ちこと
2025-08-10 22:54:06
9924文字
Public イベント用サンプル
 

【チャレ31新刊】「キミにみせたいものがある」サンプル

8/23開催 チャレ!31発行予定の新刊サンプルです。フパ+サト10周年記念で、過去発行誌の再録と書きおろしがだいたい半分ずつ入っています。
書きおろしの各話からサンプルをそれぞれ3割ほど抜きだしています。

▼当日スペース:5階N-22 Momo!
▼仕様:文庫サイズ(A6)/本文158P/オンデマンド印刷/カバー・スピン付き
▼価格:¥1000
▼(2025.8.29更新)通販開始しました!→https://momo-chicotto.booth.pm/items/7361274



『共闘』サンプル



 バトルコートに衝撃音がこだまする。ゲンガーの〝シャドーボール〟が、ネギガナイトの〝ぶんまわす〟によって相殺された音だ。
「よし、そこまで!」
 サトシの一声に、二体の動きがぴたりと止まった。構えを解き、サトシのもとへと駆けてくる。フーパはサトシの横で、ゲンガーとネギガナイトが近づいてくるのをながめていた。どちらも息があがり、いくらか疲れも見えるが、表情は生き生きとしている。

「とれーにんぐ?」
「ああ。最近あんまりやれてなかったからな」
 サトシがそう言いだしたのは、昼食を終えてひとやすみしているさなかだった。手持ちのポケモンたちに声をかけると、すぐにバトルコートを借りる許可を取ってきた。ポケモンセンターの裏手に構えられたコートだ。もともと今夜、サトシたちはこのセンターに宿泊する予定となっていた。
 午後はトレーニングしよう、とサトシが言ったとき、ポケモンたちは賛成とばかりに元気な声で返事をしていた。フーパはそれをとなりで聞きながらも、なにをするかよくわかっていなかったのだが、こうして目の当たりにするとぴんと来た。かつてアルケーの谷で、バルザが自身のポケモンたちをこのようにして鍛えるところを見たことがあったのだ。
 サトシはコートの中心に引かれた横線の先、コートの外側から、両端に構えた二体のポケモンに指示を出す。その声に応じて、ポケモンたちは相手に向けて技を放ったり、あるいは体や能力をうまく使って技をいなしたりしてみせた。そうして何度か応酬をし、きりのいいところでサトシが「そこまで」と声をかける。
 最初はピカチュウとルカリオ、次にカイリューとウオノラゴン、最後がこのゲンガーとネギガナイトの一戦だった。いま、ちょうど技の応酬が終わり、サトシが終了の声かけをしたところだ。
「おつかれ、ゲンガー、ネギガナイト。ふたりともいい動きだったぞ」
「げんが!」「ぎゃも」と、サトシに応じる二体の声は溌剌としている。
「みんな、つかれてない?」
 頭に浮かんだ疑問を、フーパは素直に訊いてしまった。二体とも思いきり体を動かしていたし、顔には汗も浮かんでみえる。だが、声はとても元気に聞こえるのだ。
「そりゃあ、疲れてるさ。でも、思いっきり動くと気持ちいいもんな」
 サトシの言葉に、その肩口でピカチュウが「ぴか!」と頷く。ゲンガーたちも、表情を見るに異論はないようだ。
「チャンピオンシップスに挑戦してたころは、暇さえあればトレーニングしてたくらいだったんだ。最近はずっとあちこち旅してるから、できない日もあるけど。それでも、ずっと動かずにいたら体がなまっちゃうし、バトルが好きなやつも多いから」
 な? とサトシに振られ、ゲンガーもネギガナイトも笑って頷く。
「そっかあ」
 呟きながら、フーパは二体の周りをうろうろと飛びまわった。たしかにサトシの言うとおり、どちらもすっきりとした様子を見せている。
 と、サトシがぱっと顔を上げた。
「フーパもやってみるか?」
「ぴか!」
「ほ?」

