自分にとってあまり楽しくない子ども時代の思い出の場所を一緒に訪れる獅子神と叶のおでかけ話
※付き合っていないれめしし
※獅子神の過去を捏造しています
2025年7月5・6日に開催されたれめししWebオンリー「Let Me See You」内での「お兄ちゃんれめ企画」に参加した話を加筆修正したものになります
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ズクンズクンと頭が脈打つ感覚に、獅子神は思わず顔をしかめる。それはこめかみのあたりを中心に響き、痛みとなって寝ぼけ眼の獅子神を襲った。
「う゛
……
っ」
少しでもマシにならないかと身を丸めてみたものの、残念ながら期待したほどの効果はない。口の中が粘つく不快感と、体全部が水分を欲しているような渇きで最悪の気分だった。
倦怠感と熱っぽさを抱えたまま、獅子神はゆっくりと目を開ける。
視界に映ったのは見慣れない部屋だった。
「
……
あ?」
痛む頭で記憶を手繰るが上手くいかない。妙に整いすぎた生活感のないインテリアから、おそらくホテルの一室だと察しはついた。けれども、それ以上はさっぱりだ。どうして自分がここにいるのか全く分からない。まだ働きの鈍い頭で獅子神が把握している情報は二つ。一つはホテルのベッドで二日酔いに苦しんでいるということ。そして、もう一つは今さっき気付いたのだが、身につけているものが下着一枚のみだということ。それだけだった。
――
やっちまったか?
ただでさえ痛む頭が、輪をかけて酷くなりそうで気が滅入りかける。
◆◆◆
昨夜、獅子神は小学校の同窓会に顔を出していた。酷く珍しいことで集まりに参加するどころか、成人後、当時の同級生と顔を合わせることすらなかった。獅子神にとって懐かしみたい思い出や会いたい旧友などは皆無なのだから、自然な成り行きだろう。
そんな獅子神が今回に限って参加を決めた理由は当時の恩師にあった。担任だったその人は今年定年を迎えるそうで、元教え子有志が感謝と労いを込め「先生を囲む会」を企画したらしい。熱心な企画者たちはできる限り所縁のある人間を集めようと働きかけ、結果、獅子神のもとにも招待の案内が届いた。
案内に目を通した獅子神は少し迷った末、出席の返事をした。世話になった恩師に一言礼を伝えたい気持ちはあった。当時の顔見知りに関わるのは気が進まないものの、せいぜい数時間強の催しだ。腹の底を探り合うような真似は慣れているし、敵意を向けられたり揶揄されたところで死ぬわけでもない。多少煩わしくはあるが、それだけだ。これを逃せば恩師と顔を合わせ、言葉を交わす機会など一生来ないに違いない。それが出席を決めた理由だった。
少しばかり重い足取りで到着した会場は、獅子神の想像を超える盛況ぶりだった。見たところ参加者の年齢には幅があり、どの年代の教え子からも慕われていたことが窺える。
乾杯の発声が上がってしばらくした後、獅子神は今日の主役のもとへと足を運ぶ。お目当ての人物は獅子神の姿を視界にとらえて数秒後、目を瞠らせた。まさかと思った正体が獅子神の挨拶で答え合わせができると、彼は改めて獅子神の頭のてっぺんからつま先までを眺めた。そうして、見て分かるほどに安堵の表情を浮かべる。
彼の教員人生の中でも、とりわけ忘れられない児童の一人だったのだろう。獅子神の記憶の中より年季の入った皺をより深くして泣きそうな顔で笑う様子に、気恥ずかしいような、どこか居た堪れないような気分になる。大げさにも見えるが、ひょろひょろでみすぼらしい当時の自分を思えば、無理もないと納得するしかない。
