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ちこと
2025-08-10 22:54:06
9924文字
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イベント用サンプル
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【チャレ31新刊】「キミにみせたいものがある」サンプル
8/23開催 チャレ!31発行予定の新刊サンプルです。フパ+サト10周年記念で、過去発行誌の再録と書きおろしがだいたい半分ずつ入っています。
書きおろしの各話からサンプルをそれぞれ3割ほど抜きだしています。
▼当日スペース:5階N-22 Momo!
▼仕様:文庫サイズ(A6)/本文158P/オンデマンド印刷/カバー・スピン付き
▼価格:¥1000
▼(2025.8.29更新)通販開始しました!→
https://momo-chicotto.booth.pm/items/7361274
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『悪戯』サンプル
「おまえたち、なんだか似てるなぁ」
いつだかサトシがそう呟いたように、フーパとゲンガーはすこし近しいところがある。
タイプも近いし、笑いかたも似ている。なによりも、いたずらが好きだ。
そのことにお互い気づいてから、いたずらの頻度がすこし上がった。特に、サトシを相手にしたものが。
いちばん多いのは、やはり帽子のいたずらだ。持っていってくれと言わんばかりにいつも頭の上にあるので、まずは姿を消したゲンガーがふわりと持ちあげる。
「あっ。こら、ゲンガー」
サトシが気づいて振りむくと、帽子だけが浮いて見える。だれの仕業かはサトシもわかっているのだ。
その隙をついて、サトシが伸ばした手が届く前に、フーパがリングをひろげる。
「あ、こら、フーパも!」
浮かびあがった帽子は、リングの向こうへと消える。うばった帽子は、フーパが被るときもあれば、ゲンガーの頭に被せてやることもある。
ひとしきり「しししし」と笑いあってから、リングでサトシへと返却する。そうした一連の流れを、手を替え品を替えて何回もやっている。
サトシも注意はしてくるが、本当にいやがっているわけではないことはフーパたちへの態度でわかる。だからフーパも、懲りずに何度もおなじことをして楽しんでしまうのだ。
🍩
「ま、またやられた
……
」
「ぴかぴ
……
」
サトシが肩を落とし、ピカチュウがねぎらうように頭をぽんぽんと叩く。
ここのところ、サトシをねらってのいたずらがずいぶんと増えている。犯人もとい犯ポケモンはわかっているし、かれらが楽しそうなのはいいことだが、連日となると多少は疲れてくる。
今日はシャワーのあとにシャツを隠され、さすがにサトシも少々困った。ピカチュウがフーパとゲンガーを探してくれて無事返却されたのだが、ポケモンセンターに併設された公共のシャワールームでのことだったので、ほかの利用者の目がいくらか気になり、シャツが戻ってくるまではそわそわとしてしまった。
「助かったよ。ありがとうなぁ、ピカチュウ」
「ぴーかぴか」
無事にシャツもまとい、ほかほかの体で宿泊部屋に戻る。大きなセンターのため部屋数も多く、今日は個室を取ることができたのだった。サトシとピカチュウだけならば大部屋でもとくに構わないのだが、まれにフーパが好奇の目にさらされることもあるので、空いていれば個室を選ぶようにしている。
「ただいま~」
「サートン、おかえり!」
「げんげん」
先ほどのいたずらなどなかったかのように、まっすぐな笑顔がサトシを出迎えた。
「お、おまえたち
……
」
シャワールームでの気疲れを思いだし、サトシはため息をつく。とはいえふたりの笑顔は、どうやってもサトシを嬉しくもさせてしまうのだった。
ふたりのいたずらの対象はほとんどサトシだ。見知らぬだれかに迷惑をかけているわけではない。結局、はっきりと叱ることはせず、「ほかのひとがいるところでは勘弁してくれよ」と苦笑するにとどめる。
「いたずらはほどほどにして、そろそろ寝ようぜ」