 おやつの時間をはさみ、ポケモンたちの疲れがひととおり取れてから、フーパはサトシたちとふたたびバトルコートを訪れた。
「じゃあ、フーパはそこに立って――じゃなくて、浮いて」
 サトシに示された先、コートの片側の端へと、フーパは体をすべらせる。
「で、相手は――
「ピーカン! フーパ、ピーカンとやりたい」
「ぴか!」
 のぞむところ! と言わんばかり、サトシの肩口から勢いよく飛びだした。バトルコートのもう片側の端、フーパの向かい側へと、ピカチュウは迷いなく駆けていく。
 四つ足で構え、こちらに向かう。ピカチュウの目が、まっすぐにフーパをとらえた。
「わわ……
 どきんと、フーパの胸が跳ねる。
 ピカチュウを指名したのは、もちろん、いちばんよく知っているからだ。はじめて会ったときからサトシといつもいっしょで、ふたりの仲がよいのがよくわかって、フーパはすぐにふたりを気に入った。ピカチュウはしっかりもので、頼もしくて、フーパの〝影〟に対しても、すこしも怯まず立ち向かう。フーパもよく知っているから、自分も相手にしてみたいと思ったのだ。
 それなのに、いま、知らない感覚がフーパの背中をかけめぐる。一対一で向かいあい、はじめてわかることだ。たたかう相手を、ピカチュウはいつも、この瞳で見ているのか。
「ピカチュウ、フーパ、準備はいいか?」
「ぴか!」
「う、うん!」
 ピカチュウの姿勢がわずかに低くなり、頬の電気袋がばちばちと鳴る。フーパも両手をかざして構えた。

 バトル。フーパもかつては好んでいた、と思う。ただしそれは、いまの姿を得てアルケーの谷で暮らすよりももっと前のことだった。百年よりもさらに昔、デセルの街で、はじめは住民たちに請われ、やがて自身も快楽を覚え、ポケモンたちを呼び出してはバトルを挑んでいた。相手のポケモンの都合に構うことなく、自身の強大な体と力を一方的に振るうことを繰りかえす。それはやがてバトルの枠を超え、街を破壊するまでになり、フーパが力を封じられる原因となった。
 あのころフーパがやっていたことと、いまサトシたちがやっていることは違う。おなじ〝バトル〟という言葉ではくくれないのだと、ともに過ごすなかでフーパは気づいていた。
 だからこそ、相手を見てはっきりと向かいあう、サトシたちの〝バトル〟にどきどきする。
「いくぞフーパ。ピカチュウ、〝10まんボルト〟!」
「ぴぃーか、ちゅう~!」
 サトシの指示とほとんど同時に、ピカチュウから電撃がほとばしる。――速い。
「うわわわっ」
 避けたいと思っても、体が追いつかない。ばちん、と一撃をもろにくらってしまう。
「いったあ」
「ありゃ。フーパ、だいじょうぶか?」
「うぅん」
 ぶんぶんと首を横に振り、気をとりなおす。電撃は痛かったが、これだけで動けなくなるほどではない。
 それに、一撃をもらったことで思いだした。フーパはそもそも、相手の攻撃を避ける習慣がなかったのだ。もとの姿は巨体ゆえにすばやくはない。しかし、ダメージを受けきったうえで、相手に反撃する余裕が十分にあった。
 ただ、いまのフーパはちいさな姿だ。本来の姿ほどの耐久力はないだろう。実際、すでにすこし疲れはじめている。それでも、ここで終わらせるつもりはなかった。
「だいじょうぶ! つづけて」
「わかった。じゃあいくぞ――ピカチュウ、〝でんこうせっか〟!」
「ぴっか!」
 ピカチュウの姿が消えたと思ったら、まばたきの次にはフーパの目の前に迫る。
「アイアンテール!」
 ぎらり、といなずま型の尻尾が硬く光る。あれをくらったらきっと痛い。
「えーい!」
 掲げた手のひらから、フーパは力を放った。ピカチュウの動きが止まる。
「サイコキネシス!?」
 サトシの声が驚いている。「ししし」とフーパの口もとがほころんだ。
「ピーカン、サートン、びっくりした?」
 ピカチュウは〝アイアンテール〟を繰りだそうとする体勢のまま、フーパの意によって宙に浮かぶ。動けなくしてしまえば、あとはフーパが攻撃を決められる。
 そう思ってピカチュウを見ると、ふたつの瞳がらんらんと光っていた。赤い頬袋がばちりと鳴り、口もとはにやりと笑む。
「えっ、あれっ」
「ピカチュウ、そのまま〝10まんボルト〟!」
 フーパの目前で、電撃が炸裂した。