世話になった礼を伝えた上で、近況など当たり障りのない言葉を交わす。そうしていると別の参加者がテーブルを訪れた。会話を切り上げ、獅子神は入れ替わるようにその場をあとにする。「先生お久しぶりです!」なんて声が遠のき、会場の他の音に紛れていくのを耳にしながら、獅子神は改めて先程のやり取りを思い返した。一教師では根本的に解決できなかった当時の境遇が、ずっと彼の中でわだかまっていたのかもしれない。もしも、こうして顔を見せたことで心残りがきれいさっぱり消え失せたのなら、今日来た甲斐もあったななんて思う。
知らず知らずのうちに気を張っていたらしく喉がカラカラだった。すぐそばのテーブルに、細かな水滴をうっすら纏い始めた瓶ビールが未使用のグラスといっしょに並んでいるのが見えた。獅子神はグラスと瓶を手に取り、開栓して中身を注ぐ。一口目からごくりごくりと喉に流し込み、ふう、と一息ついたときだった。
視界に数人の女性グループが入り込む。彼女たちは明らかに獅子神を目的として近付いてきていた。あ、と思った時には立ち去るのもあからさまな距離で、獅子神は仕方なくその場で応対する。
「獅子神君、だよね? 私のこと覚えてる?」
容姿に自信がありそうな一人が、開口一番、テンプレートのようなセリフを口にした。獅子神が彼女を覚えているかはどうでも良かったらしく、返答を待つことなく話し始める。上目遣いの視線に白けながらも、あからさまに無視するのも波風を立てそうで適当に相手をした。それが良くなかったらしい。
様子を窺っていた連中に「話しかけても門前払いはされない」と判断された結果、下心を持った人間がぱらぱらと寄ってくる。明らかに身なりの良い獅子神相手に、当時の関係性を引っ張り出しマウントを取りたがる者、掘り出し物を見つけたと上から目線で色目を使う者、まるで気心の知れた友人のように親しげに振る舞う者。近寄ってくる誰も彼も魂胆が丸分かりで、滑稽を通り越し、憐憫すら覚えてしまう。
獅子神は不快さや侮蔑などおくびにも出さず淡々と相手をしていく。嫌な印象しかない元同級生の男たちが、悪ノリを装い半ば強引に勧めたアルコールにも、獅子神は何食わぬ顔で応じ続けた。正体をなくす程でもない酒量だったし、せっかくの場をしょうもないことで乱したくないという配慮もあった。
この手のあしらいは仕事上でも慣れている。その場限りで適当にやり過ごすなんて容易い。そのはずだった。
誤算はいつも以上に消耗が大きかったことだろう。
どんなに今がきらびやかでも、取り繕うことのできない過去の自分を知る連中を相手にすることが、獅子神を想像以上に大きく疲弊させていた。環境や体調で酔いの回り方がこんなにも変わるんだと痛感したときにはもう遅かった。
タイミングを見計らい獅子神は席を立った。表面上は平静を装ったままトイレの個室に入ったところまでは覚えている。だが、そこから先はさっぱりだ。
どうやって、誰とこの部屋まで来たか。自分の足でなのか、それとも誰かに運び込まれたのか。記憶がまるまる抜け落ちていた。
◆◆◆
廊下の奥から水の流れる音が不規則に聞こえる。このホテルの一室に、獅子神以外の人間が少なくとも一人以上いるということだ。洗面所を使用している誰かの存在に、自業自得とは言え獅子神はうんざりする。
単なるお遊びか、既成事実から関係を持とうとする気か、もしくは被害者面で誠意を求めてくるか。昨夜の自分の振る舞いが思い出せない中で面倒事に巻き込まれたと決めつけるのは褒められたものじゃないだろう。万が一、己に過失があるなら誠意を持って対応すべきだ。それでも、その可能性は低いと考えてる。いっそ財布から金だけ持ち去ってくれたほうが、よっぽど良心的だったと思ってしまう自分は身勝手だろうかと自嘲する。昨夜の関係者の誰にも会いたくなかった。
はたして鬼が出るか蛇が出るか。廊下の先を見つめる獅子神の視線が自然と険を帯びる。最悪のパターンをいくつか練り上げ、息を殺して相手の出方を待つ。聞こえていた水音が止まり、静まり返った中を探るように耳をそばだてた数秒後だった。
「敬一君、起きたー?」