普段の就寝時間よりもいくらか早いから、フーパはまだ寝たがらないかもしれない。ゲンガーにとっては夜のほうが活動的なくらいだろう。だから心ばかりの声かけにはなるのだが、今日はたくさん歩いたし、先ほどのちいさな騒動もあったので、サトシはもう眠気に襲われはじめていた。
「おやすみ~
……
」
フーパたちの返事を待つよりも先に、ベッドに潜りこむ。ピカチュウが気を利かせて部屋の電気を消してくれた。
辺りが暗くなるほんの一瞬前、閉じそうになるサトシのまぶたの向こうで、フーパとゲンガーが、示し合わせたかのように、そっくりの顔で笑っているのが見えた。
真っ暗な闇のなかから浮かびあがるような感覚がする。
「
――
ン、サートン」
足もとがふわふわとしておぼつかない。そもそも眠っていたのであって、地に足はつけていなかったはずだが。
あれ、でもどうしてだろう、横になっている感覚ではない。暖かい毛布はどこに行ってしまったのだろう。
「サートン、おきて」
「
――
!」
視界が明るくなる。目の前にフーパがいた。
「フーパ
……
え、あれっ?」
部屋のなかはまだ暗く、すくなくとも朝にはなっていない。どうしてフーパに起こされたのだろう。それに、ベッドで寝ていたわりには、目を開けてすぐの視界がおかしい気がする。
天井が近い。まるで宙に浮いているような。
「
――
あっ!」
本当に浮いている。サトシの足は宙をかき、それより下にベッドと床が見える。
そのベッドのなかには、サトシが眠っている。
「あ
――
え、うそだろ!?」
「しししし! サートン、びっくりした?」
「げんげろげ~!」
フーパの上からゲンガーがひょこりと顔を出した。ふたりの笑顔は、まるでとびきりのいたずらが大成功したときのようだ。
「いや、これ
……
おまえたちの仕業だな
……
?」
正確には、おそらくゲンガーによるものだ。眠っている自身の姿を見たときには度肝を抜かれたが、よくよく考えると、この現象は前にも覚えがあった。
「げんが?」
「あれ。サートン、びっくりしてない?」
「したよ! ただ、そういえばこれってはじめてじゃないなって」
そう言うと、フーパのほうが目をまんまるにした。
「サートン、はじめてじゃないの?」
「うん。前に、シオンタウンのポケモンタワーってところで、べつのゲンガーやゴーストたちと会ったことがあって。そのときそいつらにおなじことされて、いっしょに遊んだりしたんだ」
おなじこと
――
いわゆる、幽体離脱というもの。
いま、サトシの魂だけが抜き出され、体の外に浮かんでいる。
「すっげぇ久しぶりだ、この感じ
……
」
「じゃあピーカンは?」
「ああ、うん。ピカチュウもいっしょだったよ。ゴーストに幽体離脱させられて、みんなで夜の森で遊んだんだ」
「そっかぁ!」
ぱあっと明るく笑い、フーパはベッドへと降りていき、その後ろからゲンガーもつづく。サトシの枕もとで眠るピカチュウに手を伸ばそうとしているのだ。
「待った待った」
「ほぇ?」
「せっかくよく寝てるからさ、ピカチュウはそっとしといてやってくれよ」
寝顔を見ると、微動だにしていない。深い眠りについていることがよくわかる。
「むー、わかった」
「サンキュ」
「じゃあ、サートンあそぼ!」「げんげん!」
フーパとゲンガーに手首を掴まれ、両側から引っ張りあげられる。
「え
――
うわっ!」
目前に天井が迫り、ぶつかることなくすり抜ける。ポケモンセンターの屋根を越え、サトシはあっという間に夜の空へと浮かびあがった。
眼下には、夜の街がひろがっている。ひとびとはまだ眠る時間ではなく、たくさんの照明の光が闇のなかにきらきらと散らばる。
「いい眺めだなぁ」
「ししし~」
フーパはもうご機嫌だ。その笑顔につられるように、すでにサトシも、戸惑いよりも高揚感のほうが上回ってしまっている。
「せっかくだし、いっしょに遊ぶか」
「やった~!」
「げんが~!」
フーパは大きな手でばんざいをしてくるくる回り、ゲンガーは両手を口に当ててにやにやと笑う。
「しょうがないなぁ」
そんな風にこぼしながら、サトシ自身口もとがゆるんでしまう。結局、かれらの笑顔には弱いのだ。
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