洗面所の誰かが姿を見せるより先に、のんびりと上げた声が獅子神の耳に届いた。聞き覚えどころか、聞き馴染みがありすぎる声に獅子神の頭は一瞬真っ白になる。
「
……
は? ぇ、叶?」
まさかと思いながらも、頭に浮かんだ男の名前が口をついた。
「ん? なに?」
返事をしながら獅子神の目の前に現れたのは、正真正銘、叶本人だった。当然ながら獅子神が想定したどのパターンにも合致しない。するはずがないだろう。叶がこの場に居るという事実に、むしろ昨日の同窓会の記憶が夢だったのかもという気すらしてくる。それくらい叶の存在は場違いだった。
唐突な友人の登場に混乱する獅子神をよそに、叶はそのままベッド脇まで近寄る。
「はい、どーぞ」
「あ、おう」
そう言って叶が差し出したのは常温のペットボトルだった。この状況を一切飲み込めてはいないままだが、獅子神はひとまず素直に受け取り口をつける。体が喉の渇きを思い出し、勢いのまま半分ほど一気に飲んでしまった。
人心地ついた獅子神は、改めてベッドサイドに立つ叶を見上げる。珍しいことに、叶はいつものパーカー姿ではなくシンプルなTシャツにデニムという出で立ちだった。見たところコラボグッズでもなさそうだ。
「昨日のこと覚えてないんだろ?」
叶の格好に気を取られていると、いきなり核心を突く質問が飛ぶ。反射的に叶の顔を見れば、視線がかち合った。覚えていないだろうと聞かれればイエスと答えるより他ない。
どこか思わせぶりにも聞こえる「昨日のこと」がなにを指しているのか全く見当もつかなかった。そんな獅子神に叶は昨夜起きた事と次第を話して聞かせる。
「敬一君、昨日ここのホテルのトイレで酔いつぶれてたんだよ。そこまでは覚えてる?」
叶の問いに獅子神は神妙な顔で頷く。たしかに、そこまではなんとか記憶にある。問題はその先だった。
「それで、たまたま通りかかったオレが介抱したってわけ」
「は?」
まさかの展開に獅子神が声を上げてしまうのも仕方ないだろう。んなわけあるか、と反射的に頭の中でつっこんでしまう。獅子神が参加した同窓会会場のトイレに叶がたまたま通りかかる。そんな偶然が起こり得るのか。獅子神はその可能性を訝しむ。会場となったホテルはそこそこ名の知れた大きなものだ。他の会場でなにかしらの集まり、たとえば配信者界隈のイベントや会合なんかがあったとしたら絶対に有り得ないとも言いきれないのか。
偶然遭遇したことはひとまず置いておくとしても、獅子神の中では更なる疑問が湧いてくる。
「オマエならオレんち知ってんだから、タクシーに放り込むなりできただろ?」
車で帰れない距離ではないのに、なぜこうしてホテルに泊まっているのか。
「敬一君、酔いが回り過ぎててタクシー乗車拒否されそうな勢いでさ。帰るにしても一旦休ませるしかないなーって」
二日酔いでこんな有様なのだから、酔い潰れて駄目になっていたというのも疑いようがない。一旦休ませるつもりが泊まることになったのは、おそらく動けなくなってしまったからなんだろう。これだけでも頭を抱えたくなるが、疑問はまだ残っている。
「なんでオレ裸なんだ?」
「あー。昨日ね、吐いちゃったの敬一君。で、汚れた服脱がせた」
叶の答えを聞いた数秒後、獅子神はあることに気づき、サッと顔を青ざめさせる。
「
……
もしかして」
「お、正解! 調子悪くてもちゃんと見てるな敬一君。オレのも汚れたから脱いで、敬一君のと一緒に捨てちゃった」
チラリと視線を向けた先には膨れ上がったビニール製のランドリーバッグが口を堅く結ばれ密閉した状態で部屋の隅に置かれていた。獅子神の予想は見事的中してしまったらしい。なにも捨てなくても、と思ったが、自分の吐しゃ物がついた服を叶が今後も身につけるほうが、よほど居たたまれないなと考え直した。叶の珍しい格好が昨夜の自分の醜態が原因だったとは詫びのしようもない。
「巻き込んじまった上に、なんつーか、本当に悪ぃな」
「いーよ、別に。ってかさ、意外と似合ってない? まあ、なに着ても似合わせられるけど」
そう冗談半分に自画自賛する男が身に着けているのは、量販店の安物だった。いつも着ているのはデザインこそ独特だが質の良さそうな服なので、だいぶギャップがある。ただ本人が言うとおり違和感はなかった。
「ちなみに敬一君の服はそこな?」
どこか楽しそう叶が指差した先では、似た感じの服がソファの上に置かれていた。
身支度を済ませ獅子神が戻ると、ソファに寝そべった叶がスマホを弄っていた。熱めのシャワーを浴びたせいか、さっきまでの不快さや頭痛は少しマシになったように感じる。スマホから顔を上げた叶は獅子神の顔色を確認するとにっこり笑う。
「敬一君も準備できたみたいだし、そろそろ出掛けようか」
そう言ってソファから立ち上がる叶に、獅子神は引っかかりを覚える。帰る、ではなく出掛ける。まるでこの後どこかへ一緒に行くような口ぶりだ。だが、獅子神に心当たりはない。
「いや、出掛けるってどこにだよ」
部屋の出口へ向かう背中に尋ねると、振り返った叶が少し勿体つけて口を開いた。
「敬一少年思い出の地ツアー」
「
……
はぁ〰〰っ?!」
突拍子もない発言に獅子神はつい大声を出す。頭に響く自分の声に眉根を寄せつつも、自分に向けられた矛先の真意を探ろうと視線は叶に釘付けとなる。どんな気まぐれかは知らないが、よりによって昨日の今日だ。タイミングは最悪だった。
「なんでんなことっ」
拒否感をあらわにする獅子神の目の前に、叶が手にしていたスマホをずいっと突き出す。唐突な行動に面食らった獅子神は、思わず後退して距離をとる。スマホの画面ではボイスレコーダーアプリが起動されていた。
『そんなに謝るなら、代わりにオレのお願い聞いてくれる?』
数秒の沈黙のあとで、叶の声がスマホを通して聞こえてくる。
『んだよ』
応じたのは獅子神の声だ。どうやら昨夜のやり取りらしい。記憶にない会話に獅子神は集中して耳を傾ける。
『明日、敬一君の行ってた小学校とか、なんかそういう昔の思い出の場所連れてってよ』
『なんで、そんなんが良いんだ? 別に面白くねぇぞ』
『そんなのがいいんだよ。いい?』
『分っかんねぇヤツ
……
まぁ、オメーが、それでいいっつーなら』
『よし、決まり! じゃあ、約束な』
音声データはそこで終わる。役目を終えたスマホは叶のポケットへと回収されていった。
「ってことで」
「オマエ
……
」
酔いのせいか若干呂律が怪しかったものの、無理やり言わされてはなさそうだった。酔っぱらいの罪悪感に付け込んだ提案、尚且つ、それを録音して言質をとるとは。言ってやりたいことはあったが、迷惑をかけてしまった事実に加え、こうして口約束までしたのであれば、撥ね付けることはいよいよ難しい。
「別に面白いものなんてねーぞ」
「それを決めるのは敬一君じゃなくてオレだから」
予定変更はないらしい。お詫びがてらにした約束のため、獅子神に拒否権はない。気は乗らないし、二日酔いの頭もまだ痛むが、きっとそんなことくらいじゃ逃してはくれないだろう。
――
なんのつもりか知らねぇが、すぐに飽きて帰るって言い出すか
断り切れないのなら仕方ない。観念した獅子神の顔を叶は機嫌よく覗き込む。
「大丈夫。案外悪くないよ、きっと」
頭痛薬を差し出しながらそんなことを言う叶を獅子神は恨みがましく睨むが暖簾に腕押しだ。この気遣いも退路を断たれてる気がしてならないが、どうすることもできなくて。仕方なく獅子神は受け取った薬を水で流し込んだ。
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マシュマロ
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